第6話 豹変のさくら

 

 普通に緑魔法を撃って、普通にフライングした。

 でも、そんなこと、普通に魔法撃って普通にフライングする、なんて、いままで経験したことなかった。

 納得できなかった、というよりも、だった。


 さくらは魔法の理不尽さを生まれてはじめて味わった。


 壁にもたれて、さくらは開催の成り行きを見つめていた。

 ふと上を見上げると、曇りだった空からだんだんと雲が逃げてきて、青空の占める面積が大きくなってきている。

 さくらのこころの空もようは、青空と真反対だ。

 賞典除外しょうてんじょがい

 フライングしたことで、準優勝戦じゅんゆうしょうせん優勝戦ゆうしょうせん特別選抜戦とくべつせんばつせんに出場する権利を失う。

 戦線から離脱し、稼ぎが少なくなる。

 それに加え、フライングの懲罰期間で、試合に出場できなくなる期間が発生するのだ。

 しかし、そんなペナルティよりも、フライングしたことそれ自体が、風布かざぬのさくらには。しかも初日の第一試合で――!


 第一試合に勝利した小麦が、さくらが落ち込んでいる控え室のそばを通りかかった。

 小麦の白くてツヤのある肌が眼に突き刺さって、さくらは嫌な気分になった。

 さくらは、じぶんが顔をしかめているのがわかった。

 顔をしかめたことで、不機嫌さがあからさまに小麦に伝わっていってしまっているのがわかって、たまらない気分になって、今度は顔が熱くなった。

 きまりが悪そうに、小麦がその場を去っていく。

 さくらは、おもむろに、座布団を向かいの壁に投げ飛ばした。

 嫌われた。

 絶対に、小麦に、嫌われた。

 あんな態度をとってしまったら。

 

 さくらは、その開催、そのあとの試合で、一度も4位以内に入ることはなかった。

 試合が終わるたび、座布団やら、タオルケットやら、キャラもののぬいぐるみやらを、控え室の壁に投げ飛ばしたり、床に叩きつけたりした。

 小麦とすれ違っても、顔を合わせることができなかった。


 ある日、ホテルの部屋を、小室ひばりが訪ねてきた。

「さくら。」

「……なによ。」

「わたし、ブロッコリー、きらい。ホテルの朝食、毎回ブロッコリー、ついてくる。さくら、ブロッコリー、食べてくれない?」

「ひばりアンタそんなことで試合で不機嫌だったの!? ブロッコリーぐらい死ぬ気で食べなさいよ!! そんなことで部屋まで来ないでよバカ、バカ!! ひばりも小麦も大嫌いよっ!!」

 廊下にも聞こえるような大声で、怒鳴った。

「……小麦? なんで、小麦のことも嫌いになるの?」

 はっとして、ぎくりとして、それっきり黙ってしまった。ひばりが部屋から帰った。

 深夜まで眠れず、テレビのチャンネルをたらい回しにしようとしたが、田舎だからチャンネルが少なく、カッとなってリモコンを放り投げた。

 次第に微睡まどろみに落ちる意識の中で、通販番組のナレーションが、繰り返しグルグル回り続けていた。

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