僕らだけしか居ない星

柊木緋楽

プロローグ

今日は夏休み。

私、七倉 頼李ななくら らいりは、この日父と、従兄弟の雛野 羚ひなの れいと共に釣りに来ていた。

でも、帰りで一転、楽しかったその一時は悪夢へと変わっていった。


「ああ、もう!なんだよ後ろの車は!」

そんな父の怒号がとんだ。

私と、羚はそれぞれファッション誌を読んだりゲームをしたりして帰りの車内での暇を潰していた。

だが突如放たれた、その父の怒号に、私は羚とほぼ同時に顔を上げた。

「お父さん、どうしたの?」

そう言いながら、後方の座席から父のいる運転席に顔を出したのは私だった。

「後ろの車だよ。ずっとクラクションを鳴らしてきたりして。」

父の言葉に、私たちはそれを聞いて耳を澄ました。


父の言葉通りだった。

暗い夜道。

この辺りには私達の車と後方の車、二台以外走っているような気配もなかった。

明確だった。


……と、その時だった。

私の隣で、父と私の会話を聞いていた羚が言った。

「これってあれじゃない? ……ほら、最近良くテレビでやってる。」

私はそんな羚の言葉に、答えるように言った。

「煽り運転?」

すると、そんな言葉を聞いた羚が、なぜかやや嬉しげな声で答えた。

「そう、それ!」


「……って、そんなこと言ってる場合じゃない!」

私はここ最近起きたそれ関係の事件のニュースを思い起こしながら言った。

だが言ったのが、もう遅い事が分かった。


なぜなら、乗っている車の後方に、衝突してきている車の影が、鏡ごしに見えたからだ。




……酷い衝突音が、鼓膜を貫いた。


それは三人共に、同様だっただろう。


隣で座る羚も、ゲームを放り出して耳を塞いでいた。


一瞬後、目の前の座席は私へ近付き。


私の肉体をミンチのようにぐちゃぐちゃに潰し、魂を奪った。















気が付くと、私は白い空間の中に、羚と共に放り込まれていた。

通常ならあのあと、私の身体は見るに絶えないものになっているはず。

それなのに私の身体、そして羚の身体は、あれが起きる前の洋服を来た状態で、かなり距離が近く隣り合ったまま、仰向けに倒れていた。

「どこここ……天国?」

私は言った。

同時に左手をつき、上半身を起こす。

あたりには何もないようだった。

私はしばらく周囲を見渡し、横で仰向けに横たわる羚の姿を見つめた。

「……羚。」

私はその名前を呼んだ。

幸い、羚はすぐに目を覚ました。

「ここは……。」

羚は先ほどの私と同様に、そう呟いた。

そしてまたも同じように、辺りを見回した。

それから羚は私を見つけ、安心したような息を漏らした。

「羚。」

私は、恐らくここにいる理由を知っているであろう、彼の名前を呼んだ。

羚は直ぐにその言葉に耳を傾けると、上体を起こして言った。

「えっと……。」

そして辺りを、再度見回した。

やがて羚は動きを止め、私に聞き返した。

「何?」

私は羚のそんな言葉に、責め立てるように言った。

「聞きたいのはこっちよ。」

羚は戸惑い、困った表情を浮かべた。

「え……。」

「ここはどこなの?」

私は聞いた。

すると、彼は再度周囲を見渡して答えた。

「……知らない。見た覚えすら……。」

私が反論しようとした、正にその時だった。

『私だって、ママみたいに女神の仕事したいもんっ!』

そんな、幼い女の子のような声が聞こえ、私は動かそうとしたその口を止めた。

「なに、今の声……。それに……













……女神?」

あり得ないのは、その内容だった。







「今……女神って聞こえなかった?」

私は状況が全く理解できないまま、混乱し、困惑した表情を浮かべながら言った。

「確かに……聞こえた。」

羚は答えた。

そして私達は困惑した表情を浮かべ、先程の声の元を探し続ける。


「どこにも……誰も居ないよね……?」

辺りを見回したが、真っ白な光景が広がるだけで特に何がある訳でもなく、やはり私と羚以外は存在していないようだった。

だが、そんな時。

『あっ、こら!』

そんな声と共に、何かの姿が私達の目の前でフェードインした。

「あなたは……。」

目の前に現れたのは、白髪の、紛れもない“ようじょ”だった。


「………………は。」

私達はあっけらかんとした表情でそう呟いた。

「ママなんか入れてやらないもん! ベーだ!」

目の前には、そう叫ぶ幼女の姿。

「あの……。」

私が声掛けたその時。

「う、うるさい! あんたたちは無人星にでも行ってろ!」

そんな言葉がその子から放たれた。

「むじんせい……?」

訳が分からぬままに、私はその星の名前を口に出す。

すると。

私達の目の前が白く輝き出し、あっという間にその意識は薄れていった。

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