第2話 年上ルーキー・松田小麦

 見知った顔からも声をかけられたが、わざと隅っこのほうに朝食の席を求めた。お誕生日席、という気分ではなかった。レストランの入り口から最も遠ざかったテーブルに、トレーを持って近づいて行く。

 見知らない顔の魔法少女がいた。

 身体全体が細く、こじんまりとした印象を受けた。こじんまりとしている、というのは単に体格のことだけではなかった。その佇まいが、余計に彼女の見た目をこじんまりとさせているのだ。彼女のほうが新人だから萎縮しているというのではなく、さくらの見慣れない、というかさくらの初めて見る人物だから、一言ひとことでこじんまりとしているというほうが適切に思えた。

 しかしそれもヘンな話だ。この子が実際よりもスケールが小さく見えるのは、わたしが彼女をだとしているから、ということになるのだろうか? そんなことはあり得ない。さくらは新人の魔法少女に威嚇するような眼差しを向けたり、因縁をつけたりしたことはなかった。そんな性格タチではない。だとしたらなぜこの子は小さく見えるのだろう。ひょっとしたら、無意識のどこかで、初対面の彼女を上から目線で見ているのだろうか? 先輩かぜ? そんなばかな。彼女はわたしと同年代で、ひょっとしたら年齢が上なのかもしれないし、やっぱり年齢が同じか下なのかもしれないし、わからないが、とりあえず敬語で接してみよう。

 さくらはその新参者しんざんしゃの真向かいに座り、トレーを置いた。

 トレーを置いた音で彼女が気付き、顔を上げてさくらを見た。

 きめ細かい肌。白くて、透明で、つやつやとしている。

 さくらが感じた、強烈な第一印象だった。

「わたし、風布かざぬのさくらです。去年の春からの4期め。あなたは『サウスアイランド』、もしかして初めてですか?」

「あ、あの、わたしは――今期から入らせていただいた、新人なんです」

「そうですか、じゃあ、白魔法しろまほうを使う回数が多くなりそうで、大変ですね」

「あんまり威圧すーるーなっ、さくらっ」

「横から唐突に入ってこないでください、トモカネさん」

 横槍を入れたのは、さくらより半年早くデビューした、友兼トモカネいりあである。

「さくらはきょう誕生日なんだよーっ、ようやく15歳」

「知ってたんですか、トモカネさんも」

「心外だなーっ」

「15歳……ってことは、年下――」

「松田さんはあたしとなんだよね?」

「一個上だったんですか」

「はい、トモカネさんと同い年です……」

「松田さん、もっと気安く話していいんだよ?」

「少し黙っててくださいトモカネさん」

「あのっ」

 近寄ってくるトモカネを制して、さくらは彼女の声に耳を傾けた。

「わたしは松田小麦まつだこむぎ、16歳です、小麦、ってちょっと変な名前ですけど、よろしくおねがいします」

 そう自己紹介した松田小麦の肌が、牛乳のように白く見えた。そして朝の日光の眩しさで、顔の輪郭がさらに透き通り、キラキラとしていた。

「変な名前じゃないと思います。いっしょにがんばりましょう、小麦さん」

 思わず、でも自然と、下の名前をさくらは口に出した。

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