同級生のルイス
ルイスは平均的な美貌を持つ男だった。王子様みたい、と言い出したのは誰だったか。転校生だった彼は学園の中で代えがたい存在になっていく。
ルカは変化を見ていた。優秀な男だ、と思う。まるで最初からここに居たみたいだと思う。だからこそ変だ。美しいかと言われれば言葉に詰まる。しかし、しかしだ。そつが無い。あらがない。悪いところがあまりにもない。漂白されている。ルカにはどうしてかそう感じられた。教室で談笑するところ、杖を握って待機しているところ、興味が無いなあ、といって用事を断るところ。嫌味が無い。緩みがない。わずかな違和感はルカの目を引きつけた。つつがなく進む日常が見れば見るほど不自然に感じられるのはなぜだ?
何かが掛け違えられたような感触はついて回る。それは彼が魔法を使っているときにだけ薄くなる。流れの滞った空気がそれとなくまとわりついているような感触。ルカは変化を見ていた。ルイスへの扱いは変われど、ルイスの持つズレは変わらない。ルカは勉強の合間にルイスを見続けた。
言葉に詰まり、そういえば、とルカは言った。口は重い。気も重い。違和感の拭えないままのルイスが隣に座っている。実習中に待機命令が下ったのだろう。少なくとも自分はそうだった。きっといつも通りこのまま時間いっぱい待機を続けるのだろう。他に誰も居ない状態で自分とともに。沈黙が重い。なぜよりにもよってルイスと。きっと、ただタイミングが悪かっただけのことなのだろう。沈黙が重い。ルイスはいつも通り人好きのする顔で何をするでもなく杖を弄っている。やはりそこには言語化できない違和感がある。ルカは僅かに苛立った。困惑していたと言ってもいい。悪意があるわけでもないのに、沈黙は身の内にある違和感を致命的な事実であるように感じさせる。とにかく、何か言わなければならない。そういえば、とルカは切り出して、少し迷ってから、転校してきてからしばらくたつがどんな感じだ、と尋ねた。にこにこと首をかしげていたルイスは目を瞬いた。ルカは手を組み合わせたままそわそわと返事を待った。ルイスは答えない。痺れを切らしたルカが、俺は何か変なことを言ったか、と口に出したのと同時にルイスも声を上げたので、ルカは驚き舌をもつれさせた。ルイスは、なぜだ、と言ったようだった。
ルカはルイスをじっと見た。黒い目の中に動揺が見える。転校生だったよな、と狼狽えながらルカは訊く。そうだ、とルイスは遅れて答える。まさか自分がそうだと忘れた訳じゃあるまいな、俺は自己紹介の日のことを覚えている。その言葉にルイスは二度目の『なぜだ』を言う。続く問答の『君はいくつなんだ? なぜ覚えている?』。
奇妙な沈黙が訪れた。ルカは口を開き自分の年齢を答えた。同学年の半分と同い年で、おそらく目の前の男とも同じ数のはずだ。ルイスは動揺の抜けきらない表情で、そうだよな、すまない、変なことを訊いた、と言った。普段感じる違和感は不思議と消え、普段の飄々とした佇まいから一転してギクシャクした様子とは裏腹に、目の前にいる元転校生は随分と身近に感じられた。
(続く)
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