第7話 冒険者の覚悟

あいつが三日月亭(ここ)に来て5か月が経った

突然オヤジから手紙が来たかと思えば

弟子の面倒見ろと言いやがる、隠居してたんじゃねぇのかよ


んでどんな奴が来るかと思えば

まだほんの小娘のガキが来るじゃねぇか

正直、最初は面倒事を押し付けられたと思ったよ


適当に雑務でこき使ってやりゃ

すぐ音を上げて泣き出して田舎に帰ると思ったが

全くそんな素振り一つみせねぇ


それどころか雑用に追われながらも僅かな合間に

教えてもいねぇような事しっかり目で盗んで覚えてやがる


雑務の後は、手が空いている内は工房を見学させてやる事にした

そうして何回か見せてやると、あいつは俺達が何をやっているのか

その手にかけている魔具の構造、稼働原理まで理解して見せた


先日のじじいの件もそうだが

Sランクの傭兵部隊が使ってる魔具武装なんかどれも

一癖も二癖もある様な複雑な構造の1級品ばかりだ


面食らったよ


俺もそれなりに魔技師として自信あるつもりだったんだが

あいつはたった16の小娘にも関わらず

もう他の奴等や俺のそれに届こうとしている


才能ってやつなのかね、大したもんだよ


しかしそれ程の才に恵まれ、どれ程キツイ体力仕事や雑用をやらせても

泣き言一つ言わなかったあいつはこの三日間ずっと部屋に閉じ籠っている


二か月前、発掘品の鑑定を依頼してきた若い冒険者達3人組

そのリーダー格であったあの青年

彼がもう二度と三日月亭(うち)に来る事は無くなった


都市の地下遺跡、その上層階の残存モンスター討伐の依頼を受け

彼らのパーティは遺跡の浅い階層に潜った


十分彼らの力量でも問題ない依頼のはずだった、が

死角に潜んだ魔物の不意打ちに合い

前衛だった彼は他の仲間を守ろうと庇い

そのまま致命傷を受け、帰らぬ者となった


三日前に生き残った二人がそれを告げに来てくれたのだ

2人共そこにはもう以前会った時の様な顔は無かった


その二人とも、もう会う事は多分無いだろう

冒険者を辞める事にしたそうだ

それもいいさ、彼等自身が決めた事だ


オヤジが何であいつを俺の所に送ったのか今なら解る


あいつは俺達が何もしなくたって、オヤジの元でだって

魔技師としていつか高みに登れるだけの才がある


だがあいつがなりたいのは魔技師じゃない冒険者だ


オヤジが王都(ここ)であいつに経験させたかったのは

教えたかったのは、見せたかったのはこれだ


相変わらず厳しいな...師匠(オヤジ)



ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

セルヴィが三日月亭で見習いを始めて1月がたった頃

受付で留守番を任されていた際


「あれ?カイドのにいちゃんは?」

「君ダレー?(´・ω・`)」

「あら可愛らしいお嬢さんだこと」


「いらっしゃいませ!

 私は先月からここで見習いをさせて貰ってるセルヴィと言います

 ごめんなさいカイドさんは今取引先の方に出られていて不在にしています」


「そっか、タイミング悪かったな...

 それにしても三日月亭にこんなかわいい子が居るなんて知らなかったぜ!

「リーダーが初対面の女の子ナンパしてるー(´・ω・)」

「ったく、猿ね」


「ち、ちっげぇよ!

 しかし、君みたいな子が技師志望何て珍しいね?」


「えと、一応冒険者を目指してるんですが、私は無属性なので...」


「あ、わりぃ、変な事聞いちまって...そうだ!

 もし君も冒険者になったら俺達と一緒に冒険に行かないか!」


「ぇ?」


「実は俺達、王都の遺跡探索専門に一旗上げようって

 冒険者になったんだ、まだ駆け出し何だけどな」


「でも私...魔具使えないですよ?」


「大丈夫だって、その時には君の一人位守ってやれる位強くなってやるさ!

 それに魔技師の武器は技術・知識だろ?

 深部や長期の上級冒険者の探索には魔技師の支援が必要になるし

 それまでにそっちの腕前を一流に頼むぜ!」


「うんうん仲間は多い方がイイヨネ(´^ω^`)」

「男2人に女1人じゃバランス悪いしねぇ、かわいい娘は歓迎よぉ」


「皆さん...解りました!私頑張ります!

 何時か一人前になった時は是非宜しくお願いします!」


これが彼女が初めて彼ら3人と出会った時の事だった



ーーー

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ーーーーーーー



トン トン



「セルヴィ、起きてるか」


セルヴィの自室前でノックをしドア越しにカイドが語り掛ける


「はい...起きてます...」


中から聞こえるか聞こえないかの擦れた返事が返って来た


「俺らは工房に行くから、何かあれば呼べよ」


「はい...お手伝いできなくてごめんなさい...」


「おぅ、飯だけは抜くんじゃねぞ」


「はい...」


まだ誰も見たことが無い世界への挑戦

夢・希望・好奇心

冒険者に成ろうって奴は皆そんな風に瞳を輝かせてやがる


だが、光があればそこには影も産まれる


冒険者が冒険で魔物に襲われ命を落とす

遺跡に潜り十分な実力を持っていたはずなのに

一瞬の油断、偶々起きた不運により二度と戻らない


そんな物はこの世界では日常だ


それは冒険者や傭兵に成る者であれば誰もが覚悟しなきゃならねぇ


-あの子はまだほんの娘子じゃ

 ワシ等の様な者と関わる以上いづれは...-


そうだ、その通りだ


それ程の才能を持っているといっても

あいつはまだたった16のガキだ

現実を受け止めるには早過ぎるかもしれない


だがあいつが目指す物は、なろうとしている物は

それを越えなければ決して届かない


そしてこれは自分自信で乗り越えるしかねぇ

噛みしめて、踏みしめて、飲み込んで

そうする事でしか前に進む道なんてねぇんだ


それで前に進めなくなるのなら俺みたいに...



ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー



そして一週間が経ったある日の朝


職人達が目覚め、階段を降りるとそこには

以前の様に誰よりも早く起き

台所でせわしなく7人分の朝食を作る彼女の姿があった


本当に大した奴だ


「ふっ...」


その姿に階段から降りてきたカイドの口元が僅かに微笑む


「おはようございます!兄さん、それに皆さんも!」


「おう、おはようさん

 さぁ野郎ども熱いうちにさっさと食って今日も仕事だ」


「おうよ!」

「待ってましたっ」

「セルヴィちゃんの朝飯が無いと1日が始まらんわい」

「良きかな良きかな」

「...幸甚」


後ろから階段を下りて来た職人達も次々にテーブルに着く

この一週間、彼女が皆気がかりで落ち込んでいたが

そこには再び賑やかな三日月亭の姿を取り戻していた




ーーーーーーーー



そして数日がたったある日の事

5人の職人とカイド、セルヴィが皆工房に集まり


「いったい何だこりゃ...」


皆神妙な面持ちの中カイドがそっと呟く

彼らの前には巨大な遺物と見られる巨大なオブジェクトがそそり立っていた

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