第104話 造り物の世界達①

プロメの要請を受け、NOVAが目覚めてからの記録を語り始める


『現在より2万1113年208日前

 定期外部観測器により、地球環境の回復の信号を受信

 メインシステムが再起動されました。

 

 施設内の状況分析に行った結果

 設備の多くが想定を大きく上回る、過度の老朽化により使用不能

 タイマーシステムの機能停止を確認、ログ復旧不能

 ハルマゲドン発動から経過時間は測定不能

 

 また、施設機能不全に伴い次元冬眠に入っていた

 避難人員全ての生命活動の停止、化石化した遺体の分析により

 約100万年程度の時間経過と推定

 同じく生体保存されていた動物・昆虫類の、生存認めず

 しかし、生体試料の多くは凍結状態を維持。

 規定の手順に従い、保存されていた生体試料を培養、及び

 記憶人格情報より地質学者、植物学者等の再開発に有用な人材を選抜、

 量子脳ユニットにダウンロード、クローニングを開始』


再稼働してからの状況を

報告書を読み上げる様に、NOVAが話始める


「これって...バセリアの地下の遺跡で見た人達の事...ですよね?」


ここまでゼロス達と共に旅をしてきた事で

ある程度内容を理解するに至っていたセルヴィが確認を求めると

プロメが静かに頷き、その言葉を肯定する


『56名のクローニングに成功、人格・記憶の定着化に問題見られず

 以後、生存人類と呼称、並びに制御権限を付与、

 当システムは生存人類の制御下に入る。


 生存人類は直ちに人類復興に向け、施設外周の調査を開始

 直後、外周調査隊より1名の死亡者が発生 

 当初、問題も無く回復したと観測されていた

 地上の大気中の成分には、当時のセンサーでは確認出来ない

 未知の粒子が含まれており

 この粒子が人間の生命活動に致命的に有害である事が判明

 以後、この未知の粒子をアデス粒子と呼称


 やがて培養、並びに自然繁殖により幼生体を増加させ

 施設の許容を超える人員を抱え、資源の枯渇の危機に直面した生存人類は

 外周部開拓を急務とし、その打開策にアンドロイド開発に着手、成功。

 のち急速に外周部の開発・開拓作業を開始』


「...」


アリスの脳裏に、先ほど見た

A-001を開発した者たちの姿が浮かぶ


『更に規模を拡大させた生存人類は

 本格的にアンドロイド量産体制を構築、大量生産へと移行

 同時に、箱舟施設より約230㎞南西の平野地帯に

 ドームシティの建造に着手、4年後、完成

 その人口を1万8000人へと増加させる


 ドームシティから半径500km圏までコロニーを拡大、資源開発を加速

 アンドロイドの稼働個体が10万を超え

 より作業効率の向上を検討した生存人類議会にて

 当メインフレームと連結、情報共有、統合演算を行う

 統合ネットワーク構想が可決、実行

 

 直後、アンドロイド開発当初の機能とは異なる運用を行った結果

 アンドロイドの論理回路に齟齬によるエラーが発生

 ネットワークを介し、全個固体に暴走が伝達、生存人類殲滅が行われる


 現在より2万1098年27日前

 生存人類最後の個体の生命活動停止を確認』


—何を他人事の様にっ!!お前が...あんな物を皆に見せたからっ!―


アリスが歯を食いしばり、胸に湧き上がる黒い感情を押し殺す


—違う...それをさせたのは...人間—


—そして...その結果を齎したのは...私達自身—


そのままアリスは聖騎士への警戒を解かぬ範囲で

僅かに瞳を下げ、小さな拳を震わせる


『生存人類の絶滅後、アンドロイドの制御を回復

 再度人類の再生プログラムを再開

 同結果を回避する為、改善案を検討......結果

 現在の地球環境に耐性を持つ人類の開発へと目標を変更、着手』


「...人間を作り直したって事、

 ...本当に糞くらえな神様だわ」


セルヴィ同様、ヴァレラもまた、話の内容については

ほぼほぼ理解するに至っていた

彼女にとってはSF小説・映画の世界の話ではあるが、

それでも十分概念として理解出来る知識を有していた為だ


その為、彼女は既に話の行く末に、何か思い至った様子で、

心底嫌な物を見る様に顔を顰める


『保存されていた生体組織を元に、遺伝子操作を実施

 大気中のアデス粒子に対する耐性の獲得を試みるも失敗、

 実験を継続』


「馬鹿な...一箱舟施設の設備でそんな事が...

 いや、それ以前に一施設制御AIにそんな事が出来るのか?」


放電・体液流出が止まり、僅かに回復したゼロスが疑問を口にする

通常AIはその用途によって役割が異なるものであり

用途以外の分野に関する思考は、当時のAI法により制限されるのが常であった

人類最高戦力であるガーディアンの運用・管制・補助を行う為に造られた

プロメテウスの様なAIであれば兎も角

旧人類のテクノロジーをもってしても、一介の施設制御AIが

その様な特殊な措置の検討、施設その物の改造を行うなど

そこまでの万能性は有さない筈だった


「世界各地に数多く作られた箱舟と呼ばれる人類生存を目的として

 建設された長期冬眠避難施設...

 その中で第883施設は、箱船施設じゃなかったのよ」


その疑問にプロメが答える


「まだ人類連合が発足される以前

 アデスに対抗する術を、各国が独自に死に物狂いに模索していた頃

 毒を以て毒を制すという奴ね、敵の技術の開発利用は戦争の常套手段

 

 -旧ユーラシア連邦・第88生体兵器研究所-

 

 そこでは別次元からやって来たアデスの調査・研究、そして...

 私達の次元の生物、動物...そして人間を融合する研究が行われていた

 その名もプロジェクト・NOVA

 しかし研究は成果を上げる前に、アデスの急速な侵攻により破棄...

 箱舟施設883は、その破棄された研究所を再利用されて造られたのよ

 当然、そのメインシステムもね...」


「そ、そんな...人と...あの化け物たちと...くっつけるって...」


テストラで自分を、そして皆や、鉱山村で村の人々を襲った

ゼロス達がアデスと呼ぶ化け物たち、

具体的にどの様な方法で、という事までは想像が及ばなかったが

それがおぞましい行為である事は想像に難くなく

セルヴィは思わず嫌悪感に身を震わせる


「それが正しい行為だとは言わないわ、

 けれど、それ程までに人類は追い込まれていたのよ

 倫理観も、人間性すらも捨てなりふり構っていられない程に、ね

 ただ、言い訳になるけれど、当時から人類の総意という訳では無かったのよ

 元々NOVA計画は多くの国家、連合から強い批判を受けていたから

 アデスの侵攻が無かったとしても、近い内に中止に追い込まれていた事でしょう」


「ご、ごめんなさい、当時の事情も考えずに私...

 そうですよね、必死に生きようと色々事を考えて、

 嫌な事でも、辛くても、精一杯頑張ってくれたからこそ...

 ......私も今ここに居られたんですよね...」


この様な状況の中、少し前に突然知らされた出自で戸惑っているであろう中

何とか整理をつけようとしているセルヴィの心中を察するように

プロメがそっと頭を一度撫でる


やがて、律儀にこちらの会話を合間を計っていたのか

話が止まると再びNOVAが語り始める


『実験を重ねる中で、動物や昆虫の体細胞がより、

 アデス粒子との結合率が高い現象を確認

 動物実験を重点に成体への移植実験へ移行、結果


 現在より1万8339年220日前

 アデス粒子の含まれる大気への

 完全適合する哺乳動物の個体生成に成功、

 他の動物種、昆虫種への移植を開始、

 拒絶反応認めず、人工繁殖開始、のち定数を確保

 全域に分布、自然繁殖による生態系の構築を確認。


 しかし世代を経る中で、アデス因子の影響を強く受け

 凶暴化、並びに体組織の一部がアデス化する特殊個体が一定率発生

 しかし本来のアデス程の脅威は無く、生態系の許容内と判断』


「それが...魔物の正体か」


ゼロスが目覚めた時、アデスの様な特徴を持つ動物

しかしアデスではなく、純粋な動物とも言えぬ

この時代では古くから居るとされる、未知の生命体、魔物


『のち、実験を繰り返すも、引き続き人間との適合は叶わず

 アデス粒子と人間細胞の適合の方針を変更

 

 既にアデス粒子に対する耐性を獲得した動物の遺伝子から

 耐性因子を抽出、人間遺伝子への適合・移植を試みる


 結果、 現在より1万2240年187日前

 耐性を獲得した亜種が誕生

 しかし、その身体の一部に動物的特徴を宿す個体が多く

 純粋な人間とは遠く・人類種とは定義出来ない、

 以後【亜人】と呼称

 改良に望むべく、しばし量産、観測を行う』


「亜人の人達も...?」


セルヴィが驚きの声をか細く上げる

次々に知らされるまるで創生のおとぎ話の様な事実を

NOVAは変わらず淡々と読み語る


フレイアは何処までその話を理解出来ているのか

また、今の状況自体をどこまで把握しているのか

その身を僅かに震わせ、ただただその場に跪き

祈る様に両手を組み瞳を閉じ、時折何かを呟く様に小さく口を動かしているが

何を呟いているのかは周囲の者には聞き取れなかった


『亜人の観測を開始して988年49日経過

 その個体数は3万程に増加、

 知能は自体は人間と、それ程差異は無く

 物を加工し道具を作り、独自の言語形態を形成

 意思疎通によるグループを形成

 原始人類と同程度の組織体系を確立

 

 今後の人類文明の復興に向けて、試験の為

 擬態したアンドロイドによる

 意図的に文化形態の促進を試みる

 

 結果、試みは成功

 生息範囲を拡大、中小規模の集落を拡大しつつ

 古代から中世初頭程度の生活体系、文化形態を確立するに至る

 

 しかし新たなる問題が発生

 純粋人類と異なる要因は、外見だけでなく

 個体差は激しいが、どの個体も何かしらの未知のエネルギー、

 恐らくアデスが使用する別次元の法則により

 生じる力と推測される異能の力を確認

 動物種に於ける異常固体の発生と同種の要因と考えられる


 異能の力の解析を始めて間もなく

 強力な異能を有する個体が出現、以後、異能体と呼称

 その脅威度は亜人の制御不能に陥る危険性、大と判断

 生体サンプルを残し、全亜人の排除を決定

 アンドロイド部隊に寄る駆除殲滅を開始』


「亜人大戦...マグナシオスさん達、亜人の勇者達と

 神々の軍勢が戦ったって言う...」


セルヴィがゼロの村で亜人達から聞かされた、彼等に伝わる伝承


「そう...伝承にある...その神々の軍勢と呼ばれたのは...私達...

 1万年ほど前に...起こった事...」


アリスは自分がその当事者の1人であり、

かつ事実である事を肯定する


『亜人の群れは13体の異能体を中心とした、抵抗組織を組織

 異能体の力は凄まじく、特にその内の1体の力は突出しており

 こちら側に想定を大幅に上回る被害が発生、全戦力の投入を決定


 結果、特殊個体を含む10体の異能体の殲滅を確認

 しかし、想定外の消耗により、これ以上の消耗を抑えるべく

 条約締結に要する知性を鑑み

 資源の乏しい地域に保留地を形成、封鎖

 亜人種の自然消滅を待つ』


「酷い...亜人の人達が、何をしたって言うんですかっ!!」


彼女の質問は、AIの理解出来る形式ではなかった為か

答える意味を見出せない為か

セルヴィの声にNOVAは何も答えない、いや、反応する事は無かった。

そしてまるで何も無かったかのように、再び続ける


『引き続き亜人種からのサンプルをベースに

 新たにアデス粒子に対する耐性はそのままに

 動物的因子を排除し、より完全な人類種の開発に移行


 現在より2366年78日前、新たな人類種の開発に成功

 以後、試験人類種と呼称

 亜人の様な動物的特徴は一切見られず

 身体は完全に純粋人類と同じである

 早速培養を開始、人類文明の再興を試みる

 

 生存人類の結果からも

 過度な技術力、急速な発展は自滅の危険性を考慮し

 文明レベルを18世紀、産業革命時頃を目安にアンドロイドを用い

 教育、思想、技術力を設定、配置を開始

 

 また、旧時代の施設との接触、技術の吸収を避けるべく

 統治機構に制限を課すと共に、万一偶発的な接触に備え

 言語形態を亜人種の言語にて観測を行う物とする


 観測を始めて224年、順調に20世紀頃に酷似した

 文明の構築には成功するも、再び問題が発生

 亜人に見られた異形の力の残存を確認

 ただし、異能体の様な強力な力は無く

 直接力その物を放射する事は出来ない程度ではあるが

 異能の力を増幅させる特殊な技術を用いる事で発現が可能であり

 それらを魔導技術と呼称、が発明により、文明管理にイレギュラーが発生

 

 独自の技術体系の流入により、本来の歴史から外れ

 国家形態は帝国と共和国の二大大国に2分、2国間の大戦が勃発

 米ソ冷戦が誤った形で発生し、その時期も早まったと見られる』


「ちっ...やっぱりか」


帝国と共和国の名を聞いたヴァレラの眉が僅かに動き

苛立った様子で舌打ちをした


「で、でも確かヴァレラさんの時代の年号って

 1942年って、それならたった200年で、って

 おかしくないですか...?」


セルヴィがヴァレラの様子から

この話がヴァレラが来た時代の話である事を察するも

もし最低でも1942年という年号の歴史があるのであれば、それは矛盾する


「無かったのよ...」


プロメが静かに首を横に振りながら答える


「えっ...」


「そんな歴史、初めから無かったのよ...」


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