第107話 激突

睨み合っていた仮面ローブの男達が一斉に動きを見せる

3方向に互いに一定距離を取ると、同時に飛び掛かった


すぐ様ゼロスの隣に立っていたアリスが、そのうちの一人の迎撃に飛び出し

相手の内一人もそれを見て対処に動くが

残る二人はアリスに目もくれず、目標をゼロスに絞り、迫る


二人は勢いを殺さずそのままの体制で一人は右腕を振り上げ

もう一人は左膝を前に突き出し、右足を後方に沈め蹴りの姿勢に入っている


ガァンッ!!!


重い金属の衝突音が一斉に重なる


ゼロスは手首の無い左腕の肘で、膝を曲げ左足で、

それぞれ受け止めるも、二人がかりの攻撃に対し

踏ん張る右足が草原を抉り、3メートル程姿勢を崩さないまま後ずさる


二人の仮面ローブの男の攻撃はやはり、尋常でない重さを帯びており

それ程の衝撃が加えられたにも関わらず、一切の変形や破損は見受けられず

この時代の技術による鎧の硬度ではない事は明らかだった


その実力は最低でも先程戦ったアリスと同等、もしくはそれ以上か、

加えて体格差もアリスより二回りは大きく、自分とほぼ同等、

一撃の重さは確実に上だ


「大丈夫か」


すぐに一人を受け持っていたアリスを横目で確認する


「心配無用...それより...そっちは二人掛かり...注意...」


確認すると彼女は敵の初撃を回避したのだろう、

反撃のわき腹への回し蹴りを相手にガードされている状態であった

直ぐに相手から飛びのき距離を開ける

先程の際起動の影響からはかなり回復したように見える

これなら早々に遅れを取る事は無いだろう


重量とパワーが、格上の相手に、ヒットアンドアウェイを取る

その戦い方は正しい、先程の自分を相手にしていた時の様に。


「プロメ、再度復唱してくれ、先程は聞き取れなかった」


目の前の立ちはだかる二人に向き直り、

間合いを保ちつつ、互いに次の一手のタイミングを計る


『LG03、直ちに戦闘を中止、撤退を進言』


自分の事をコード名で呼称するということは

正式な支援AIとしての要請である


「この状況で追撃を振り切れるとは思えない

 それに護衛対象も居る、撤退は出来ない

 それはそちらでも把握しているはずだ、

 にも関わらず何故だ、この仮面の敵について何か分かったのか?」


『その質問に答える事は出来ないわ、

 承知してると思うけど、最終作戦時から

 現在のLG03の精神安定化プロトコルは

 完全ではない、精神安定及び戦闘行動に、

 著しい支障をきたす恐れがあるわ』


「......了解した、だが今は敵への対処を...最優先するっ!」


釈然としないが、プロメが戦略支援AIとして、

その様に言うからには、相応の理由があるのだろう

だが現状他に選択肢は無かった。


ゼロスが言い終えるか終えないかの時、対峙する二人の

やや後方に位置する一人が動く

右手を翳しその右手を左腕で押さえ込むと、淡い光りを発し始めた


ローブから覗かせる伸びた腕は、チェインメイルの様な表面を見せつつも

光の激しさが増すに連れて、映像が歪むように乱れ、時より機械部分を除かせる

その様から、ゼロスと同種の偽装を行っていると見られる


(やはり同じ技術か...敵は彼女アリスと同じアンドロイドなのか?...っ)


一人はそのままの状態で、射撃のタイミングを計ると同時に

残りのもう一人が距離を詰め、姿勢を低く保ったまま

腰下を掴みかからんと突進する


(一人はこちらの動きを止めるのが目的か...

 もう一人はそこを狙い打つ...ならばっ)


ゼロスの胴につかみかからんと一人が飛び掛った瞬間

直ぐに跳躍し、飛び退く様に上方に回避、

その動きを追うようにもう一方の男の翳した手が動く


そこまではゼロスの読み通りであった

次の瞬間、3m程飛び上がった所で、情報に回避すると見せかけ

背部、肩部バーニアを全力で吹かし、空中で軌道を突如変え、

一気に飛びかかろうとした眼下の男に膝を打ち込む


だが、膝が男の腰元に打ち込まれようとした瞬間、

タックルの姿勢に入って男が、ぐるりとその場で体を返し、

背を地面にこすりつけながら、腹付近で両手を重ねる様に構え

急降下し、勢いと共に全体重を乗せて叩きこもうとしていた

ゼロスの膝を、受け止めた


(読まれたか?!)


そしてもう一方の男も、狙いを上方に釣られる事無く、

すぐにこちらに照準を合わせており、即座に高出力の一撃を放つ


すぐさま回避を試みるも、打ち込んだ膝の装甲部を

ガッチリと掴まれ、離れる事が出来ない


「チィッ!!」


回避が封じられた為、すぐさま両腕にフィールドを集中させ防御の体勢を取る


ジジジジィィイ!!!


激しいスパークと電磁放射の音を立てながら、

レーザーがエネルギー放射となり四方へと飛び散った

幸い一人だけの照射であれば、防御フィールドを集中展開する事で

十分防ぎ切る事が出来た


レーザー照射が途切れると同時に、

もう一方の足を膝下の男の胸部に叩き込み、地面にめり込ませながら

その場から飛びのき、もう一人の男を確認すると

流石に高出力の攻撃を、早々連発は出来ぬ様子で、今回は追撃は無い


地面に体をめり込んだ男は、程なく何事も無かったかの様に立ち上がると

軽くローブについた土を払い、再び射撃支援の男と重なる様に陣形を取る


(こちらの機動性は先程のアリスとの戦闘を

 観察していた際、取得したのだろう

 だが、動きまで完全に読みきられるとは...

 なんだこいつらは...アンドロイドではないのか?

 まるで熟練した兵士同士の様な、息遣いの様な物を感じる...)


すぐさま状況を分析しつつ、再びアリスの方を見ると

変わらず彼女の方は、敵の攻撃を完璧に回避しつつ

時折反撃まで加えてはいる、だが決め手が無いと見える


彼女の武装はほぼほぼ、先程の戦闘で自分が破壊してしまっている


武装が無い事、決め手がない事ついては、自分も同様であった、

現状、連中に最も有効打を与える事が出来るであろう

背のクサナギを取る両手先は失ってしまっている


相手も武装を持つタイプでなかったのは不幸中の幸いであるが

それもこの先使わぬ保障も無い、油断は出来ない状況だった


加速させた思考を瞬時に張り巡らせている刹那

再び次弾発射の用意が整ったのだろう

再度仮面ローブの男2人による、猛襲が始まった


防御に集中すればレーザー照射は防ぐことが可能である

しかしその間は、もう一報を制圧していなければならない

どちらかへの対処が掛ければ、致命傷を受ける事は必至


直接近接戦を仕掛けるアタッカーと

遠距離から一撃必殺を試みるバックアップ

非常に厄介なエレメントである


加えて近接戦を仕掛けてくる前衛役は、単純な打撃のみにならず

隙あらば捕縛、掴み技に持ち込もうとする為、単純な防御ばかりも出来ない

あらゆる武術を取り入れ、相手を制圧する為の技術、完全なコンバットアーツだ


支援射撃側を行うバックアップ役も、決して無駄うちはせず、

ここぞと言うタイミングを常に見計らい

確実にこちらが防がねばダメージを追う一撃を叩き込もうとしている、

位置取りも、こちらから仕掛けずらい位置を、常に良く捉えて動いている


「くっ!良く連携が取れている!」


迫る前衛の攻撃をかわし、バックステップにて相対速度を合わせつつ、

こちらも数十のレーザーによる迎撃を試みるも

相手側のフィールドにより当然のように弾かれてしまう

その隙に背後の狙撃待ちを狙おうと試みるも、

それも読まれており、すぐに前衛が邪魔に入る


(...やはり収束型の高エネルギーの1撃で叩き込まなければ駄目か

 しかしそれでは、その隙にもう一方にやられてしまう...

 相手は二人とはいえ、個としてみれば

 スピードは彼女アリスの方が格段に上だった筈

 なのに、このやり辛さは何だ...

 これではまるで、昔行ったガーディアンズ同士による模擬戦の様相ではないか、

 ...いや、まさか...先ほどからの奴らの動きは...)


「対ガーディアン・コンバットエレメント...っ!

 貴様ら、どこでその戦闘プロトコルを手に入れた!」


仮面ローブの男達は、ゼロスの言葉に

一切答える様子も、言葉に反応する素振りすら見せず

無言のまま攻撃の手を一切緩めない


「無駄...彼らは話さない...アンドロイドのネットワークにも繋がっていない...」


直ぐ横で舞うが如く、敵の攻撃を交わしながらアリスが答える


「奴らを知ってるのか?」


相手の蹴りを肘で弾きつつゼロスが問う


「ずっと昔、何度か...見た...

 最後に見たのは亜人大戦の局面...

 その時は...13体居た...

 亜人の勇者達...特・異能体率いる異能体達と戦いで...

 その多くほ葬ったのが...彼ら...

 その時彼らからも何体か...犠牲は出た...」


「こいつらは何者なんだ、君と同じアンドロイドではないのか」


「分からない...私のデータには...無い

 私達とは...別の命令系統で...動いていた...

 動かなくなった固体も...彼らが回収した...」


(少なくとも1万年以上前から複数存在している...

 彼女はアンドロイドの中でも特別なモデルだった筈だ

 それと同等か、それ以上の性能を持つ個体が、複数...

 その詳細を彼女ですら把握していない存在...

 一体何者なんだ...何か...嫌な予感がする...)


その後、余談を許さぬ駆け引きが繰り返され

多くの削り傷がゼロスのアーマーに刻まれていくが

そのどれもが致命傷に及ぶレベルには至らなかった


ゼロスは何度かバックアップの射手への直接攻撃を試みたが

その悉くをアタッカーに阻止されてしまった

まるで長年共に歩んできたかのごとく、この二名は妙に連携が取れている


アリスが受け持っている3人目も共に、そうであるのか、

そうでないからこの2人が、自分に宛がわれたのかは分からない


アリスの方はと言えば、時より高出力の一撃を叩きこうもしている様子は伺えたが

確実に命中させなければ大きな一撃は、最大の隙ともなる

スピードでは勝っている物の、中々その好機には恵まれない様子だった


(このままではジリ貧だ...有効な一撃を叩き込むには隙が無さ過ぎる

 何か決めては...武器さえあれば...

 しかしこの手ではもうクサナギは...)


一瞬自分の消失した手先に視線を落としたその時


「そうかっ...!プロメ、戦術提案

 今からデータを送る、これを彼女アリスに転送してくれ」


『戦術提案データ受領...これは、無理よ、規格が合わないわ

 それに突然こんな連携なんて...』


「構わない、0.6秒は持つはずだ、それに

 先程刃を交えた、十分彼女なら理解できるはずだ」


『...了解、提案を受諾、ALICE01への転送完了』


プロメの返答と同時に、僅かにアリスが反応すると、こちらへ振り向いた


「貴方...正気...?」


「ああ、現状最も有効な策だと判断する」


「どうなっても...知らない...」


「承知!」


するとゼロスとアリスは互いに正面の敵に対し大振りの一撃を繰り出し

ガードした相手を、数メートルほど後ずさらせると、その場を飛びのき

互いに背を向けた状態のまま背中合わせの距離まで急接近する

それに対して両者の相手もまた、直ぐに体制を建て直し、追撃にかかる


そしてゼロスとアリスが、両者敵に挟まれようとした時


「WODシステム起動!!出力120%、リアクターエネルギー直結!!

 クサナギモード:アマノムラクモ!」


ゼロスの背に収まるクサナギの鞘から激しく翠の閃光が溢れ始め

アリスが両手を顔の横から後ろへ背を向けたままクサナギの柄を握り締めると


【システムロック・使用者認証出来ません】


ゼロスの網膜に警告が表示される


「構わない、そのまま切り抜け!!」


「...わかった!」


アリスが全力でクサナギの柄を掴む両手に力を込めた次の瞬間

ゼロスの背の、機械仕掛けの鞘を切り裂きながら

側面から、眩い翠色の光と共に、エネルギーの刃が姿を現す


刃はそのまま背の収納ユニットの基部ごと破壊しながら

アリスは解放された刃を、一気に目の前に迫る敵の足元まで降りぬいた


刃は一切の抵抗をアリスの手首に与える事無く、地面まで降りぬかれ

翠の残光を縦一閃に残し、敵はその場に崩れ去った

そのまま間髪居れずに横一線で背後のゼロスに迫るもう一人に振りぬくが


キィインッ!!!


その時には既にクサナギの刃に光りは失われ

ただの超超合金製の刀へと戻っていた為

相手を切り裂くには至らず、甲装甲によりガードされてしまった


「良くやった、十分だっ」


が、続いてゼロスが全身のアクチュエーターの出力を最大に

一気に掛け出すと同時に、背部のブーストを吹かし、弾丸の様に駆け抜ける

その相手は、眼前に迫っていたアタッカーではなく

後方の射撃担当に対してである


腕を突き出し、射撃姿勢をとっていた為、

ゼロスの急な突進に回避行動が遅れた


ゼロスはそのままの勢いで、手首から先を失った左腕を

相手の顔面、仮面に叩きつけ、そのまま地面へと殴り倒した


ガァアン!!


地面に頭部を叩きつけられた男は、そのまま頭部の周囲に

小さなクレーターを作り、半分ほど地面の中にその後頭部をめり込ませる

通常の人間であれば、その頭部を完全に潰している所であるが、原型は留めている


それに一瞬気取られた、刃を受け止めていたアタッカーの男の気がそれた瞬間、

アリスはすばやくガードされた刀を引きかえし、

刀の柄の根元を自分の腹部付近まで持ってくると、

もう片方の手の平を剣の柄の底にあて、一気に刺突を繰り出す


剣先は金属の隙間に石を擦る様な音を立てながら

男のわき腹付近を貫いた


貫かれた男は、即座に下がり刀を引き抜くと

僅かによろめきながらアリスから距離を取る


「今のうち...とどめを...!」


「分かっている!」


ガシャガシャッ!  キュィイイイイッ!!


肩膝に馬乗りになった状態で、左腕の全レーザー開口部を開放

甲高い轟音と共に、エネルギーを左腕その物に集約させ

淡く光と放電を纏う腕を振り上げ、倒れる男にとどめの一撃を

振り下ろさんとしたその時だった



-いた...い...-



キュウウゥン... カシャッガチャ!


ゼロスの左腕に溜まっていた居たエネルギーの光りは霧散し

左腕の開口部が全て閉鎖し元との状態へと戻り

その腕が振り下ろされる事は無かった


「なにを...」


アリスがゼロスに目を向けると

そこには男に馬乗りのまま、ゼロスが片腕を振り上げ

驚愕ともいえる表情を浮かべながら一点を見つめていた

その方向には、腕を振りおろさんとしていた男では無く

先程アリスの攻撃によりダメージを負い

脇腹を押さえながら立ち尽くすアタッカーの男に対してだ


『LG03!その声に耳を傾けては駄目よ!!』


プロメからゼロスに通信が入っている事をアリスも感知する

しかしゼロスにそれを聞きとめている様子は見られない

ただただ大きく開いた瞳を震わせながら、男を見つめ続けている


--------------!!


耳元で誰かが何度も怒鳴るように呼びかけている

しかしゼロスの中ではそれが遠くの壁越しに曇るように

頭には届かない、今頭の中を占めているのは、先程確かに聞こえた

アタッカーの男の声、大事なのはその言葉その物ではない、

その声に対し、ゼロスの音紋照合が即座に意識と連動し起動した


網膜センサーに該当情報が映し出される


【声紋に該当する人物記録、有


 SGSS07所属 ストームガーディアンズSG-12】


―馬鹿な...あり得ない...彼らは最終作戦で...俺の後ろに...彼と...―


「いてぇ...」


次の瞬間新たに、足元から掠れる僅かな声が聴覚センサーに入る

まるで何か恐ろしい物から必死に逃げるように、

ゼロスはその場を飛びのき、後ずさった。


【声紋に該当する人(やめろ!!!)


 SGSS07所属 ストームガーディアンズSG-01】


その時、眼前に倒れていた仮面の男も、

ゆっくりと上半身を起こそうとすると同時に


バリン...


先程、強烈な一撃目を、顔面に叩き込まれた男の仮面が、半分崩れ去った


その仮面から除かせる顔は、皮膚は干からび最早ミイラとなり

髪は枯れ草の様に完全に色を失いしわがれ

一部の皮膚は剥がれ落ち、内部の金属骨格が露出

眼球の水晶体は完全に消滅し、深い闇の奥に

僅かに赤く光る聴覚センサーを残すのみであった


しかし除かせるその顔には、確かにゼロスには見覚えのある人物の面影があった


かつて自分を友と呼び、肩を並べ、最終作戦に於いても

その背中を預けていた戦友


その瞬間、ゼロスの中で世界が止まった


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