第10話 王都建国祭

「で、だ...何で俺がお前と一緒に祭りを回ってるんだ?」


カイドは今、セルヴィと並び日中の出店溢れる中央広場へと来ている


「余り此方の地区には来たことが無いのです

 何処に屋台が出るのかも分かりませんから

 子供の私一人で行くのは危ないじゃないですか?」


「ぬぐぐ...お前結構根に持つタイプだったのな...」


「なんのことですかぁ?」


満面の笑みで答える


「わあったよ、1日休めって言ったのも俺だからな

 去年も一昨年も工房にこもりきりだったし

 久々に俺も見て回るか」


「年に1回のお祭り、楽しまないと損なのです!」


「調子の良い奴」


「むぅ!行きますよ!」


「おいちょっとまてっ、本当に迷子になるぞ!」


プンスカ急ぎ足で進むセルヴィを慌てて追いかけるカイド


中央広場を中心に様々な出店が立ち並んでいた

見た事もない肉の串焼きや

何とも言えない香しいスパイスの焼き料理

熱帯地方のフルーツ等非常に珍しい物であふれていた


初めて見る物片っ端から目を輝かせカイドの財布を涼しくして行く


出店には生活品や武具等も多く出店されており

その中には勿論魔具を取り扱った店も数多く存在していた


寒い地域で使われる強化広範囲型暖房魔具や

砂漠地域で用いられる防塵防壁を持つ冷風魔具等

普段見かけない珍しい物も多く散見される


魔技師の血が疼くのか、これにはカイドも強い関心を示し

露店の前で熱い魔具論を交わし始め

店主を困らせたりもしていた...


「しかし魔具だけじゃなくて神機まであるなんてビックリしました

 それもテストラで発掘される物とは機構もデザイン全然違うんですね」


「ああ、ありゃ神機モドキだ」


「神機モドキ?」


「世界にゃ色んな遺跡があるんだが、中には全く利用価値の無い遺跡も多くてな

 そこは古代人にとってのゴミ捨て場や祭殿の類で有用な物が無いだとか

 別の古代人の遺跡で年代が違うんじゃないかだとか

 色々言われてるが確かな事は何もわかんねぇのよ」


「へぇ...遺跡や神器にも色々あるんですね!」


「そうだな、その点テストラ地下の遺跡は最高峰の価値を持つ遺跡の一つなんだよ

 だからこの都市には冒険者や傭兵達が世界中から挙って集まってくる訳だ」


「冒険者目指してるのに私全然知りませんでした...兄さんは詳しいんですね」


「ん?あ、ああそうだな、魔技師ならこの位の情勢知ってて当然だ」


「?」


一瞬カイドがたじろぐのを不思議に思う


「そ、それよりもだ、まだまだ屋台はあるんだ午前中にある程度回りきるぞ!」


「ぇ、あ、ちょっと待って下さいよー」


今度はそそくさと先に進むカイドをセルヴィが追う


ーーーーーー

ーーーー

ーー


そしてそろそろ正午になろうとしていた頃


「ふぅ!ちょっと疲れましたね、少し休憩しませんか?」


「疲れたってより、食い過ぎの間違いじゃねぇか?」


「むぅ!レディに向かって何と酷い!」


「ならもう少しレディらしい立ち振る舞いをだな」


変わらずのやり取りをしながら中央王広場に戻ってきた二人は

手近な場所に設置されていたベンチに腰を下ろす


「よいしょ...っと」


隣に座ったカイドも背中を深く腰掛け、煙草を1本取り出し火をつける


「兄さん、ありがとうございます」


「どうした急に、今日の事か?なら気にしなくていいぞ

 俺もそこそこいい気分転換になってるからな」


「いえ、勿論それもありますけど

 私が三日月亭にお邪魔してからの全部です

 兄さんが職人の皆さんには色々面倒をお掛けしてますが

 本当に沢山の事を教えて貰って感謝し足りません」


「ばーか、そういうのは一人前になってから言いやがれ」


ふぅ...だまって大きく1度煙を吐くカイド

 

「ま、お前の道を決めるのはお前自身だ

 お前が何時か三日月亭から離れる日が来ようとも

 その日までは俺やあいつ等が面倒見てやるよ」


そういった言葉をカイドから直接かけて貰う機会は非常に少なかった為

一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐとても嬉しそうな顔になる


「ありがとうございます!」


その時だった



ゴーン...ゴーン...ゴーン...



遠くから、しかしハッキリと聞き取れる力強い鐘の音が城下に響き渡る

テストラ城下に於いて正午を知らせる合図だ


「お、もうこんな時間か、そういや正午といえば

 何か魔技研がどでかい発表するって知らせがあったな」


「でかい発表...ですか?魔具ですかね!?」


「魔具かどうかはまだ分からんが、魔技研の発表だからそうかもしれねぇな

 何でも王国始まって以来の大発明の発表らしいって噂だが

 これだけ派手に触れ込んだ以上それなりのもんは出てくるだろうよ」


「ワクワクしますねっ!...む?早速何かあるみたいですよ!」


広場から見える遥か先の王城

その上部、国王陛下が民にご尊顔を示される巨大なテラスに

何人かの人影が並んでいる、ここからでは米粒の様に小さく

明確な顔まで確認する事は出来ない


その衣類から判断するに2人は国王陛下と王女殿下

そして周囲は護衛の者だろうか、派手な甲冑に武装している

少し距離を開けて研究員らしき衣装を着た者が数名見受けられる


程なくして、ファンファーレの演奏の後、国王陛下のスピーチが始まった


「親愛なる我がテストラ国民達よ」

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