第111話 友


...


...


...


何が...起きた...


...


俺は...さっきまで戦っていた筈...


何と?


思考が淀む。


...


ここは...何処だ...


ゆっくりと瞳を開けると、視界に写るは—灰色―


白でも無く、黒でも無く


明るいとも、暗いとも、どちらとも言い難い霞がかった、ただの1色


「システム」


口頭によるコマンド指示を行うが、視界には何も映らない

本来であれば様々な情報・ステータスを表示するインジケーターは

瞳には何一つ映らず、ただ変わらず灰色が広がるままであった


意識が有るのであれば、繋がっているシステムは稼働している筈であり

何も表示されないという事はあり得ない事だったが

自然とその異常を、これ以上追求する意欲も

まどろみの中で湧かなかった


「これは...夢...なのか...?

 以前の物とは大分違う物だな...」


以前宿で見た夢、と思われる物

それは過去の記録の復元、再現であり

今の様に、そこに自分の現在の意思が介在する事は無かった


「なぁにマヌケ面して寝そべってんだ?」


「...っ!!」


その声に、一気に意識が覚醒し、思考が回る

慌ててその場で飛び起きる様に立ち上がり

すぐに周囲を確認する


そこには変わらず灰色の景色が広がっているだけで

そこが何かの屋内空間なのか、はたまた外なのか

距離も、上下も、自分が立っているはずの地面、床すら

目では確認出来なかった


ただその空間でただ一つ、自分のほんの数歩先に

濃い霧の中に浮かび上がるが如く人影が一つ


辛うじて僅かに見える同じアーマー

そして肩に01の文字が僅かに薄っすらと見える

顔付近は特に霧が濃くなった様に表情は影になり伺えない

だがそれは紛れも無く


「ストームゼロワン!無事だったのか!」


慌てて影に駆け寄ろうとするも、5歩...10歩...

もう目の前の相手に迫るには、十分過ぎる程歩みを進めた筈だ

なのに一向に、目の前に居るSG01に近付く気配が無い

再び近付こうするが、結果は同じであり、ゆっくりと歩みを止める


「おいおい、どうした

 そんなに俺と会いたかったのか?泣かせるねぇ」


記憶に有る頃の彼と同じ様に、掴みどころ無くおどけた様に返す影


「僕達の希望の象徴、オリジンがそんな顔しないで下さいよ」


「お、お前もっ...無事だったのか!?」


SG01の横にもう一人、同じ姿の影が一つ浮かびあがる、

遠い昔...けれど昨日の様に今では思い出せる過去

ブレイン級掃討作戦にて、難民キャンプ前でSG01から叱られ

最終作戦では一人前のガーディアンズに成長し

自分の道を切り開き、背中を任せていた青年


「僕達だけじゃないですよ」


その背後に、一人、また一人のと無数の影が

視界の端まで埋め尽くすの如く広がっていく

全員同じ様な姿をしているが、ゼロスにはその全てが明確に理解する事が出来た


「アサルト隊にバリアント隊!

 サラマンダー!バスターにスピリットも!

 ...っ!...欠番オリジナル!皆ここに居たのかっ!」


再びゼロスが駆ける、全力で。


何故か体に備わっている筈のアクチュエーターも

バーニアも作動しなかった、だがそんな事には構わず

ただただ自分の力で走る


しかし幾ら走っても、その誰にも手が届く事は無かった。


「はぁ!はぁ!はぁ!」


息が切れる


この体になってから走るだけで

息が切れる事など無かった事だが

ゼロスにとって今、そんな事はどうでもよかった


「はぁ!はぁ!...はぁ...はぁ...」


徐々にスピードを落とし、やがて立ち止まり、膝を抱えて息を整える


「...そうか...俺はまだ...皆の所へは行けないのか...」


何故彼等に近付けないのか、論理的な思考による物では無い

だが、心がそう結論付けた


「そうだ」


SG01が返す


「俺はまだ、戦わなければいけないんだな...」


「そうだ、お前にはまだ守らなければならない物が残って居る筈だ」


SG01の言葉に、青髪の少女の姿が脳裏に写る


「お前はオリジナルである前にガーディアンだろ

 ガーディアンでありながら守るべき物を目の前にしながら

 何もしない、なんて事はここに居る全員が許さねぇ」


「...」


「そしてそんな奴ぁ...ダチでもねぇよ

 まっ、俺のダチにはそんな奴一人もいねぇけどな、なぁ、戦友?」


「......そうだな、お前の...俺達の友にそんな奴は居ないさ」


共に口元に小さく笑みを浮かべる

二人にとって、これ以上の会話は不要だった


その背後に並ぶ数百にも及ぶ影もまた、

直接見えはしないが、同じ表情を浮かべている様に思えた


「この命尽きるまで、やれるだけの事はやってみるつもりだ

 しかし、敵性勢力との戦力差は大きい

 そして再び世界にまたアデスの脅威が迫っている...」


「泣き言かぁ?随分と弱気だな」


「事実を言ってるだけだ」


「まっ、心配すんな、お前は一人じゃねぇよ」


「...?彼女達の事を言ってるのか?

 彼女等は非戦闘員だ、軍隊経験のある者も居るが、技術水準が違いすg―」


「ちげぇよ、あのお嬢ちゃん達も立派なお前さんの仲間だが」


「ならば何の事だ」


「悲しいねぇ...目の前に居るじゃねぇか?」


「何を言っている、お前達はもう...」


「そうだな、俺達はもう直接お前に手を貸す事は出来ねぇ

 だが力を貸す事は出来る、ん?おっと、もう時間か」


突如当たりの灰一色の景色が徐々に明るみを増し

灰から白へ、輝きを増し始める


「ま、待て!それはどういう意味だ!?

 それに俺はまだお前達と話したかった事がっ!」


「へっ、散々無口だった奴が随分と社交的になったもんだな

 心配すんな、いづれ分るさ

 俺達は何時もお前と共に有る

 お前は決して一人なんかじゃない

 その力が、お前には有る」


目も空けて居られぬ程に一面が輝きに染まる中

そう言うと、薄れ行く影が右腕を伸ばし、手の甲を突き出す仕草をする


もう声を発する事は出来なかった

最後にその影の手の甲に、失った筈の自分の腕の甲を突き出すと


ギィン......


懐かしい金属を打ち鳴らす音が、確かに耳に響き、そして


「頼んだぜ、最後のラストガーディアン

 またな・・・、戦友」


最後にハッキリと友の声がゼロスの脳裏に響いた

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