第8話 忍耐力の痛み

「忍耐力がないですね。最近の子たちにいちばん欠けているのはそこだと思う。才能があって、描き始めても、すぐやめてしまう」


 弓ヶ浜令ゆみがはまれいが、きょうもまた、そのインタビュー記事が掲載された週刊誌のを静かに持ち上げ、


「忍耐力がないですね。最近の子たちにいちばん欠けているのはそこだと思う。才能があって、描き始めても、すぐやめてしまう」


 日課のように、そこの記述を、ベッドに寄りすがるように読み上げ、その週刊誌の無限コピーを床に叩きつけて、四度よんど踏みつけ、発話者の顔写真に、黒い絵筆をなすりつける。


『忍耐力がないですね。最近の子たちにいちばん欠けているのはそこだと思う。才能があって、描き始めても、すぐやめてしまう』


 何十枚もの、焦げかけのトーストのように色あせた、積まれた、弓ヶ浜令が汚してメチャクチャにした、


『忍耐力がないですね。最近の子たちにいちばん欠けているのはそこだと思う。才能があって、描き始めても、すぐやめてしまう』


 、の顔写真。


『才能があって、描き始めても、すぐやめてしまう』


 絵の具を噛んで、ビリジアングリーンの色を出した。巨大なキャンバスに、ひたすら殴り倒すように、ビリジアン色の絵筆を撒き散らした。そしてすぐに弓ヶ浜令の首と背中の中心は痛み始めて、描きかけのキャンバスを蹴り倒し、彼女はそこらへんにあったスケッチ・ブックに接吻を始めるのだ。

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