第13話 今自分に出来る事

「お前等っ!無事で何よりだ!」


「おうよ、旦那の分も有るぜ」


一人が背に掛けていた大筒、スチームガンを一丁カイドに手渡す

何時しか王都のあちこちから煙が上がり

まるで戦場の様に爆発音が散発的に鳴り響いている


「助かった、一体状況はどうなってるか分かるか?」


「町中魔物だらけで大混乱じゃ」

「都市防衛隊は慌てて外延部から中央目指し再集結しとる様だ」

「衛兵達が王城に避難する様にと市民を誘導しておったぞ」

「途中合流できると踏んで迎えに来たんだ」

「...緊急」


「そうだったのか、よし、今から皆で王城めざ...


「待って下さい!」


突然セルヴィが大声で静止する


「さっきから流れてる古代言語のアナウスなんですが...」


「ん、ああ騒ぎが始まる直前からなり出して今もなってる奴か」


最早町中の悲鳴や爆音によって今では言葉を聞き取る事は難しいが

今尚鳴り続けている事は辛うじてわかった


「あの放送っ、都市から逃げろって言ってるみたいなんです!」

 都市中心の王城では無くこのまま町を出るべきと思います!」


「お前...あれも聞き取れたのか!」


「は、はい...大型神機同様一部だけですが...

 ですが明らかに危険と都市からの避難を訴えてました!」




「なんてこっ...【ガラガラガラ!】


直後、スチームガンにより吹き飛ばされた

魔物がめり込んだ石造りの建物から瓦礫が崩れ始め、そして



キシャァアアア!!



「な、なんじゃと!?」

「スチームガンの直撃を受けてか!」

「かすり傷しかついとらん!」

「なんてやつだ...」

「...危険」


再び魔物が瓦礫の中から姿を現した

スチームガンが当たったと思われる部分には

僅かな傷が見て取れるが、健在の様だ


「くそ!お前等!一斉に集中攻撃で畳みかけ...


カイドが指示を出そうとしたその時だった



キシシシシ...



キシシシシ...



周囲の路地から次々と最初に見かけた昆虫型の魔物が姿を現す


「なっ...くそっ!」


翼持ちの口頭の魔物を正面と左右に昆虫型の魔物に挟まれる形となった


「...ふぅ...」


険しい表情を崩し、懐にあったタバコを口に咥える

火をつける事無くそのままスチームキャノンを魔物に構える


「てめぇら二人は左の魔物を持て!お前等二人は右だ!

 そしてお前と俺で正面の翼持ちをやるぞ!!

 一人は攻撃、一人は回避に徹しろ!距離を保て!

 狙われたら兎に角逃げろ!その隙にもう一人が撃ち込め!」


カイドは直ぐに職人達に指示を飛ばす

指示を出しながらスチームガンを魔物に構えたまま

セルヴィの前に立ち塞がった


「兄さん...?」


「ここは俺らで食い止める、お前は何としても逃げろ

 町の外周に近付けば、外からの襲撃だと思って

 外縁部に展開していた防衛隊が来てくれるはずだ

 それまで死ぬまで走って逃げろ!」


「そ、そんな事出来ませんっ!私も残って一緒に戦います!」


「今ここで魔具も使えないてめぇに何が出来る!行けっ!」


「嫌ですっ!!」


涙を浮かべ必死に抵抗の意を示すセルヴィ


魔物はじりじりと距離を測っている

対面するカイドと職人達が互いの相手と

一瞬たりとも目を反らさず対峙している

砲を構え背を向けたままのカイドがゆっくりと口を開く


「なぁセルヴィ、実は俺ぁ元冒険者なんだ」


「ぇ...?」


先程の怒気は一切なく、穏やかに話し始める


「だが、ある時一緒に冒険してた仲間が死んじまってな

 俺はガキの様にピーピー泣き喚いたもんさ

 丁度二月前のお前の様にな」


「兄さん...」


「それで冒険者も辞めて酒に入り浸った

 何度も悔いた、もっと自分に力があれば

 あの時もっと出来る事があったんじゃないか」


「そして俺は師匠に拾われ魔技師になった

 俺が出来なかった事を次に託す為に

 俺は送り出す側になった」


「セルヴィ・マクナイト」


「は、はいっ!」


「兄弟子からの最後の授業だ

 分不相応を求めず、今の自分に何が出来るのか

 考えろ、考え抜いて、今の自分が出来る最善を成せ」


「...はい」


「今お前に出来る最善は、ここに残り俺達の足を引っ張る事か?」


変わらずカイドはただ背中越しに語り続ける


セルヴィは強く震えながら下唇を噛みしめる


「......ならず...必ずまた会えますか...」


「なぁに、最後なんて言ったがここで俺らも死ぬ気はねぇよ

 こんな虫モドキと蛇蝙蝠なんざとっとと片づけて追いかけるさ

 なぁお前等!」


「おうよ!」

「またセルヴィちゃんの飯をまた食うまでは死に切れんわい!」

「うむ、伊達に長生きしとらんよ、しぶとさは筋金入りじゃ!」

「心配無用、後ほどまた会おう!」

「...当然!」


職人達も皆、背中越しに力強く答える


セルヴィは拳にぐっと力を入れ

しっかりとした足取りで立ち上がる


「約束ですよっ!」


「おう、また後でな」


他5人も各々返す


そして皆に背を向けると全力で走り始める


背後からスチームガンの轟音が立て続けに鳴り響く



振り返る事はせず



歯を食いしばり



流れる涙を拭い



ただ走る



今自分に出来る最良の元へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る