魔法少女と大時計

ばふちん

第1話 風布さくら、誕生日の朝

 その日は風布かざぬのさくらにとって、15歳の誕生日だった。1月12日、早生まれだ。

 風布さくらは何だかよくわからない夢を見て目を覚まし、誕生日の朝を迎えた。といっても、カーテンを開けても、まだ薄暗い。冬特有の、寒々しい朝だ。さくらは起きたばかりで頭が冴えなかった。不可解な夢を観た。その夢を思わず反芻してみると、よけい漠然とした微妙な不快感が頭をもたげたので、一秒でも早くシャワーを浴びたかった。

 さくらは着ているものを大急ぎで全部脱ぎ、ホテルの部屋の床に投げ捨てた。


 3度シャンプーをつけて洗った髪を乾かす手を止めて、朝の光に白みはじめた窓の外の風景を眺めた。

 風光明媚な山々が見える。運航を開始した遊覧船がゆっくりと通過する。遠征先のこの地は、『サウスアイランド』のなかでは存在感が薄い場所ではあった。さくらは、『サウスアイランド』という土地自体が嫌いなわけではなかった。むしろ好きと言ってよかった。

 ただし、としての仕事は、この土地でははかどらなかった。魔法少女には、『ここがわたしのための場所だ!』と強く感じるような、自分の庭がある一方で、魔法少女としてのさくらにおけるサウスアイランドのように、どうしても不得意で冴えない仕事ぶりになる場所がある。


 それでも、さくらは魔法少女としての仕事をしなければならなかった。。長い靴下をはき、ブーツに足を入れる。魔導服まどうふくを羽織り、帽子をかぶり、クローゼットにたてかけていたステッキを持ち出して、専用の布で丁寧にみがく。姿見の前に立って襟を正すと、あとはもうロビー脇のレストランで、と顔を突き合わせて朝ごはんを食べるだけだった。

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