第3話 白魔法/緑魔法

 いきなり第一試合に出番がきた。ときどき夜更かしをするクセがあるさくらなので、朝の試合は得意ではない。

 しかも、一日に十二回試合があるなかで、きょうのさくらは『一回詠いっかいよみ』、つまり、この第一試合できょうの仕事は終わりなのだ。

 それに加え、第一試合であてがわれたのは緑魔法みどりまほうで、『緑魔法で50回に1回勝てたらいいほう』と言われているぐらい、不利な条件を強いられているのだ。

 そのいっぽうで、同じ第一試合の対戦相手になってしまった松田小麦まつだこむぎがあてがわれた白魔法しろまほうは、よっぽど下手に詠唱しないか、――2回に1回は、試合に勝てる。

 ただ、小麦にとって、デビュー戦がこのせつの第一試合、ほんとうの意味での、しかも勝つ確率が圧倒的に高い白魔法を詠唱するのである。九割九分、ステッキを持つ小麦の手は極度の緊張で汗ばんでいる。小麦にとって最大の懸念はフライングだと、さくらは思った。


 実と実に最も慣れていない魔法少女が、勝つ確率が圧倒的に高い白魔法を詠唱する。そして


 知り合いの魔法少女はときどき言う。

「テレビの特番で『ミニマラソン』企画ってあるでしょ? あれ、元陸上選手とか、強い選手には、『◯◯分後にスタート』って、をつけるじゃん。同時にスタートしたら元選手が圧勝しちゃうもんね。あたしたちの世界で、新人ちゃんが太刀打ちできるように、経験キャリアがあるひとが白(魔法)以外をもつようなもんだよね。

 


 それはそうだ。

 ような、公平さを保つ制度。

 ただ、これから第一試合で勝ちにくい緑魔法を詠むさくらが、詠唱者六名のなかで最強の魔法少女であるかどうかは、のだった。

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