第102話 急襲

 「NOVA5561」


プロメがその名を呼びかけると程なく

ゼロス達を中心に、プロメ達とは丁度反対側に位置する辺りに

すぅっと3人の人影が突然、何もない所から姿を現した


3人とも金の刺繍が縁ぶちに施された純白のローブを全身に纏い

その首には何かを現すと見られる紋章のペンダント

そして頭には目深にフードを被っている


フードから覗かせるその顔には、ローブと同じく

白に金細工で紋様が刻まれた仮面を被っており

顔や表情と言った物は一切うかがい知る事が出来ない


全員体格はゼロスと同程度のやや大柄であり

体格的に男性である事は皆の目にも見て取れた、尤も

漆黒の傭兵3人組のリーダーの件もある為断言は出来ないが


フードから肩や腕の部分が大きく盛り上がり

所々角ばっている事からその内側には

何かしらの装甲鎧を纏っていると見られ、

即ち、戦闘要員と見て間違いないだろう


最大の特徴と言えば、全員の纏うローブの様式が

フレイアが纏う神官服に酷似している事だ

そして比較的シンプルなフレイアの神官服に比べ

明らかにその施された刺繍・装飾の細かさから見ても

数段格上であると見て間違いない


「あのローブは...それにあの紋章はっ!」


その姿に最初に声を上げたのはフレイアだった

彼女に心当たりがあるという事は

やはりノヴァ教会に関係する服装と言う事だ


「フレイアさん、知ってるんですか?」


隣に居たセルヴィが尋ねると共に

皆の視線がフレイアに向けられる


「は、はい...あの礼装は教会の中でも聖女猊下に次ぐ

 教会内でも準最高位の物でございます

 そして彼等の胸の紋章は、ノヴァ教会聖騎士団の中でも

 神に仕える聖騎士、ノヴァス・ホーリーナイトの位を持つ者の証...

 教会内でもその姿を見た者は殆ど居らず、

 神々の伝承の一つ、所謂形式上の階級等とも言われておりましたが...

 本当に存在していたのですね...」


「ふーん、簡単に言えば教会の武力部隊、

 その精鋭の登場って訳ね、随分物騒な話ねー」


話を聞いたヴァレラが、また余計な物が一つ増えた

と言わんばかりぼやきつつ、露骨にめんどくさそうな顔をする


「亜人大戦以来...やはり知らない所で動いていた...」


同じく現れた3人に目を向けていたアリスが小さく言葉を漏らす

どうやらアリスは、より深く知っている様子だが

親しい間柄という訳ではないらしい


ゼロスとプロメは黙って相手の方向に目を向けたまま静止し

一同が夫々の反応を示しつつ、状況の把握に努めていたその時


『流石はラストガーディアンズ運用航宙艦プロメテウス...

 ドローンを経由した遠隔中継ですらその索敵精度、素晴らしいですね』


落ち着きある女性の声、そう

アリスと最初に遭遇した際、最後に聞いた声だった


声の元は通信波による物であり、

声の主がこの場に直接居る訳ではない

今回はプロメが手の平から【SOUND ONLY】と

古代文字の描かれた映像を映し出し、音声にして周囲に伝えている為

セルヴィ達もその声を聞く事が出来た


「お褒めに預かり光栄ですわ、

 それで、随分色々ご用意をして頂いてる見たいだけど

 今回はしっかりお話して頂けるのかしら?」


何事も無かったようにプロメが声の主に対して話を続ける


『勿論です、そのつもりで返答させて貰いました、

 ただし、その前に...』


言葉を言い終えるか終えないかの瞬間

先程姿を見せたローブ姿の3人が突如その片腕を一斉に掲げ

青白い閃光と共に高出力のレーザーを一点集中で放つ


「「「!!!」」」


ローブの隙間から覗かせる3人のその腕は

ゼロスやアリス同様、明らかに旧時代のテクノロジーを纏っている

そしてその閃光が放たれた先、それは


「ぇ...どうして...」


アリスだった


急激なエネルギーの消耗と再起動により、万全でない中

敵と認識していなかった者達からの突然の一斉攻撃に対し

全く対処出来ない状態で驚きの表情を浮かべ、迫る閃光を見つめる


そしてアリスの体が眩い閃光に包まれようとした時



バチィッ!!!ジジジジジィイッ!!!


アリスと閃光の間に人影が割って入る、ゼロスだ

ゼロスは両腕で正面にクロスを掲げ、防御する姿勢を取り

その左右の腕から発せられる防護フィールドを前方に最大展開させ

強力なレーザー放射を受け止める


濁流の如く迫る高エネルギーの収束体はフィールドに阻まれ

周囲に散り地面を抉り、激しい放電が周囲の小石を粉砕してゆく


「うぐぅっ!!」


ゼロスが僅かに声を上げる

脚が数センチ㎝に地面にめり込み

圧に押され、そのまま地を抉りながら僅かに後ずさって行く


更にローブの3人はもう片方の腕も掲げ

両手で更にエネルギーの出力を上げ

レーザー放射が一回り、その太さを増す


増加されたエネルギーがゼロスへと到達した時

光は爆ぜ、巨大な爆発を発生させた


爆風は数百メートル離れたセルヴィ達の元へも到達し

全員ヴァレラの背後に蹲る様に固まる


ガン!! キンッ!!


小石や木片等の破片が激しくヴァレラが構える

アーマード用の装甲シールドを打ち付ける


程なく衝撃が収まりると辺りは粉塵に包まれていた


「ったく何なのよアイツ!!

 話をするって言った瞬間に不意打ち⁉

 あんたらも怪我してない?大丈夫?」


粉塵が入り、痛む目を擦りながら

ヴァレラが背後のメンバーに声をかける


「ケホッ...わたくしは大丈夫ですわ」


一番後ろにに伏せていたフレイアが答え

白い神官服を砂埃塗れにしながらゆっくり立ち上がる


「私も大丈夫ですっ、でもゼロスさんが...」


続いてその前に居るセルヴィも返事を返す

両者言葉通り特に怪我等の外傷は見受けられない


「大丈夫だって、あいつはそんな簡単に

 やられるタマじゃないって、そうでしょ?」


今にも身を乗り出して盾から飛び出していかんとする

セルヴィをなだめつつ、ヴァレラがプロメに目を向ける


普段であれば「大丈夫よ」「ええ」などの

返事がすぐに帰って来る所であるが

プロメの表情が何時になく無表情にただ

粉塵の先に居るであろうゼロスへと目が向けられている


そしてプロメの瞳には夥しい情報の羅列が津波の様に流れていた

仲間の声に反応するよりも何よりも

現状の状況分析に全ての機能を費やしている


すぐにヴァレラも同じくゼロス達が居た方向へ目を向ける

そのプロメの反応は【問題ない状況ではない】という事を

ヴァレラに悟らせた


皆の視線が向けられる中、徐々に粉塵が風に流され晴れ始める

やがてゆっくりと二人の人影がぼんやりと浮かび上がった


やはりなんともないではないか、

そう想いを口にしたいヴァレラであったが

何故か声にする事は出来なかった

黙ってそのまま息を飲み目を向け続ける


すると、小さい影、アリスの前に立ちはだかるゼロスは

確かにその場にしっかりと立っている

しかし先程までとそのシルエットの何かが違う


次第にそれは明らかになった、欠けているのだ


「ゼロスさんっ!!!」


同時にその姿を捉えたセルヴィが

目を見開きながら、薄っすらと涙を浮かべ

悲鳴にも近い声で叫ぶ


ゼロスが防御に掲げていた

今までどんな凶悪なモンスターの牙でも

無数の銃弾の雨を受けても

全く傷一つ付く事はなかった両腕


クロスさせていた前腕の右腕の肘から先が

内側にあった左腕の手首の付け根から先が


無くなったいたのだ


ズシャッ!!!


その場に崩れる様にゼロスが片膝をついた


バチン!! バチッ!!


全身から発せられ高熱により周囲の大気が揺らぎ

消失した腕の傷口から行き場を失ったエネルギーは弾け

人間である部分の血液なのか、それとも機械のオイル類か

量は僅かだが、赤い液体が滴り、地面に僅かに染みを作って行く


「そんなっ...ゼロス様...」


思わずその光景にフレイアが両手で口元を抑え眉を下げる


「うそ...なんで...?

 あのアンドロイドだって手も足も出なかったのに、

 ゼロスはあんた達の時代最強の兵士なんじゃないの!?」


「...」


その場にへたり込んでしまったセルヴィの肩を抱きつつ

ヴァレラがプロメに再び問いかける

しかし変わらず返事はない


『状況は整いましたね、さぁ、話し合いを始めましょう』

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