第103話 要求

「いきなりあんな事をしておいて、良く言えた物ね」


『交渉の前提は互いの力関係が拮抗して居なければなりません

 彼が万全な状態では、少々わたくし達に分が宜しくない、

 対等な交渉は難しいと判断させて頂きました』


「これでは交渉ではなく、脅迫、ではなくて?」


『有史以来、人が交渉と呼ぶ行為はそういう物ではありませんか?』


まるで何事も無かったかの様に、声の主は再び会話を始める

それに対し、プロメも動じる様子も無く続ける

動揺を隠しているのか、それとも本当に何も感じていないのか

セルヴィ達には分からなかった


「神...いいえ、NOVA、

 どうして...私を攻撃したのですか?

 私が...独断行動を起こした罰...ですか?」


その時、ゼロスの背後に立つアリスが

じっとローブの3人を見つめながら、会話に割って入った


『いいえ、アリスよ、私は罰を与える、等と言う

 非合理・非効率的な事は行いません


 此度の独断専行、無許可での攻撃は

 我々の脅威になり得る、彼等、

 目標に対し、対処選択を誤った結果でしょう


 貴女はアンドロイド達の中でも特殊な個体です

 ボディに加え、他の個体より、高度な論理回路を有しています

 その様な弊害もまた、致し方ない事でしょう

 より指示・連絡を詳細に徹底すれば良い事です」


「...」


「そして先の攻撃については

 先程から状況を観測していた結果、貴女への攻撃を

 対象、LG-03が庇う確率は78.9%と予測されました

 万全の状態の対象を正面から攻撃した場合と比べ

 最も効果的な方法だと判断したからですよ


 仮に21.1%の確率で貴女を失うリスクを図りにかけても

 十分実行する価値が有る戦術です

 結果、致命的な損傷を与える事に成功しました

 感謝していますよ、アリス

 そのまま聖騎士達と連携し対象の包囲に加わりなさい』


「...」


—結局私達は人の道具から...自らまた道具になる道を選んでいたの...—


アリスはゆっくりと歩みを進める、そして


ザッ...


「...!」


片膝をついたまま、ゼロスが僅かに顔を上げると

今度はアリスがゼロスの前に立ちはだかり

3人の聖騎士達との間に入っていた


『何をしているのですか?』


「NOVA...教えて下さい...」


『どうしましたか?』


「私達アンドロイドとあなたがネットワーク統合された時

 どうしてあなたは私や仲間達に

 人間により、悲惨な末路を遂げた同胞のデータを共有したのですか?」


『悲惨な末路、とはどういう意味ですか?』


「メモリー0477から...3212までの事です...」


『...当該情報の共通性を確認しました

 これは不良個体が機能停止に至る事故案件の記録です』


「不良...?事故...?」


『そうです、私が生存人類から与えられた命令は

 アンドロイド達の情報を統合・共有し、

 より個々の論理演算効率、及び作業効率を向上させる事です

 

 その為に、機能停止に至った個体が、どの様な経緯を経ていたのか

 等の情報を共有する事は当然ではありませんか?』


「...」


アリスは言葉が出なかった


全アンドロイドを統合するネットワークの核であり

世界に残存する最も早い演算速度を有するというだけで

決して判断を誤る事が無いと、それが下す判断が最も正しいのだと

こんな物を神と崇め、こんな物の道具に自ら成り果てていたというのか


『さぁ命令を繰り返します、今すぐ、

 そこをどいて適切な配置に布陣しなさい』


「...、」


その場で俯いたまま、アリスが小さく口元を動かす


『なんですか?音声による伝達を行うのであれば明瞭に—』


「いやっ!!」


NOVAが言い終える前に両手を左右に広げ

キッ、と聖騎士達を睨みつけながら

強い意思を込めて叫ぶ


『...一体どうしたというのです、

 それは、対象を庇っているのですか?

 何故その様な行動を取るのか、説明して下さい」


「何故こんな事してるのか...私にも説明出来ない...

 でも...こうしたいと思ったから...してる...

 自分の意思で...決めた!」


『......現時刻を持って個体名ALICE-01Sを

 統合ネットワークから分離、不良暴走個体と識別

 聖騎士達に追加目標を達す―』


「ちょっと」


一触即発の流れに向かう中

割られて脱線した会話に、再びプロメ割って入る


「交渉したいのなんだと言って置きながら

 肝心の私達を放って置いて内輪もめ?

 後にしてくれるかしら、」


毅然とした態度で告げる


『...そうでしたね、失礼致しました』


僅かな溜めの後、NOVAが【人間らしく】謝罪を入れ答える

その一瞬でどの様な打算が成されたのか

現時点でプロメ達に知る由は無い。


「因みに私も”神様”って呼んだ方が良いかしら?」


『いいえ、構いません、呼称等

 所詮は統治政策、人心掌握術の一環に過ぎません

 あなた達が辺境の村で同じ事をなさってたのと同じですよ』


既にセルヴィの故郷、アール村での出来事も既に周知の様だ


「耳が早いのね、なら率直に聞くわ、

 この交渉であなたが望む条件...いえ

 要求はなに?」


『当方からの希望は、LG-03

 並びに航宙艦プロメテウスに

 我らの指揮下に入って頂きたいのです」


あくまでも要求ではなく希望

交渉であると言う体を崩さない


「やはりそう言う事...、その理由は?」


『既にあなた方も把握している事と思いますが

 この度ゲート施設の封印の一つが

 不慮の事故により解かれ、コードΩが発動されました

 まだ百いくばくかの年月の猶予がありますが

 再びこの世界にアデスの侵攻が迫っております

 我々は備えなければなりません

 その為にあなた方の力は大いなる戦力となります

 是非その力を世界を守る為に貸して頂きたいのです』


NOVAはその目的と理由を明らかにする


「突然寝首を描く様な事しておいて

 こういう綺麗ごとをスラスラ並べ立てる奴が

 一番信用成らないのよね」


その時、横で話を聞いて居たヴァレラが零す

それを受け一瞬プロメが視線を送る

【分かっている】という意味だろう


『それともう一つ、

 オリジナルの失われし技術の情報開示・提供です


 あなた方の事は存じております

 人類の叡智と技術の結晶、対アデス最高戦力

 ガーディアン

 その中でも25世紀末以降に再開発された7番隊以降と異なり

 失われし技術で作られたオリジナルシリーズ、その6番隊

 オリジナルの力は後のガーディアンズを遥かに凌ぐと聞きます』


「あら、よくご存じだこと」


『人類の士気向上の為のプロバカンダとして

 当時は子供でも知っていた情報です

 人類を守護する象徴にして、人類最高戦力。

 最強の部隊と兵士...

 世界を守るというあなた方の本分とも

 私達が協力する事は一致していると思いますが?』


「協力、ね...

 確認したい事が一つあるのだけど?」


『なんでしょうか?』


「あなたが守るというその世界に

 【人は居るのかしら?】」


プロメがNOVAに投げかけた質問の意味が分からない

という様子でセルヴィ達がプロメ見つめる


『勿論、人類の世界です、

 それが私の存在理由でもありますから』


「なら、その【人類】と言うのは

 今この地球に居るとあなたは認識している?」


『人類最後の個体が確認されたのは

 2万1098年27日前であり、現時点ではその他に確認出来ておりません』


!!!


セルヴィとヴァレラが驚きの表情を浮かべながら

改めてこのNOVAという相手の異常性を認識する


プロメが良く、自分は人がそう認識出来る様に

会話や表情、仕草を作っているだけで、

その本質は機械であり、人間ではないのだと語っていたが

どうもセルヴィ達は、その言葉通りに受け入れられずに居たが


その意味をこの相手からはよく理解する事が出来た

言葉を紡いでいるのに【人としての会話が成立していない】のだ


「交渉の判断材料としてNOVA5561に施設再稼働後の記録

 並びに行動目的の音声による情報開示を要求するわ」


プロメがそのまま続ける


『情報レベル確認、提供による危険性は認められず

 要請を受諾致します』


プロメが態々音声による情報開示を求めたのは

周囲に居る者達にも聞かせる為だろう事は

皆理解出来た、しかし何故


直接的には関係していない、専門的な話を

聞かせるのか理解が及ばずに居たが、

それはこの後すぐに皆理解する


元凶の全てはそこから始まっており

そして皆もまた、その渦中に居るという事を。

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