第105話 造り物の世界達②

「そんな歴史、初めから無かったのよ...そうでしょ?」


プロメがもう一度、言い直すと

その答えを求める様に、視線がアリスに向けられ

それを追うようにアリスに注目が集まる


「......そう、試験人類種の第一世代は...

 培養カプセルから...産まれた...

 そしてアンドロイドが...事前に街を造り、親を演じ、

 教育機関を初めとする...各種行政の中枢に配置...

 世代を経る毎に徐々に入れ替わる形で

 1800年頃の旧人類の文化圏から...模倣・再現が始められた...」


「ふん...自分の両親が本当は機械だったなんて

 質の悪い三流SF映画のオチ以下の糞だわ」


ヴァレラはアリスを睨みつけながら

その場に唾を吐き捨てる


辺りを重い空気が包み、静寂と共に

草原を撫でる風の音が当たりに響く


そんな空気の中、関せずと再びNOVAが

自己の記録という名の、誰も報われぬ歴史の開示を続ける


『大戦勃発後23年が経過、帝国側にて開発中の魔導兵器に

 初期の原子爆弾に酷似する大量破壊兵器の存在を確認

 構造技術・作動原理を解析した結果、

 若干の改修により大気中に含まれるアデス粒子と

 共鳴させ、連鎖反応により対消滅させる事が可能であり

 それにより、現在地球上の大気に含まれる

 アデス粒子の多くを除去可能である公算が高いと判明

 

 人類復元計画のアプローチ方法を変更を検討

 地球環境を本来の人類に適した環境に

 テラフォーミングを実施した後、再度

 旧来の人類種の復元


 しかしプランの実行に必要不可欠な魔導兵器は

 異能の力を持つ、試験人類種しか起動する術を持たない為

 該当国への一部技術供与、開発の促進を試みる、結果 


 現在より2142年291日前 

 帝国による新型魔導兵器の使用を確認

 当初の予測通り、魔導兵器使用直後、

 大気中に含まれるアデス粒子の規定値以下への低下を確認


 しかし同時に想定外の事象が発生

 大気中のアデス粒子との連鎖反応により、

 兵器の破壊力エネルギーが累乗式に増加、

 その強力な熱放射と共に、高濃度の放射能が発生

 その効果範囲は地球全域に到達、試験人類種の絶滅を確認』 

 

「あんたが...いや...お前がやったのかっ!!!」


ヴァレラが怒り限り声を荒げる

自分達の時代は、世界は、敵国が、いや

人間同士の醜い戦争が、自らの過ちで滅び去ったのだと

それは仕方の無い事だと思っていた


結果的にNOVAが手を加えずとも、兵器は完成し、使用されていたかも知れない

しかし、そうでは無かった可能性も有ったかもしれない

少なくとも平然と他人事の様に語るこの機械は

それを確実な物とし、早めたのだ


—決して良い時代だったなんて思わない

 周りには糞見たいな奴等しかいなかった

 それでもあそこは...私の世界だった...—


『兵器を使用したのは試験人類種自身であり

 私ではありませんよ、おや、まさか貴女は...』


遠巻きにローブの3人の内1人が、ゆっくりと

その仮面の顔をヴァレラに向ける

それを通してこちらの細かな分析を行っているのだろう


「驚きました、これは申し訳ありません。

 絶滅と言ったのは私の誤りです

 安心して下さい、貴女に危害を加えるつもりはありません

 連鎖反応による魔導兵器の威力の増加は

 私にも想定の範囲外の事象でした、本来であれば

 まだまだ試験人類種には有用な役割が多く有ったのです

 是非貴重な生存サンプルとしてご協力下さい』


その音声から吐き出される”モノ”には

何の抑揚も無く、ただ文章を読み上げる様に

言葉通りの驚きも誠意も無ければ

丁寧な形式の言葉で纏められた内容には、微塵の配慮もありはしない

それは彼女の心情を逆なでする以外の何物でも無かった


ヴァレラが犬歯を剥き出しにし、奥歯を軋ませながら

プロメの手元から発せられるNOVAの音声に

今にも飛び掛からんばかりで憤怒の限りを向ける


「創造主だから創造物は玩具同然って訳!?

 自分の都合増やしたり、消したり

 ふざけるなっ!!この神気取のガラクタ野郎!!!」


先程までとは逆に、セルヴィがヴァレラの肩を掴み、宥めている状態になっていた

セルヴィにも彼女の怒りは痛い程伝わって来た


—創造主だから創造物は玩具同然—


自分達が何も考えずに、NOVAに命ぜられるまましてきた事は

自分達が産み出され、されてきた事と何が違うと言うのだろうか

何も違わなかった

少し距離を空けてその様子を見ていたアリスの拳にも力が籠った


その時、突然一人の少女が声を上げる


「いえ...アレは決して神などではございませんっ!!!」


その人物とは意外にもフレイアだった


「え...うん...どうしたの?」


セルヴィ達や本人の話では、フレイアは以前、

ヴァレラが目覚めるよりも前に、旅の道中で偶然出会い、

途中まで同行していた、この時代のごく普通の聖職者だという


科学技術の概念に、ある程度認識の及ぶ自分でようやく

その内容を概ね理解できる話の内容を、その様な概念を持たぬ

この時代の一般人である彼女が、理解出来ているのか


そしてまた、この数日共にして、

彼女は決して気性の荒い性格の持ち主ではない様に見えた、

常におっとりとした感じで、何事にも寛容だった姿からは

突然大声を上げるという意外な行動を起こし


更にはその内容が、聖職者としては

最も口にする事にそぐわぬ神を否定する言葉


それらの意外性を纏めてぶつけられたヴァレラは

突然ひや水を浴びせられたが如く、思わず呆気に取られてしまう


「と、突然大声を上げてしまい申し訳ございませんっ」


当人自身も今の自分の行動に驚いた様に、慌てて口元を押さえる


「いや...別に謝る必要は無いんだけど...

 まぁいいわ、おかげで頭に上った血が少し冷めたわ、ありがと

 ところで、あんたに今の話が分かって言ってるの...?」


「は、はい、確かに先程からのお話は

 初めてうかがう様な言葉ばかりで

 わたくしには遠く理解の及ばないはずの

 事柄の筈でございますが...

 なぜか先程から頭の中で、まるでどなたかが囁く様に

 その言葉の意味が、流れ込んでくるのでございます...

 旨く申し上げれず申し訳ございません...」


その現象の心当たりとして、ヴァレラが視線をプロメに送るも

彼女は首を横に振り否定する


「彼女には何もしていないわ、ナノマシンの投与もしてないから

 やろうとしても、彼女の内部に影響を及ぼす事は何も出来ないわよ」


フレイア本人はと言えば

再び座ったまま祈りを捧げる姿勢で

ぎゅっと目を閉じ、時折「ああ...」等嘆いている様子だ


腑に落ちない点は多く、それぞれ怪訝な表情を浮かべながらも

今の状況は彼女にばかり気に掛けてはいられない

再びNOVAからの言葉が待たれる中

セルヴィは僅かに息を飲む


そう...順当に行けば、この次に語られる事があろう内容は、

それは今、この時代であろうからだ


『その後、直ちに放射能除去作業開始...

 魔導兵器使用から342年277日後

 放射能レベルの人類生存可能域まで低下を確認

 旧人類の復元を試みるも、保存されていた

 人類オリジナルの生体サンプルの汚染を確認

 復元不能


 対策案、他の旧人類施設の探索によるオリジナルの生体サンプルの獲得

 及び継続して試験人類種をベースに、よりアデス因子を排除し

 純粋人類種に戻す実験も第二プランとして併用して進める物とする


 現在より479年88日前

 人類オリジナルの成体サンプルの探索は難航、

 探査に当たるアンドロイドは、亜人との戦闘で

 その個体数を大きく減らし、数が不足している事に加え

 過度に老朽化した旧人類施設の探索には、多くの高度な状況判断を必要であり

 一部の特殊個体を除き、アンドロイドには不向きと言わざるを得ない


 第二プランに関しては一定の成果を獲得

 アデス因子による異能の力を大幅に低下した種の開発に成功

 しかし異能の力を完全に消去するには至らず、人類とは認定できず

 以後、第二試験人類種と呼称』


既にここまで来れば、第二試験人類種と呼称されているのが

今この時代を生きる人々であり、この時代もまた、

偽りの歴史の上に、意図的に造られた世界である事は、

既にその場に居る誰もが理解する所であった


『試験人類種同様、人類復活後、速やかに文明生活を再開出来る様

 その基盤となる旧人類の文化再現を行うと共に、

 数を早急に増やすべく、幼児の死亡率を1割未満となる様介入

 個体数が一定数に達した後、新たなる役割として、

 生体サンプル捜索の為、旧人類施設の探索を付与する物とする


 ただし前回の失敗を踏まえ、大戦等による自己絶滅を防ぐべく

 文明レベルを更に後退、中世初頭より再開する物とし環境を構築


 第二試験人類種が自主的に施設調査を実施する様

 遺跡探索に伴い連動する経済システム、並びに

 調査物の検閲を行う行政機関を新設

 同時に旧人類技術の習得を防ぐべく、

 言語形態は試験人類種と同様に亜人言語を使用

 並びに技術形態の異なる試験人類種が用いた魔導技術を部分的に導入

 人類技術の理解を避けつつ、探索活動の円滑化を試みる』


「そんな...それじゃ魔導技術研究所も、魔具も...

 ギルドも...各国主導の探索隊も...

 多くの人が夢見た遺跡探索自体が...」


「そうよ、私らの時代では決して触れない様に、私達から隔離して

 今度はこの時代では、積極的に興味を持つ様に、

 与えられ、造られ、仕向けられていたって訳よ

 ...全部こいつの都合でね」


セルヴィの言葉に答えるヴァレラは先程とは異なり

冷静さを取り戻している様子だった

しかし、その瞳の奥には、変わらぬ激情の炎が見てとれる


今の時代を生きるセルヴィもヴァレラと同じく

フレイアも含め、この場に居る者全てが、

遠い別の時代の、世界の話では無く、今起きている事の当事者となった

だからこそプロメは、NOVAとの会話を皆に聞かせたのだろう。


『そして現在より54日前、第二試験人類種の築いた都市の一つが

 ゲート施設である事が判明、即時該当施設への一切の干渉停止を指示

 しかし、増えすぎた人口に対し制御に遅延が発生

 その間にゲート施設のエネルギー系統に支障発生、封印機構が停止

 幸いにもコードΩが発動し、現状に至ります


 以上が、私が起動してから今に至る迄の記録の概略、並びに行動目的です

 これであなた方は私と、共通の目標を持って居る事ご理解頂けたかと思います

 あなた方の協力があれば、LG-03に用いられている

 オリジナルの人類の生体サンプルの獲得による人類復元

 及びその技術解析、復元量産によりアデスの再度侵攻阻止

 共に格段に成功率は上昇致します。

 何も迷う事は無いのではありませんか?』


「......ああ、そうだな、何も迷う事は無い」


そう口にし、ゆっくりと立ち上がり、アリスの横に並ぶゼロスに

その場に居る者の全ての視線が集まる


『では共に人類の未来の為—…』


NOVAが言葉を言い切る前にゼロスが次の言葉を紡ぐ


「断る、貴様は完全に暴走している

 人類にとって現状最も脅威となる存在

 俺達ガーディアンズの敵だ」

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