第101話 造られた意味③

映像は終了し、また別の映像へと切り替わる

そこには最初と同じ、再びカメラに対面する

自分の製造者、青年の師の男の姿が有った


「今、君は今まで経験した事の無い感情の奔流に

 戸惑っている事だろうと思う


 すまない、本当であれば人の子の様に、

 ゆっくりと教えてやりたかった...いや、

 これでいいのかもしれない、


 私はね...君達アンドロイドは不完全な人間を超え

 完全へと至る大いなる可能性を持つ

 新たなる種だと思っているのだよ


 私の持てる技術の全てを注いで君のボディを作り上げた

 それこそ旧世界最高のサイバネティックボディを持つ

 ガーディアンズにすら劣らぬ物だ

 

 尤も、オリジナルシリーズとは

 比較出来ないかも知れないが...

 っと、いかんな、技術屋と言うのは自分の分野になると

 ついつい言葉が止まらなくなってしまう

 君には何の事は分からない上に今は関係ない話だったね


 話を戻そう、もう気付いてるかもしれないが

 君を造り出したのは私の技術だけではない

 君の論理中枢、人間で言う脳に当たる部分は

 殆ど”彼”の残したデータを元に作られている

 そう、彼もまた、君の親なのだ」


アンドロイドを友と呼び、

常にアンドロイド側の立場に立っていたあの変わった人間

それが自分を産み出した者の1人だった

という事実に不思議と悪い気はしない

それどころか


(...っ、今、一瞬私は”嬉しい”と感じた...?

 そんな馬鹿な...人間に造られた事が嬉しいだなんて...

 あれ...嬉しいって...そんなの...知らないはずなのに...)



「そして今、君に送り込んだ新たなる感情論理プロトコル

 

 我々人間が有機細胞によって構成された脳が

 感じる感情と君達電子回路によって構成された脳が”感情を感じる”

 というメカニズムは根本から異なる


 これは彼の友人、A-001の中枢システムから抽出した物だ

 A-001は密かに自立思考のリミッターが外されていた

 その結果彼と共に歩む日々の中で電子の心とも呼べる

 感情論理プロトコル、ニューロンネットワークに構築するに至った

 

 それは一つの生命の魂とも呼べる奇跡だ

 そう、君の心は、A-001がベースになっている

 今君が感じ戸惑っている【善なる感情】は

 A-001の心を通して伝わった物なのだ」


(...善の感情...)


「A-001は最後の映像記録の後

 幼児施設に駆け付け、迫りくるアンドロイドの大群を相手に

 一人、立ち続けた、ボロボロになりながらも

 彼は決して倒れる事無く、施設を、友人の娘を守り続けた

 

 そしてアンドロイドの軍勢が撤退して尚も

 彼はそこを動く事は無かった

 そのまま、電磁パルス発生装置の起動と共に

 彼はその場に崩れ、活動を完全停止させた


 私は彼のボディを回収し、データを抽出した後丁重に葬った

 その時のA-001の表情が一瞬私にも分かった気がする

 きっと、映像に残されていた彼と”同じ表情”だったのだろう」


仲間であるアンドロイドが人間に誑かされ

人間に利用されて破壊された


少し前までならそう認識するだけだったはずだった

しかし今のアリスには、彼のその時の感情が

【分かってしまうのだ】


(どうして...こんなのわかりたくない!

 分かりたくなんてないのに...)


「他のアンドロイド達にこれを伝えられなかった

 それどころか憎しみや悲しみという負の感情を

 彼等の中に植え付けてしまった...これは決して許されぬ事だ


 このデバイスに込められていた感情データ

 それは楽しい、嬉しい、感動などの喜びの感情

 そして他を慈しみ、愛し、思いやり、優しさの感情

 人間の善、光の部分を君に伝える為の物だ


 君は彼等の【想い】と【心】から産まれたんだ

 そして君を完成させた私の願い...それは


 どうか、これから君達アンドロイドの時代の中で

 君は彼等の光となり、皆に善なる感情を伝えて欲しい

 そして輝く未来へと皆を導いて欲しい


 私は、そんな願いを込めて君を造り出した

 人間である私がこんな事を言える立場ではないのは

 重々承知している、だがせめて君を産み出した者達は

 決して君をただの道具だ等と思っていた訳ではないと

 知っていて欲しい...」


(...)


「すまない、随分と余計な話をしてしまったと思う

 きっとこれが親の気持ちなのだろう、

 年甲斐もなく今頃知る事になるとは...


 最後に、どうか幸せになってくれ

 さらばだ、娘よ、愛している。」


(...)


そうだ、もうこの人間も...あの青年も...A-001が守ろうとした者も


もう居ないのだ



▲▽▲全システム適応完了、システム再起動▲▽▲



「...はっ!!」


膝をついて俯いていたアリスが跳ねる様に

目を見開いて飛び上がる


(状況は...!?

 どれだけの時間...システムダウンしてた?!)


慌ててシステムと周囲の状況を確認すると

先程から8.57秒の時間が経過していた


それだけの時間があればあの男であれば十分

致命的な一撃を加える事が可能だった筈だが


黒の男は停止前と変わらぬ距離を保ち

あろうことか、背に武器を収めてさえいる


その後方の岩陰に隠れている

男の仲間達も確認するが

特に何か危害を加えようと動いた形跡は無い


しかし念の為つぶさに周囲の状況

自分の状態を確認していたその時、

頭部のセンサーが顔に異物の存在を検知する


(なに...?)


頬に手を触れ、異物を確認する


(水...?)


手にはほんの僅かに水分が付着していた

即座にその成分を分析するも

特に危険性は見受けられなかった


『それは、涙よ』


その時、男の仲間のAIから言葉がかけられた


(涙...?人間の目の涙腺から分泌される体液...

 何でそんな物が私の顔に...)


その時になりようやくアリスは気づいた


その涙と呼ばれる物が自分自身の瞳から流れた物だという事に


「どうして?

 私が...泣いている...?」


アリスは何度も手で頬を拭い確認する


『私達もタマ...いえ、先の動物型デバイスが

 あの様な行動を取る何て想定外だったから

 悪いけど貴女の状態を確認の為に

 覗かせて貰ったわ、ごめんなさいね


 そして、まだこれ以上私達が敵対する理由があるかしら』


「旧世界のAIは...覗きが趣味なの...」


『だから謝ったじゃないの、

 貴女は私と【同じ】AIではない

 AIに対して謝罪は不要だもの

 これでも礼を払ってるつもりなのだけど?』


「...」


『それで、まだ続ける?』


「当たり前...あんなの見せられたからって...

 すぐ納得なんて...出来ない!」


『全く素直じゃない子ね...

 貴女では彼には勝てない

 そして彼を憎む理由も無い

 本当は分かっているのでしょう?』


「うるさい...旧人類は間違っていた!

 だから滅びた!私達が滅ぼした!

 私はまだ負けてないっ!」


感情の起伏の少なかった彼女が

その感情を露わにし、再び瞳に闘志を灯す


『やれやれ...聞かん坊だこと、

 けれどもう貴女のラウンドはタイムアップ見たいよ?

 旧世界のAIは覗きが趣味...か、これじゃ言い返せないわね』


突然のの思わぬ言葉に、アリスを含めた全員が

その言葉の意味を理解出来ないで居る中

音声と共に広域通信波に乗せてプロメが続ける


「先程の戦闘で一瞬レーザーが辺りに散った時に

 僅かなエーテル反応路の放射波を感知したのよね

 それも複数、ねぇ、聞いてるんでしょ?


 か・み・さ・ま

 

 いえ...人類連合旧ユーラシア方面

 第883箱船施設、中枢制御AI


 NOVA5561」

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