第8話 未知の大型神機の解析

「いったい何だこりゃ...」


そう呟くカイド達の前には工房内の大型魔具用のスペース一杯の

巨大な画鋲の様な神機らしき遺物が置かれ、一同顔をしかめている


「土産って言ってもでか過ぎだろ...」


「こんな大きな神器は早々見た事ないのぅ」

「何かの装置か?」

「いや、大型兵器かもしれん」

「ただの古代人の置物という事も」

「...不明」


カイドを始め職人達がそれぞれの声を上げる


「ジャッカスさん達が前人未踏19階層から回収した大型神機...

 内部にエネルギーが残存している事も確認されていますし

 きっとまだ生きてると思います、諦めずに調べてみましょう!」


一月程前、魔技研の探査研究員が現在発見されている最下層

18階層の調査をしていた際、1つ下層より

非常に強力な遺跡のエネルギー反応を観測


すぐに王国主導の元、ジャッカス率いるSランク傭兵部隊に

調査並びに可能であれば対象の回収が依頼され


依頼を受けたジャッカス隊は見事未踏破19階層に到達

探査の結果対象を発見、持ち帰る事に成功し

発掘された神機は即座に魔技研に持ち込まれ解析が始められた


しかし...一か月以上の調査の末、魔技研が出した結果は


【何等かの一時的なエネルギー保管装置】


という物だ、あらゆる手段を用いても機械として動作を検証出来なかったのだ

また保管装置であったとしてもエネルギーを取り出す手段も解らず仕舞い


これ程大きな装置では携行する事も出来ない

エネルギー自体はこの遺跡都市その物から一部抽出出来る物であり

無用の長物であると最終判断されたのだ


遺跡から出土した神機にはこういう物は少なくはなかった

兵器や有用性のある神機自体が発掘される遺物の中で自体稀少なのだ


しかしその結果に納得のいかなかったジャッカス隊長は激怒し


「ふざけるな!!貴様らこれを持ち帰る為に

 儂の部隊やこの作戦の為に何人の犠牲者を出したと思っておる!!

 それが無駄骨だったという言うのかっ!!」


それは凄まじい激昂だった

その場に居た魔技研の研究員が皆震え上がる程だったらしい


そしてそのままその装置を三日月亭へと持ち込み、解析を依頼したのだ


用途不明であっても国家管理のそれ程の物を個人の裁量で持ち込めるのは

Sランク傭兵部隊の長である所以であろう


通常の傭兵部隊であれば基本は便利な駒・国家の犬であるが

Sランクともなれば少数の精鋭部隊という単位で見れば

国が管轄する軍の最精鋭部隊と同格またはそれ以上の実力を有する


当然軍隊であればより大きな部隊行動を伴う故、比較できる物ではないが

そういった巨大組織を運用する中でワンオフの少数精鋭の部隊を育成する事は

非常に長い年月と大きな予算を必要とする為

国家としてもS級傭兵は1組でも多く国家に所属させたい所である


「しかしなぁ...魔技研のエリート様連中が束になっても

 結局解らなかった物をこんなしがない一町工房でやれっつてもなぁ」


カイドが煙草を咥えながら複雑な顔をする


「魔具であろうと神機であろうと機械には必ず

 その作られた目的と用途が論理的に組み上げられています

 形状一つ・部品一つから調べて行けば必ず答えはあるはずです

 これを持ち帰る為に命を賭けた人達が居たのですから

 彼らのその意思を絶対無駄にしてはいけないと思います!」


「お、おぅ...」


思わず勢いに押されたじろぐカイド


「セルヴィちゃん立派になったのぅ」

「よういった!それでこそ職人じゃ!」

「全くだらしない、それでも兄弟子か」

「弟弟子に後押しされる様では...いや、妹弟子か」

「...成長」


「だぁー!わかってるっての!誰もやらねぇとは言ってねぇだろ!」


煙草を灰皿にこすり付けるとプランター頭をわしゃわしゃさせる

そして表情を真剣な物へと切り替える


「よし、じゃあまず正式にこの神機の調査依頼にあたって

 プロジェクトのリーダーは...セルヴィ、お前がやれ」


「えっ!?わ、私ですか...?」


「何だ、あれだけ大見え切って置いて今更尻込みか?」


「い、いえ!でも、私なんかより兄さんや

 他に熟練した職人の皆様の方が...」


「いや、この件はお前が適任だ

 確かに多少の小手先の技術に関しては

 俺やこいつ等の方が経験の差から一日の長がある

 だがお前の【機械を見る目】の才は確かだと踏んでいる


 なぁ?お前等、セルヴィにこの件を任せる事に反対の奴ぁ居るか?」


「勿論ありゃせんわい!」

「儂も賛成じゃ」

「俺らの目は節穴じゃねぇぞ」

「頼んだぜ、セルヴィちゃん」

「...無論」


職人達は全員すぐに快諾した

そしてそれを当然の様に悠然と腕を組み

真っ直ぐとセルヴィを見据えるカイド



「皆さんっ...!

 ありがとございます!不束者ですが

 この解析プロジェクト絶対にやりとげてみせます‼」


深々と礼をすると

皆一同笑顔でそれを受け止めた


そして三日月亭は本格的に大型神機解析へとプロジェクトを開始した

解析依頼を最優先すべく、通常の作業台等は撤去され

ホワイトボードに様々な書類データを張り出す版が並べらる

そして床を解析機器・配線が周囲を埋め尽くした


「まずは形状からだな、土台に当たる下部の円盤状の直系は約3m...」


「中央に何本も生えてる細長い支柱の様な棒は

 大小7本、太さも厚みも長さもバラバラじゃ」


「何本かは中央で横に出っ張りがあるみたいですね」


「こんなのやっぱり他のどの神機にも見た事ないぞ」


「でも、全体で見れば他に例が無くとも

 個別のパーツで見て行けば似たような物もあるかもしれません」


「表面のチェック完了じゃ~

 古代文字と思われる様な模様は一切見当たらんのう」


「熱反応は一切無かった、強いエネルギーが内部にあるのは確か」


「機械のつなぎ目に稼働部位はらしき物は見当たらない

 動く物じゃなさそうだ」


皆世話しなくそれぞれの仕事をこなしていく

そうして昼も夜も、時間を問わず工場につきっきりで作業にあたり

それから暫く三日月亭の工房の明かりが消える事は無かった



ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー



そうして何も解らぬまま一週間が経とうとしていた


「だぁー、なんっも分んねぇ!」


その場に大の字で床に寝転がり、タバコに火をつけるカイド


「そうですねぇ...せめてもう少し何か規則性とか

 操作板、スイッチの様な物があれば...」


神器の横に設置された大量の書類を積み上げた机に項垂れながらセルヴィが答える


他の職人達も柱を背にしたり、長椅子に横たわったまま

眠ったりぐったりしている...正に一同抜け殻状態である


「一体何なんだろうなあ...こいつ」


「根拠はまだないんですが...もしかしてこれは

 通信機の一種なんじゃ?なんて思ったりなかったり」


「通信機ぃ?こいつがか?

 確かに他の国まで届く程の通信機は発見されてるが

 古代人の技術なら手の平サイズだぜ?

 幾ら何でもコイツはでかすぎだろ」


「はい...まだ確かな事は解らないのですが

 色々見た中で類似性があるのが通信機位なんです

 無理やりこじつけた、とも言えなくないのですが...」


「だー、いい加減お前は何なんだ、よっ!」



ガン!



ふと上半身だけ起こしたカイドは脇に転がっていた

交換用のレンチの先端を大型神機に投げつけた


「ちょっと兄さん!何て事するんですかっ!!」


「たぁく、神器はこの程度で傷一つつきゃしねぇよ

 未だに何の金属で出来てるかもわかっちゃいねぇんだ」


「もう!それでもそんな事しちゃだめです!全く!」


机から飛び起きたセルヴィが雑巾を片手大型神機に歩み寄る


「全く...万が一にもそれで大事な依頼品が

 破損したらどうするんで【ピッ!!】...えっ?」


ペタペタと表面に傷が無いか確認して雑巾で吹いていた際

ある部分に雑巾を持っていない手を触れた瞬間



フォオオオオオオオオオ



甲高い機械の起動音を発しながら大型神器が輝き始める


「離れろっ!!」


咄嗟にカイドが叫ぶ

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