第9話 動き始める終焉の歯車

手を触れた部位から光があふれる

文字通り、手をすり抜け光の板の様な物が飛び出して来る


「離れろっ!!」


カイドが叫ぶ


「は、はい!!」


セルヴィは一端その場を急いで飛びのく


「な、なんじゃ?!」

「一体何事だ!」

「敵襲かっ!!」

「騒がしいのぅ...」

「...異常」



その騒ぎに他の5人達もたまらず飛び起きてきた



フオン...フオン...フオン



奇怪な音上げながら大型神器が作動している

中央の支柱周辺をまるで何もない空中に

湾曲したガラスの様な半透明な表示板が現れた


表示板には古代文字がびっしりと書かれ

一部絵の様な物も見て取れる

それが十以上出現し、ゆっくりと円を描きまわっている


「大丈夫か!」


「は、はい!何も感じませんでした!」


手を透明な光の板の様な物がすり抜けた時

一切手には何の感覚も無かった、物体では無い様だ


「いったいこれはなんn


『**********、********、**********』


「「「!!」」」


突然機械から女性の物らしき、しかし無機質な音声が流れ始める


一同皆驚愕な表情を浮かべる中、セルヴィも最初同様だったが

すぐに大型神器から発せられる音声に耳を澄ます


「...都市中枢...管制......要請......権限者...緊急......」


ぽつりぽつりとセルヴィが呟き始める


「古代語が聞き取れるのか?!」


「断片的な単語だけですが...

 過去言葉を発する神機の解析書に書いてあった言葉が幾つか

 この言葉を繰り返し流している様です」


「ほぉー古代言語の勉強までしとったのか」

「大したもんだ...いったいどういう意味なんだ?」

「古代言語はさっぱりわからん」

「このびっしり出てる文字は何て書いてあるんじゃ?」

「...驚愕」


一同その様子を見ようと近づいた瞬間...



フゥン...



突然先程まで光を放ち回っていた文字列の透明な表示板は全て消え失せ

元の停止状態へと戻っていた


「おいセルヴィ!さっきどうやって起動させた!?」


「わ、わかりませんっ、さっき傷ついてないか見ようとして

 手を触れたら...そうだ!そうです!

 私!そこの突起中央の平べったくなってる所に触りました!」


「ここか?よし!」


すぐに位置を確認し、カイドが手の平を翳し触れてみる


...が何も起こらない


「きっと手袋です!」


「そうか!」


再び手袋を外し触れてみる...がやはり何も起こらない


「ダメじゃねぇか」


「あれー...さっきやった事ってそれ位しか...

 ちょっともう一度やらせてください」


そういって大型神機に近付き先程と同じ場所に手を触れる


すると...



フォオオオオオン



再び大型神機が機動し、先程と同じ状態を取り戻した

そして再び古代語による音声が流れ始める


この状態は5分程維持され、また再び停止した

そしてセルヴィが触れると再び機動した


この状態は複数回試され、全く同じ結果を再現する事が出来た

カイド並びに他の職人5人全てが試したが

セルヴィ以外の者が触れても神機が起動する事は無かった


「ぬぅ...起動する様には成ったが、何がキーなのか依然わかんねぇな」


「女性しか反応しないとかでしょうか?」


「もしくはガキしか、かもな」


「もう!」


ワハハハハ!


6人の笑いが工房に響き渡る

先程まで横たわっていた時の様に死んだ目をした者は居ない

皆活力を取り戻していた


「しかしこれは一体何て書いてあるのでしょう

 文字が多すぎてとても読み切れません...あれ?」


中心に回る映し出された文字や図形の中で一つだけ

中央に鎮座したまま動かない物が一つだけあった

そこには手の平の様なマークが丁度手程の大きさに浮かび上がっている


「これは...」


ふとセルヴィがその手の平のマークに合わせる様に手をかざしかけたその時


「触るなっ!!」


「ひぅ!?」


先程までの和やかな雰囲気とは打って変り

カイドが真剣な顔でセルヴィに怒鳴りつけていた


「慌てるな、まだこれが兵器だって可能性も無くなった訳じゃない

 もしライルガンの様な兵器だった場合、最悪俺達

 下手すればこの周囲が吹き飛ぶ様な事だってあるかもしれない」


「す、すみませんでした...」


「い、いや、俺の方こそ怒鳴って悪かったな...焦らず慎重にやろうや」


「はいっ!」


バツの悪そうにそっぽを向きながら言うカイド


「ほぉ、少しは大人になったのぅ」

「ついにデレが始まったか」

「普段からそれ位素直にだな」

「それでこそ兄弟子じゃ」

「...立派」


「っるせぇよ!」


5人のドワーフ達とカイド達の戦いが始まる


「あははは...でも皆さん!大きな前進があった訳ですから

 このまま一気に解析を進めてしまいましょう!」


「あー、いや、作業は一端終了だ」


「ほぇ?」


「明日は建国記念祭だ、町中がお祭り騒ぎの中

 俺らだけ仕事してる訳にもいかねぇだろ

 それに息抜きはしねぇとな」


「で、でもっ!」


「だから焦るなって、神機は逃げやしねぇよ

 それに確かに今回は大きな前進があった

 だがこういう浮ついた時ってのはミスも増える

 休める時は休む、そして頭切り替えて挑もうや」


「はい...わかりました...」


「納得いかねぇって顔してんな

 無理もねぇか、ガキに買った玩具の箱空けんなっていっても

 我慢できねぇもんな?」


「そんなことないですっ!」


「なら明日は休め、建国祭は他の色んな国からも行商が来る

 出店も色々出るから、普段は食えない様な物や

 この都市で中々見かけない様な魔具も売ってたりするぞ?」


「本当ですか!?それは凄く楽しみです!」


「おう、だから今日は寝ろ」


「解りました、ありがとうございます!」


ペコリと礼をすると工房から出て自室へ駆けて行くセルヴィ

その変わり様を見てやっぱりまだまだお子様だなと思うカイドであった


が、手持ちのタバコを吹かすその表情は穏やかである、その背後で


ニヤニヤ×5


「お前等...口開くんじゃねぇぞ...」


工具を振り上げると

そのままの表情でそそくさと退散する5人


「ったく...」


そして工房に一人残ったカイドは大型神機に目を向け

ふっと口元に穏やかな笑みを浮かべると

一つ一つ明かりを落とし、工房を後にする。


一方その頃





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※テストラ城下 北西地区 王立魔具兵器研究所




様々な配線、機器、図面書類に囲まれた石造りの巨大な工房で

何十人もの研究員らしき者達が世話しなく走り回っている


「明日はいよいよ建国記念日当日だ、最終確認急げ!

 国家の威信がかかっているのだ!

 絶対にミスは許されないぞ!」


その場の長らしき男が高揚気味に声を荒げる


「魔具の動力をマナでは無く

 初めから遺跡の力を用いる事を前提とした

 全く新しい、我々自身の技術による神機の完全再現!


 これが成功すれば何れは我々は神機の解明に大きく近づくだろう!

 過去世界で誰も成しえなかった大偉業である!

 成功の暁には諸君ら全員の名が後世に残る事であろう!」


『おぉおおおお!』


巨大工房内を研究員たちの方向が振るわせた


全体をいくつもの巨大な配線・配管に繋がれ

都市外周に設置されている拠点型ライルガンを更に二回り大きく

全体に丸みを帯びたフォルムの砲身が冷たく光る




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※テストラ城下 ノヴァ教会中央大聖堂


夕日差す巨大なステンドグラスの前に

白のフードを被る小柄な少女らしき者一人、空に言葉を交わす

その背後にもフードを被った者達が通路に2列になり控えている


他の者のフードは少女の物とは異なり細かい金細工や刺繍も無く若干シンプルであり

その中には先日賢王と謁見していた女の姿も見られる



「はい...」


「はい、テストラ王は要請を聞き入れませんでした」


「はい...残念です」


「畏まりました、仰せのままに...」


全員フードを深く被り表情は伺えないが

何者かと会話をする様に空と話す少女を不思議に思う者はこの場には居ない


空との会話を終えたのか、少女が振り返り

背後に控えた居た者達に向き直る


フードの隙間から整えられた淡紫の前髪と、その間に赤の目が光る


「神託は下った

 間もなくこの地は災厄に見舞われ滅びを迎えるであろう

 我々は今夜中に経ち皆で本国に向かう

 直ちにテストラ城下各教会の司教に伝達せよ」


「「はっ!」」


その後誰一人言を発さず動揺する様子も無く一斉にその場を後にする

誰も居なくなった聖堂で再び女はステンドグラスに振り返る


「愚かなる人間達にせめて安らかな眠りあらん事を」





滅びの足音は確実に近づいていた

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