第5話 発動(スタート)

 空に浮かんだ大時計おおどけいの針が、すでに回転を始めている。

 緑魔法の風布かざぬのさくらも、すでに詠唱を始めている。

『ロング』のスタイルを取った3人、すなわち青魔法の小室ひばり・黄魔法の小早川・緑魔法のさくら――彼女たちは、ステッキの矛先ほこさきを、頭上の『天空てんくうはしら』に向ける。

』にが、試合を制する。

『ロング』の3人に続き、詠唱スタイル『ショート』の3人、すなわち白魔法の松田小麦・黒魔法の代々木・赤魔法のトモカネも、『天空の柱』に向かってステッキをかかげ、


 大時計の針が、いまにもを刻もうとしている。


 

 松田小麦は無我夢中だった。新人のじぶんが白魔法をあてがわれるのはわかっていた。だが、第一試合にじぶんがされた、という事実は、やはり小麦をテンパらせた。的には、「ルーキーの魔法少女がいきなり開催のオープニングカードで白魔法!」という触れ込みで、を引き立たせる意図があって、その意図も小麦は理解していた。しかし、いきなり開催のオープニングカードで白魔法を任されたということが、主催者しゅさいしゃの事情がわかっていても、小麦に泣きたくなるほどの重圧を与える。

 わかっていても、重圧に重圧を重ねたような重圧が、ステッキを握る小麦の両腕全体にのしかかってくる。

 

 とにかく、とにかくコンマ15イチゴー。コンマ15。養成所の実習では、『発動スタートタイミング』はなく安定していたし。卒業演習でも、タイミングはコンマ15だったし。はやめにに乗り込んで、発動練習スタートれんしゅうをやってきたし。とにかくとにかくコンマ15イチゴー、あとは、ほかの5人が発動スタートで極端に。とりわけ、黒魔法の代々木先輩と赤魔法のトモカネさんと、それと一番怖いのは、わたしの真正面の小室ひばりちゃんで、『ロング』の起点カドから青魔法で攻めてきたら――いや、そんな事考えてるヒマ、ない! 眼をつぶれ、松田小麦! とにかく、最悪コンマ10イチゼロ!!


 大時計の針がゼロになった。


 松田小麦の放った白魔法が、『天空の柱』に向かい、一目散に飛んでいく。

 代々木の黒い魔法の光が、小麦の白い魔法の光に接近するが、及ばない。

 小室ひばりの青い魔法の光が、トモカネの赤い魔法の光にブロックされるが、トモカネの赤魔法とて、『天空の柱』に向かっていく小麦の白魔法の光には、及ばない。


 小麦は無我夢中で白魔法を念じていた。

 だから、代々木やトモカネや小室ひばりが、に気づくはずがなかった。


 

 大時計は、発動スタート判定で、していたのだ。

 しかも、――。

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