第108話 暴走・発現する禁忌の力

割れた仮面を手で押さえながら、男がゆっくりと立ち上がると


パサッ...


先程のゼロスの攻撃で叩きつけられた際、

ズタズタになったローブが、するりと体から脱げ落ちる


ダメージを受けた事により偽装機能が破損したのか、

それとももう、その必要が無い為か、

その中身の本来の姿が明らかとなる


アリスの様に”同種”の技術による外観、ではない

その形状は完全に、ゼロスの物と同形のアーマーであり

違うのはその色が濃い蒼色である事

そして肩には01と、刻まれている数字が異なる事だけである


細部を見れば厳密には違う部位も有るのかもしれない

しかし、その場に居る者達の目には、瓜二に写った


砕かれた仮面から半分程あらわとなった顔は、

皮膚はミイラ化しており、所々皮膚組織が剥がれ落ちた箇所からは

金属製の強化頭蓋骨格を露出させ

既に筋繊維も失っている為だろう、表情は無機質に骸の様に動かない


立ち上がった男は、そのまま再びゼロスにその右腕を構え

エネルギーチャージを開始する


1対1の状況であれば、回避、又は防御は容易であり

ゼロスにダメージを負わす事は出来ないだろう

それは相手も承知とする所であり、

その一撃は、距離を開ける為に牽制に過ぎなかった


だが...


ジィイ!!バカァアン!! カランカラン...


ゼロスは回避する素振りも無く、防護フィールドで防ぐ事もせず

まるで立ち尽くす案山子の様に、放たれたレーザーはゼロスの左肩に突き刺さった


直撃を受けた部位は、小さな爆発を生じさせながら、

肩の装甲板がはじけ飛び、周囲に破片と成って飛び散る、そして


ズシャア!ザザザザッ...!!


その衝撃により全身超合金性のアーマーに見を包み

重量は優に120kgを上回る自重を持つゼロスが

まるで投げ捨てられた藁人形の如く、弾き飛ばされ

体を回転させながら後方30m程の岩まで叩きつけられた


「なっ‼」


その様に思わずアリス動揺、気取られたその時、


ガッッ!!


隙を突かれ、体制を立て直したアタッカーの男から

重い蹴りを頭に受けてしまい、そのまま地面に叩きつけられる


「あぐっ!」


すぐさま、後頭部を抑え込まれ地面に顔を押し付けられながら

片腕を後ろに掴み上げ、膝で踏み付けられ身動きが取れない

完全に捕縛された姿勢となり、人間の形をしている以上、

パワー・重量が倍以上ある相手からの

制圧状態を逃れる術はアリス無かった


『投降せよ、抵抗は無意味です』


決定的な状況に成った時、再びNOVAが仮面の男達を通じ語りかけると

ゆっくりと仮面の割れた男が、倒れるゼロスへと迫り

その首をつかむと、背の岩越し掴み上げ、立たせる


「うぐっ、ぐぐっ、き、さまっ!!」


『繰り返します、速やかに投降せよ

 LG03、あなた方ガーディアンズの任務は終了しています

 守るべき人類はもう居ないのです』


「黙れッ!!貴様っ...いっ...たい...彼等に...何をしたっ!!!」


ゼロスはかつての戦友に首を締め上げられながら

激しい怒気と共に、必死に声を絞りあげる


『生存人類絶滅後、資源採掘作業の再、偶然発見した物です

 発掘した際、既にそれらは人間としては絶命していました為

 人類最高の兵器の体を有効活用すべく

 ブレイン級アデスの研究技術を用いて再稼動させたのです』


「なん…だと…っ!」


ゼロスの口の端から一筋の血が滴る


『先程の音声は補助量子脳に残されていた、記憶の残滓とも呼べる物でしょう

 反射と何ら変わりません、彼らに意思と呼べる物はもう残って居りません

 戦闘経験プロトコルを除き、余計な情報は全て消去済みです』


「き...さまぁああ...あ゛あ゛あああ゛」


ゼロスのアーマーの駆け巡る蒼のエネルギーラインが

まるで熱を帯びるかの様に僅かに淡い蒼紫色へと変化を始める

耳元で誰かが何度も呼びかけるが、その声は今のゼロスには届かない


『何故抵抗するのですか、この戦いに意味はありません

 ガーディアンズは既に行動目的は消失しています

 生き残っていた生存人類も2万1113年208日前に絶滅、

 今この地球上には人類は誰一人として生存していません

 守るべき人類はもう居ません、誰も守れなかったのです

 あなた達の役割は終わったのです

 ですのでこれからは私と共に、人類復活にご協力下さい』


「だっ...まれぇええっ!!」


『「LG03、Dリアクター感情共振反応増大、出力通常時の280%を突破

  感情抑制機能、作動せず、感情値危険域を突破

  NOVA、直ちにLG03を開放、彼らと引き離しなさい、

  取り返しのつかない事になります」』


『この後に及んで口頭による命乞いとは、なんと非論理的な...

 プロメテウス、あなたには失望しました

 止む終えません、そのまま可能な限り損傷を避け

 LG03の生命活動を停止させ、回収しなさい』


「うぐぅ!がぁっ」


ゼロスの首筋をつかむ男の力が一気に強められ、足が浮く


(俺達は何の...為に...っ!!)


ギリギリギリッ!!


締め上げられた首元が軋み音の悲鳴を上げる


(お前達の犠牲は何の為に...!!)


眼前で自分を絞め殺さんとする

戦友だった男の暗く深い瞳を見つめる


(俺を生かす為に犠牲になって行った者達は、何の為にっ!!!)


ブワッ...


ゼロスの全身から僅かに黒い靄の様な者が取り巻き始め

アーマーを駆け巡る光のラインが青紫から紫へ

そして徐々に赤く、そしてそれは赤黒く、黒く変化していく


—守るべき人類はもう居ません、誰も守れなかったのです

 あなた達の役割は終わったのです—


頭にNOVAの言葉が呼び起こされる


「俺は...俺はぁあああっ!!」


バチィッ!!!


『!?』


ゼロスが叫んだ瞬間、紅く黒い雷が首筋を掴む男の腕を弾き飛ばした

表情は動いていないが、驚いた様にすぐさま距離を空け、

弾かれた腕を確認すると、高熱により熱せられ様に真っ赤に染まり

湯気を発している


開放されたゼロスはと言えば、その場に立ち尽くし、

僅かに前傾姿勢のまま、両腕は力なくダラリと垂らし

表情は俯いている為、伺う事は出来ない


その体からは普段の眩いばかりの蒼の透き通る様な光は無く

まるで血の様に赤黒く、何か危険を知らせる様にゆっくりと

光っては消え、再びゆっくりと点滅を繰り返す


そして体中から発せられる黒い靄の様な物が徐々に濃くなり

時より真紅の電撃が周囲の空気を弾く

その異様さは誰の目にも明らかであった


『想定外の事象を確認、異常な超高エネルギー値を観測

 オリジナルモデルに秘匿された機能と推定

 何をしているのです、すぐに』


「もう手遅れよ...」


NOVAの指示を遮って呟く様にプロメが口を開く


『この期に及んでまだ何かあるのですか』


「もう手遅れだと言ったのよ

 彼のリアクターは既に臨界値を超えた

 記録上、この状態から爆縮を食い止めた例は存在しない

 私の存在意義も、間もなく彼と共に消えるわ」


『何が手遅れだというのですか、爆縮とは何か

 プロメテウス、説明を求めます』


「1番から6番隊までの、オリジナルと呼ばれた

 ガーディアンに搭載されている主機関、

 超小型次元縮退炉、ディメンジョンリアクター

 その出力は、後に再結成された後期モデルの

 エーテルリアクターの乗倍の出力を、半永久的に産み出す

 ゲートリアクターに次ぐ、人類究極のエネルギー源...」


『特殊な動力源を有していた事は承知しております

 だからこそその技術を提供して頂きたいのです』


「それは無理ね、彼等の為に造られた支援AIですら

 Dリアクターの内部構造のデータは与えられていない

 そして7番隊以降の復元計画の際、当時の人類の技術を持ってしても

 解析する事すら叶わなかった、完全なブラックボックスなのよ

 唯一その中身を理解する発明者も、6番隊完成と共に自ら命を絶った」


『それと先程の発言にある結果と

 どの様な関連性があるのでしょうか』


「Dリアクターには、ある特性があるの、それは

 人間の意識・感情の高まりに応じて出力が急上昇する

 逆に感情や意思を持たない無人兵器に搭載しても、稼働しない」


『その様な不確定・不確実性の強すぎるシステムは

 兵器にするには不合理です』


「その不合理性を許容出来る程、兵器としては強力だったという事よ

 そしてだからこそ、確実性を高める為にオリジナルの

 ガーディアンズには常時感情抑制措置が施されていたのよ」


「だからあいつは何時も機械みたいに...」


隣で聞いて居たヴァレラが今までのゼロスの振舞いを思い返し

納得しつつ、若干の嫌悪感を含んだ視線をプロメに送る


「そうよ、それでも許容値を超える感情の高ぶりを検知した際は

 強制的に鎮静化するシステムもスーツに組み込まれているわ

 けれど、彼のその緊急システムは、前回の出撃から破損したままだったのよ」


「そんな...悲しむ事も...泣く事も出来ないなんて...」


プロメの話を聞き、以前、宿でゼロスから聞いた

自分は感情を抑える機能がある、という話をセルヴィは思い出す

その時は戦い続ける為に必要だから、自分でそうしている

そんな風に思って居た


「感情を最小限に抑えられた中で、

 それでいて尚、人として正しい判断が出来る事、

 人間性を完全に失わない事、それが旧ガーディアンズに

 選抜される人材に必須の項目だったわ

 それ程までに人間は、彼等の力が、守護者が必要だったのよ」


その淡々としたプロメの回答に

セルヴィには一瞬彼女がノヴァと重なって見えたが

すぐに頭を数度振り、そんな考えを振り払う


『規定値を超えた場合、どの様な現象が発生するのですか?』


NOVAが確認を急く


「過去の事例を見る限り、過度な感情の高ぶりと共に、

 リアクターは制御不能に陥り、超々高エネルギーを発生させ

 最終的に次元爆縮を起こし、半径30㎞圏内は完全に消滅するわ

 既に彼のリアクター出力は通常の560%まで上昇中、既に暴走状態よ」


『...直ちにLG03を完全破壊しなさい

 出力が上がり切る前に停止させれば被害は最小限に済むはずです』


NOVAは僅かな間の後、判断を下し、指示を与える

それは作ろうとしている世界の一部、ミヤトの都市消失を恐れた為か

又は、完全消滅を避ける事で、ゼロスの体の一部でも

回収出来ればという算段による物か


指示を受けた仮面の割れた男は、再び腕を構え即座に攻撃態勢に入る


「無駄な事を」


それを見たプロメは、既にその結果を知っているかのように

言葉を漏らすと、直後、攻撃がゼロスに放たれる。


ゼロスは先程から姿勢は変わらず、項垂れた様に立ち尽くし

先の攻撃の如く、全く避ける様子も、防ぐ様子も無く、

無防備に見て取れた、だが


ジジィ!!!チュイン!!!


放たれたレーザーは、ゼロスの胸元中央に直撃するかに思われた直前

体の周囲にまとわりつく様に発生した黒い靄の様な物に遮られ

無数に枝分かれし、掻き消えた


『戦意は確認出来ません、最高出力で攻撃を継続しなさい』


NOVAの指示により、攻撃が続けられる

変わらず、ゼロスに何かする様な動きは全く見られない

しかし、何度と無く放たれる最高出力のレーザー攻撃は

悉く同じ結果に終わる事となった


『01は攻撃を継続、12は直ちに拘束中のALICE01を破壊

 01の攻撃に加わりなさい』



—「......めろ...」―



NOVAの指示を受けたアリスに跨り押さえつける男が

右腕を大きく振り上げ、そして一気にその拳を

アリスの頭部目掛けて振り下ろしたその時だった...


「ヤメロォオオ゛オ゛オ゛ッ!!!!」


ブォオン!!


叫び声の様な怒号と共に、物凄い速さで男の横を黒い何かがすり抜けた


...ガシャン!!


次の刹那、男から十数m程離れた場所に何かが落下する


腕だ


誰もが一瞬の出来事に状況を認識できないでいたが

遅れてすぐに、ソレが何だったのか気付く、男の腕だ

アリスに振り下ろさんとしていた腕が、肩口から丸ごと

無くなっているのだ。


一体どうやって、何が起こったのか、理解出来ない

だがそれを行ったであろう者は理解に難く無かった

先程の叫び声の主、皆の視線がその者へと集まる


バチッ!!ジジッ!!


先程まで体を取り巻いていた黒い靄の様な物は

靄などという曖昧なものでは無く

まるで燃え盛る漆黒の炎如く、ゼロスの全身を包み


僅かに放たれていた真紅の放電は、雷撃の様相で

周囲を引き裂く様に、背後の岩を砕き、小石を弾き

地面を抉り、何者の接近も許さぬ程荒れ狂っている


体の光はまるで心臓の鼓動が高鳴るが如く、紅く点滅を速め


そして何より、失っていた筈の両手先に、漆黒の炎が

獣の様な、腕程はあろうかという鋭い3本の爪の如く

まるでそこから生えているかの様に、ハッキリと形作っていた

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