緩い顧問の日常編

 今日、僕は顧問のゆったりとした日常の一部を覗いてしまった。


 今となっては科学部の活動の一部となった農作業。

 作業着で真っ青な姿になった顧問は僕らに草むしりを命令してきた。


「草むしりかぁ。どこに科学要素があるのやら」


 ぼそぼそとつぶやきながらしぶとい草を引き抜く。

 全体重をかけても抜けないほどの強者もいた。


「俺も手伝ってやるよ」

「ありがとうございます!」


 先輩の力もかり、「大きなカブ」状態になりながらも引き抜いていた。

 

「顧問はさ、気合が入りすぎなんだよ」

「そうですね」


 先輩に言われ、顧問のほうを向いてみる。

 いつもは動かない顧問もこの時間だけは気合たっぷりだ。


 普段もそれぐらい気合を入れてくれたらいいんだけどなぁ。


 そんなこんなで部活動時間は過ぎ、僕は校舎に戻って帰る準備をした。

 今日はだいぶ疲れた。


「あっ! 軍手忘れた!」


 畑に軍手を忘れてしまったことに気づく。

 また戻らなくては。

 部活の仲間たちはどんどん帰っていく。


 仕方なく僕は再び校舎から畑へ走っていった。


 “ハァハァ”

 息遣いを荒くしながらたどり着いた先には意外な光景が広がっていた。


「え?」


 真っ青な作業着姿の顧問は持ち運べる折り畳みの椅子に座り、水筒に入ったお茶を飲みながらのんびりとしていた。


「先生…」

「おう、どうしたんだよ」


 見られて少し恥ずかしそうにした顧問は水筒のふたを慌ててしめている。

 あれ? なんかまずいところを見ちゃったのか?


「時間あるならちょっと手伝ってくれよ」

「ま、まぁいいですよ」


 なんとなく断れない状況だったので何をするのかは知らないものの手伝うことに。


「先生たちに一緒に野菜を届けに行くぞ」

「あぁ、そういうことですか」


 顧問は部活で採れた野菜を部員に分けた後、余ったものは先生たちに配っていると聞いていた。

 でもなんか野菜持って職員室に入るのって恥ずかしくないか?


 そう思いつつ顧問とともに職員室へ向かった。


「この前の野菜がまだあるんで皆さんご自由にどうぞ~」


 僕の声では無反応だった先生たちも顧問の声を聞くと飛んできた。

 さすがは教師歴が長く権力がある先生だ。


「いやぁ、いつも助かってますよ」

「科学部の野菜っておいしいんですよねぇ」


 先生たちの言葉になんだかうれしくなってしまった僕。

 

 軍手を忘れていることに気づいたのは一週間後になってしまったけど顧問の照れくさそうだがうれしそうな顔が見られてよかったような気もする。


 顧問もやっぱり面白い人だなぁ。


 新しい発見をした僕は農業への抵抗が少し減ったような気がする。

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