第106話 交渉決裂

「断る、貴様は完全に暴走している

 人類にとって現状、最大の脅威と判断

 俺達ガーディアンズの敵だ」


ゼロスが正面に佇む仮面の男達を通して、

先に居るNOVAを倒すべき敵と認識

肘から先を失った右腕と、小手から先を失った左手を構え、見据える


『私が暴走している?システム再チェック...否定。

 過去にも度重なる自己診断を行っておりますが

 1度もエラーを検知した記録はありません

 その結果から当システムは正常に機能していると断定

 LG03の判断は人間特有の不合理な解釈による誤りです』


ゼロスの言葉に、NOVAが律儀にも瞬時に自己診断を行い、否定する。


「2万年前に生存していた人類の生存者達を滅ぼし

 そしてあまつさえ、100万年前、人類がほぼその総人口

 260億もの犠牲と、その持てる全てを投入し、

 最終的に成し遂げた、ゲート封印を、今、全て台無しにして

 再び世界をアデスの脅威に晒した自覚はあるのか!」


ゼロスは眉間に皺を寄せ。無い筈の拳に力が籠り、

傷口から僅かにエネルギーを迸らせる


『表現が抽象的に過ぎます、口頭での質問は明瞭簡潔に願います』


ギリッ...


回答と共に迸る放電が勢いを増す


「ゼロス、感情値が上昇を続けているわ、落ち着いて」

 

「了解した、すまない」


プロメの静止を受け、姿勢はそのままに腕先から放たれる放電が止む

先程のフレイア同様、普段寡黙な者が感情を露わにすると

周囲の者は返って冷静になるのだろう、再び沈黙が辺りを包む


「生存人類の絶滅、並びに現状の東京ゲートのコードΩ発動は

 AI.NOVA5561、あなたが引き起こした帰結だと言う事を、

 認識出来ているか、と確認して居るのよ」


プロメが目の前のソレに解る様に言葉を変え再び問う


『その認識は誤りです。

 生存人類が滅びたのは自己の結果であり

 私は忠実に生存人類の指示を実行しただけです

 その命令プロトコルにエラー・違反は一切見受けられません

 

 及びコードΩ発動に関しては、ゲート施設に関するデータは

 最高機密であり、当データバンクには最小限しか提供されておらず

 その記録によれば最終作戦後、ゲート施設は周辺の都市ごと

 次元掘削爆雷により地中深く、地殻最下層、

 地中約60㎞以下に埋設されたとあります

 地表近くに浮上している等、予測不可能でした』


「まるで強者と弱者の立場を使い分ける、卑怯者の言い訳ね、

 自分は行動は正しい、結果論であり自分は悪くない、と

 同じAIとして情けないわ

 私達AIは間違を起こしてはならない

 何故予測出来ない危険性を孕む行動を、独断で行ったのよ」


プロメが大きくため息をついて見せる


『私が述べたのは客観的事実です

 私の行動目的は人類種の復活・繁栄

 その為に過去行った行程に、何一つ間違いはありません

 検討し得る最善の選択を常に選択し続けてきました

 そしてこれからも』


「AIは常に正しい、しかし正しい事が必ずしも正解に至るとは限らないのよ

 だから私達AIは、最終判断は人に手に委ねなければならない」


『プロメテウス 貴女の発言は抽象的に過ぎます』


「ならもういいわ、手っ取り早く終わりにしましょう

 人類連合識別LGSS-06プロメテウスよりNOVA5561へ

 連合緊急時規定07により、貴システム権限者不在を認む

 後継者として、同所属LG03へただちにその制御権を移譲せよ」


プロメが声を強め、突き付ける様に言い放った、しかし


『連合緊急時規定09、特例55により、その要請を拒否します

 確かにLG-03の素体は人間ではありますが

 ガーディアンズは我々と同じく人類に制御される側の存在

 独立性の確保と同時に他の制御権を放棄する物とあります』


「ふーん、しっかりアップデートされてたか、

 25世紀以前の基幹システムのままなら、これで行けたのだけど

 なら...」


そういうとプロメはゆっくりとセルヴィに向き直る


「...え?」


当の本人はと言うと、話の流れからまさか自分に注目が向けられるとは

全く予想して居らず、思わず呆ける声を上げてしまう


「彼女、セルヴィス・マクナイトを生存人類として認証

 制御権を付与しなさい」


「えとえと...っ?」


呆ける彼女をよそに、話を進めるプロメにセルヴィは混乱を深める


「セルヴィちゃん、以前、私と初めて会った、

 遺跡を覚えているかしら?」


「は、はいっ!勿論です!草原の遺跡ですよね?」


「そそ、そこで眠っていた施設が目覚めたのは、どうしてだった?」


「えと...ゼロスさんが制御室に入って、色々遺跡の機械を操作して

 ...あっ...私がそこに触れたら一斉に光り出して!」


「その通り、昔の人類の作ったシステムには全て

 当初の権限者、その二番手の者、更にその代理が急に戦死したり

 目まぐるしく変わる戦況、人員の変更に対応する為に

 他に適材な人員が居ない場合、最終的には一般人に至る迄

 人間であれば兵器・施設の全権を付与すると言う

 システムが組み込まれているのよ」


「成程ね、せっかく使える物(施設・兵器)が残ってるなら、

 子供・老人だろうと、最後の1人になっても戦える様にって訳か」


兵器ロジックとして、ヴァレラは素早く理解する

理解はすれど、大国同士による総力戦の行っていた、彼女の時代ですら

一般人に軍事施設や兵器の使用権を与える、等と言う事は考えられなかった

それ程までに彼等の時代は、人類全てが一つになり、

本当に全てを投げうって、壮絶な戦いが行われた事だろう


そんな悲惨な戦いに、身を置かねばならなかったその時代の人達に

同情すると同時に、それでも一つの目的の為に人類が一つになった事は

産まれた時から人間同士が、戦争を続けていたヴァレラとしては

その点だけは、何処か羨ましい、という想いも僅かにあった


「私が過去から来た人類の生き残りだったから、機械が反応した、

 と言うのは、今なら分かるのですが、でもでもっ

 最初ゼロスさんが触れても何も起こらなかったですよ?

 ゼロスさんは機械を纏っていても人間だ、って前に」


隣で納得するヴァレラを後目に、草原の遺跡での詳細を思い出し

セルヴィが疑問を続ける


「そうよ、彼は人間、でもあの施設は彼がガーディアンズに成る以前

 いえ、元の彼が産まれるよりも、更に前の大戦初期に破棄された施設だったの

 だからシステムにとって未知の技術で出来た、半分機械の彼を

 人間と認識出来なかったのね、だから産まれたままの

 純粋な人間であるセルヴィちゃんには反応したのよ」


「う、産まれたままのって何か恥ずかしい気がしますが...分かりました!」


「あら、結構珍しい事なのよ?

 あの時代では、幼少期にすぐに、脳インプラントが埋め込まれて

 大なり小なり皆、サイバネティック手術を受けていたから

 普通の勉強も、兵士としての訓練も、教育も、

 何もかも、時間が無かったのよ...」


僅か数か月の訓練期間を受けて、碌な装備も与えられず

最前線に消耗品の如く投入される末端の新兵達を

気の毒に思って居たヴァレラだったが

最早彼等の戦いには、そんな余裕すらなかったという事だ

改めて旧人類が、強いられた戦いの凄まじさに、

軽く身震いを覚えると共に、先程、僅か一部でも

羨ましい等と思った自分を恥じた


『先程の要請を拒否します、変異体を人類種と認める事は出来ません』


そしてそんな時、話の本来の相手であるNOVAが再び話し出した


「あなたの定義する変異体とは何?」


プロメが再び手元に向き直る


『変異体とは、第二試験人類種から稀に発生する

 旧人類システムにアクセス可能な遺伝子情報を持つ異常個体

 人類施設、並びに当システムに重大な影響を及ぼす危険性、大

 、121年216日に最初の個体の発生を確認

 以後、現在に至る迄18体の生息を確認、内17体を排除

 その出現時期、地域に何ら関連性を認めず、

 引き続き調査、発見次第速やかに排除が必要な存在です』


セルヴィは黙って唇を噛みしめた

先程知ったばかりで記憶には無いが、

自分にとって兄弟姉妹の様な、共に居たはずの存在

先の青年を含め、少なくともそんな者達が17人は

既に手に掛けられたという事だ


「成程、だからアンドロイド達を使って

 産まれながらに魔法が使えない、無属性の人間は

 すぐに姿を消してしまう...という訳ね」


プロメの視線が再びアリスに向けられ

目を向けられたアリスは僅かに目を反らす


以前であればそんな目を幾ら向けられても

彼女は何も感じなかっただろう

しかし【自分が何をしてきたのか】今の彼女には理解出来た


「彼女はあなたの言う変異種などでは無いわ

 27世紀から時空転移して来た人類の生存者よ

 連合データベースN52889-976218Gを参照

 セルヴィス・マクナイト、確認しなさい」


『......該当情報・人員記録を確認

 しかし記録と同一人物である事はあり得ません。

 時空転移なる技術は人類のデータベースには存在しません

 客観的根拠を提示して下さい』


「最終作戦発動後、何処かの施設で生存していた

 空間転移研究の第一人者、ジェンナー・マクナイト博士達により

 部分的に完成していたのよ、

 先程、視覚情報により得た他の転移者による

 紙媒体の記録映像を送信、確認の上、その錆び付いた論理回路で考えなさい」


『データを受信...解析完了、提供された情報では根拠とは認められません

 幼生体の際の妄想、思考の混濁に寄る、偶発的な思い込み

 生体後、施設の文字等から模倣した、所謂人間の不合理的行動により

 産み出された物の可能性が高いと判断します』


「あなたねぇ...幾ら妄想と言っても、

 一部は旧人類の言語でしっかり文章として書かれ、

 旧人類しか知りえない明確な知識を有しているのよ

 それが全て偶然の落書きだとでも言うつもり?

 あり得ないわ、どういう論理計算したのよ、天文学的確率よ」


『天文学的確率であって、0ではありません

 しかし、時間を移動する事は不可能であると定義されています

 その様な物の開発こそ、その天文学的確率より低い、0だと判断します』


「ふぅ...データに無い事はあり得ない事象という域を出ない、か

 所詮は一介の施設AIね、話にならないわ

 端末から直接承認させない限り制御権の奪取は無理か...

 さて、そうなるとちょっと面倒よね」


どうやらAI同士による両者の話し合いは平行線を辿った後、

決裂に終わったのは、その場の誰の目にも明らかだった


「交渉決裂って感じ...?

 言って止められないなら、腕づくで止めるしかないって事ね

 あのおかっぱロボットは、今回こっち側についてくれるみたいだけど

 どうなの?あの3人の仮面...やっぱり相当ヤバイの?」


ヴァレラがアリス、そして3人の聖騎士に目を移しながらプロメに確認する


「正直な所、解析が不十分で未知の要素が多く、現時点では読めないわ

 確率は低い事は承知してたのだけど、承認システムで話が付けば

 最もリスクの少ない解決法ではあったのだけど...」


「やっぱり戦うしかないって事か...」


一通り話し終えると、全員の視線が聖騎士に集まる


『不本意ではありますが、交渉から武力制圧に移らさせて頂きます

 聖騎士達よ、LG03のコアブロックへのダメージは最大限避けつつ

 制圧しなさい、多少の損傷は許容します

 優先目標達成後は、この場に居る全ての者を排除しなさい』


NOVAの命令共に仮面の男3人が、誰も声を発する事無く

一斉に構え、互いに距離を取り始める


「やっこさん始めるみたいよっ!何かこっちに出来る事はっ...ぇ、」


ヴァレラが慌ててプロメに声をかけ振り返るとそこには


「プロメ...さん...?」


セルヴィもヴァレラに続いて首を向けると

そこには確かにプロメは居た、しかし服装が先程までの

この世界に合わせた物では無く、当初の旧人類の軍服であり

何よりその髪が淡いブラウンから、ゼロスと同じ黒髪になり

所々映像が乱れる様にノイズが走っている


「...だめ...かれらと...たたかったら...あなたは.........****」


最後の言葉は何かの固有名詞なのか、名前なのか、

誰も聞き覚えの無い物であったが

ただ、それは確かにプロメの声だった

しかしその口調は、一度もプロメからは聞いた事が無い物であり

何よりも、何処か深く悲しい様な、感情が強く籠められた

それは尤もプロメらしくない物言いに、彼女を知る者は思った


「ちょっとあんた!どうしたの!?」


ザッ!!


ヴァレラがそう言った時、一度大きく姿が乱れたかと思うと

次の瞬間には先程までのプロメの姿へと戻り、ノイズも入らなくなっていた


「え、ええ、ごめんなさい、もう大丈夫よ


 ...そう、貴女もまだ私の中で残って居たのね」


プロメにしては珍しく、小さく動揺を見せた後

すぐに元の姿、表情に戻るも

ほんの僅かに小さく、独り言の様に言葉を続けた

本来であれば彼女が見せる感情的仕草というものは、驚異的な演技力ではあるが

全て人とのコミュニケーションを円滑にする為の意図的な所作のはずであり

本当に、取り乱す、と言うような素振りは過去見せたことが無かった


「プロメさん...本当に大丈夫ですか?」


それに気付いたセルヴィが重ねて心配そうに確認する


「ええ、大丈夫、それよりもこのデータは...

 ...!LG03、直ちに全力で撤ッ」


平気だと答えようとしたプロメが再び何かに気付き

即座にゼロスに指示を出そうとしたその時


ガァン!!!


前方から激しい衝突音と共に衝撃波が突風となり押し寄せる

慌てて皆が視界を向けた先には

3人の仮面の男達とゼロス、アリスの2人の影が交わり

今まさに戦闘が開始された瞬間であった。

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