第6話 魔技師の才覚

三人組みの冒険者達を送り出してから数日がたったある日


全身濃青色の重装甲鎧を身に纏った巨漢の男達が工房にやってきた


「おう小僧、元気にやっとるか!」


「あ、ジャッカス隊長、いらっしゃいです!」


ビシっとなんちゃって敬礼をしてみせるセルヴィ


「うむ、セルヴィちゃんも元気にやっとるかのぅ?」


彼らは三日月亭常連の傭兵の方達です

冒険者さんと違って傭兵さん達は部隊で同じ防具で統一している事が多く

今来た皆さんも鎧や装備が深藍色の防具に統一されています


その中で一際大きく白髪に沢山のお髭を生やした熊の様なこの方が

何とテストラ王国唯一のSランク傭兵部隊ジャッカス隊の隊長さんです

貫禄を感じる渋いお顔の眼帯が如何にもその歴戦っぷりを物語っていますね!


「おぅじじい、生きてやがったか」


作業していた手を止めカイドが立ち上がり工房入り口へとやってきた


「全く、相変わらず口の悪いクソガキだわい!」


「まぁまぁ!所でジャッカスさん今日も皆さんの武器の調整ですか?」


「それに比べセルヴィちゃんは何時もかわいいのぅ

 実の孫の様じゃわい カッカッカッ!」


「あぅ~...聞いてない...どうせ私は幼女体系なのです...」


涙目になりより小さくなるセルヴィ

ジャッカスの後ろに居る他の3人は整列し

その会話に一切入らず終始無表情、無言である


傭兵はその編成は軍隊に近く、冒険者が【パーティ】を組むのに対し

傭兵が【部隊】なのはメンバーに上官部下の上下関係の概念がある為だ

それがSランク、傭兵最高峰の部隊ともあれば猶更厳格なのであろう


「すまんすまん、その通りじゃ

 今回は儂とこ奴等の武器を再調整して貰いたいんじゃが

 おい、こっちに持って来い」


「はっ!」


列に並んでいた一人が両手に抱えていた大きな硬質なカバンを持ちより

作業台の上に置き一つ一つ開封していく


武器を入れる為の専用のカバンの為か

その構造はとても頑丈そうに作られている


セルヴィは空けられた順に各武器を手に取り、じっと見まわしていく

斧、短剣、小型化されたスチームガン、長剣と武器の種類は様々だ


その光景を黙って真剣な眼差しで見つめるカイド


「う~ん、ジャッカスさんのフレイムハート、振るう時に少し左にずれませんか?」


カイドの目が一瞬驚きを見せるがすぐに元の表情を作る


「おぉ!よう分かったなセルヴィちゃん」


フレイムハートは巨大な斧に炎魔具を内蔵した魔具武装だ

先端の両脇にはそれぞれ噴射口が付いており

そこから増幅した炎魔法を圧縮・一気に噴射する事で

斧を加速させ対象を叩き潰すという剛腕武器である


「はい、左の噴射口の魔術回路の一部に摩耗・劣化が見えます

 そのせいでほんの僅かですが出力が左だけ落ちてしまってますね

 だから左右のバランスが崩れて振った時違和感を感じる筈です

 続いてこっちの...」


その後、相手側からの説明を待たずして

持ち込まれた全ての武器の問題点を完璧に言い当てて見せた


「いやぁ驚いたわい!大したもんじゃ!」


「いえいえ!そんな、私なんか先輩方に比べたらまだまだですよ」


「謙遜せんでもよいぞ、何ならワシの部隊に後方支援要員として欲しい位じゃわい!」


「お、お気持ちは嬉しいのですが私は冒険者志望なので、あはは...」


「残念じゃのう...」


基本的に戦闘力を必要とする冒険者・傭兵業に置いて例外が魔技師だ

遺跡調査の際、遺跡の施設・遺物等の解析、分析等の知識の専門家として

そして探査中の魔具武装の調整・応急修理等の技術者として

パーティ・部隊に同行し後方支援・調査解析を担当する事となる


魔法適正を持たないセルヴィが冒険者になる為に魔技師見習いをしているのもその為だ


「じいさんもそのへんにしておいてくれ、つけあがる。

 お前も何時までもだらしない顔してないで

 とっとと依頼品を調整房にもってきやがれ」


「むぅ!兄さんは意地悪な人ですね!」


「意地悪じゃのぉ」


まさにぷんぷん!という様で次々に重武装を抱え工房の奥に入っていく少女

その抱えている物がもう少し少女らしいものであれば可愛げもあるのかもしれないが...


セルヴィの姿が完全に見えなくなると

先程とは打って変り真面目な口調で隊長が口を開く


「お主...とんでもない拾い者をしよったかもしれんのぅ...」


「どれ程才が有あろうとあいつはまだガキだ

 危なっかしくて見てらんねぇよ」


「意地悪で素直でない小僧じゃわい、カッカッカッ!」


「うるせぇ、大きなお世話だ」


高笑いするジャッカスにそっぽを向け

そっと咥えた煙草を離し煙を空に吹きかける


「まぁ小僧の下でなら安心だわい、口は悪いが腕は確かじゃからのぅ」


「そいつぁどうもそれより爺さん

 あんた等の隊に結構でかい依頼が入ったってのは本当か?」


「ほぅ...よう知っとるのぅ」


「そりゃ冒険者・傭兵は毎日来るからな

 それよりそれが未踏破区域の調査ってのは本当なのか」


「うむ、余り部外者に漏らす出ないぞ?」


ジャッカスが僅かに顔を近付け声量を落とす


「先日、魔技研の技師等が現在到達の最下層にて再調査を行った際

 一つ下の階層への通路が発見されたんじゃが

 そこ先から非常に強力な遺跡の力場が観測されたんじゃ」


「んであんた等虎の子のS級傭兵部隊にご依頼って訳か」


「そうじゃ、既にその為の下準備は始まっておる

 冒険者ギルドにはそこまでの階層の再度徹底調査

 残存モンスターの討伐などに既に動いておる様じゃ」


「...」


真剣な表情で黙り込むカイド


未発見のトラップ・遺跡その物の劣化による自然災害

そして強力な魔物が潜む危険性等

未踏破区域の探索は遺跡探索の中で最も危険が伴う


それ故テストラでは国が主導し最高レベルの傭兵部隊

時には冒険者も加えた最大戦力で攻略するのが常であった


当然国の軍も存在するが軍は王国を魔物から守る為だけではなく

周辺諸国とのパワーバランスを担う物でもあり

不用意に消耗の危険に晒す訳にはいかず、その為の傭兵である


「なぁに心配は要らんよ、わしゃこれでも踏破は何度もやっておるよ

 土産に新種の神機の一つや二つ持ってきてやるわい!」


「傭兵は任務中得た物の所有権は無かったはずだが?」


「カッカッカッ!ワシを誰だと思っちょる

 テストラ唯一のS級傭兵部隊の隊長じゃぞ?」


「ったく...今回の調整はいつも以上に完璧に仕上げて置く

 仕上がりは来週でいいか?」


「おう、任せたぞい、仕上がりはお前さん等の事じゃ心配しちょらん

 一つばかり老婆心ながら、あの娘、しっかり見てやるんじゃぞ」


「セルヴィか?ああ心配には及ばねぇよ、腕は確かだ

 半月前から工房にも少しづつ入れてるが、問題ねぇよ」


「そうではない、確かに優れた才を持って居るが

 お主が言う様にあの子はまだほんの娘子じゃ

 ワシ等の様な者と関わる以上いづれは...」


「ああ...わかってる

 だがその時はその時であいつは自分で乗り越えなきゃならねぇ

 それが他でもないあいつ自身が決めた道だからな」


「ふん、いらん心配じゃったかな、では任せたぞ!」


背のマントを翻し豪快にその場を後にする

それに続く様に背後の部下達も軽く会釈をし後を追う


そんな三日月亭の日常が過ぎていく。

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