第5話 王都テストラ

テストラ王都 四方10㎞以上に広がる

巨大な古代遺跡の上に建造された都市である


王都の下に広がる古代遺跡の探索はまだ完了しておらず

内部にはまだまだ広大な未発見区域が存在するとみられており

その最大範囲半径は20㎞を超えるとの見方もある


その深さは現在第18階層まで確認されているが

今確認されている範囲は未だ氷山の一角に過ぎず

最深部のその先にまだまだ多く深く続くのではないかとも噂される


所々未整備の地区には遺跡の物と思われる金属が地面より露出し

煉瓦造り、石や木材建築の街並みの中に所々

全く異質のデザインの施設・物体も散見される


その中で特に目を引くのが王城背後に剣の如く聳え立つ塔であろう

高さは優に王城を越え天を貫かんばかりに神々しい


高さの他に目を引く理由はもう一つある

それは塔自体が現代の建築技術とは全く異なる

古代技術によって築かれているという事だ


煉瓦の様なつなぎ目等一切無くその生成方法は勿論

それが金属なのか何かの合成物なのかそれすら未だ解明されていない

真っ直ぐ一切の隙間無く鋭角的に伸びるその

建造物は最早神のなせる業と言ってもいい


またその他にも町中には所々古代施設が見て取れる

箱型の遺跡エネルギーの供給施設とそれにより光を発する街灯

無限に湧き出る水源、流れが決して止まる事の無い下水道

テストラ王都最大の特徴は遺跡内に流れる神機と同種の力を発見し

その一部ではあるが古代の都市インフラを利用を可能にした事であろう


明かりと水、この二つは人間の生活には欠かせない物だ、

それが無尽蔵に提供され且つまだそれが都市機能の片鱗に過ぎず

今後新たな利用の可能性を秘めているとすれば

これ程まで人を魅了する環境は無いだろう。


そして何よりもこの都市で最も偉大な発見が

復旧した都市機能の一部に都市の防衛、兵装システムがあった事だ


魔物の襲撃の際、都市が脅威を感知すると

外延部の稼働設置型のライルガンが作動を始め

脅威となる魔物を自動排除し


同時に都市全域に巨大な半透明状のドーム型の防護壁が広がり

その障壁は非常に強力で地上・空からの攻撃を一切通さない


正に神の矛と盾と恵みをこの都市は手に入れたのである。

絶対な安全と現代の水準を大きく超える生活インフラ

そして枯れる事を知らぬ無限の可能性を秘めた遺跡事業


それに惹かれこの都市には外部からの労働者

人員も多く集まる、冒険者・傭兵はその最たる者だ


冒険者とは言わばフリーの何でも屋である

生産に必要な素材の回収、護衛、討伐、探索、活動内容は多岐に渡り、自由である

個人で依頼を受け遺跡調査を行い、その成果を収入として得る事も可能である

但しそれぞれの国に存在する冒険者ギルドへの登録が必要となる


遺跡探査に関しては国により若干異なるが一定の制約は発生し

見つかった神機について未発見の物等は一度

国の監査機関への提出、審査を受けなければならない

そして結果如何により個人への譲渡又は

国が引き取る場合相応報酬が与えられる


ギルドの経歴・成果によりランクEからSに区分分けされ

ランクにより立ち入って良い探査区域・階層が制限が異なる



対し傭兵とは

主に戦闘に特化した依頼を専門に請け負っており

傭兵はその任務により生じた成果・回収物は一切私物化する事は許されない

更に戦闘を主としている分危険度が高く命を落とす者も多いが

平均報酬は冒険者のよりも何倍も高くそのリスクや制限に見合う報酬が支払われている


また制約を受ける分一般商店では手に入らないクラスの武具・兵器の優先的に購入出来たり

任務中死亡した際等の遺族に対する保証も各国家の傭兵ギルドが保障している。


依頼内容は富裕層が通常の移動の際の警護、護衛に依頼する事もあるが

主な任務は専門調査団・技術者の遺跡調査の護衛等

高ランクの傭兵程国家、並びに公的機関からの依頼を受ける

傭兵ギルド内でも実力や成果によってランク分けされ、冒険者ギルド同様S~Eで区分される

Sランクの傭兵には国家所属の正規軍精鋭部隊となるケースもあり

国により神機兵器を配備・提供される事もある様だ


遺跡調査・探査そしてそこから持たされた発見・技術の普及・利用は

言わば半永久的に続く巨大な公共事業の様な物である

そこに多くの人員・物資を投入すれば必然、人材の衣食住・消費・雇用が産まれる

その急速な遺跡事業拡大こそがこの国の大国足る所以と言えるだろう


事実テストラ王国は半世紀程前までは周辺諸国と比較し

決して対等とも言えぬ様な規模の小国家だった


それが前国王無き後、現国王により大規模な国家戦略の見直しが成され

遺跡の探索・調査、及び遺物の解析・研究

その利用に国家を挙げて取り組んだのである


その結果が今の先進大国テストラ王国を築き上げたのは間違いないだろう


テストラ国王はその実績と常に民を繁栄を第一とする姿勢から

国民からは偉大なる賢王として敬愛されいた


そんな賢王の元に今、一人の使者が訪れていた。



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「考え直しては頂けませんか?」


荘厳なる玉座の間にて

左右には甲冑を纏い身の丈はあろうかという「スチームガン」を捧げた兵士達に囲まれ

白のローブを着た女性が深く跪き、遥か頭上、黄金と贅の限りを尽くした刺繍施された玉座

そしてそれに見劣る事の無い荘厳なる鎧を纏い鎮座する王に問う


「王たる我が成すべきは、国の繁栄と民の幸福である

 その為ならば不確かな世迷い事に耳を傾けている暇など無い

 今我が国にとって遺跡探索・研究は国の繁栄の為の急務である。」


重く静かに、しかし力籠る圧倒的強者の声で王が返す


「急速な技術発展・経済発展のみが民の幸福とは限らないのではありませんか?」


「汝はこの国の王に非ず、この国を背負う王は我である」


「それが我らノヴァ教教皇のお言葉であってもですか?」


「貴殿らの教会を否定はせん、理念を強要するつもりも無い

 しかし思想・信念とは人の心その物、心とは自由であるべきである

 我は我が思う最善を持って国と民を導こうぞ」


「それが民全と共に滅びへと向かう道であっても、でありましょうか?」


「くどい!貴様、幾ら教皇の使いとて無礼であるぞ!!」


王の激高の声が王の間に響き渡る

普段けして見る事の無い賢王の怒気に一瞬周囲の兵士達が微かに震えたが

すぐに最も近い兵士が使者の両脇に歩み寄る


兵士がその腕を捕まえ上げようとするよりも前に

白いローブの女は自らゆっくりと立ち上がり

王の瞳を見詰める


「テストラ王国に栄光とノヴァ神の加護あらん事を」


そう言い残すとそのまま翻り、ゆっくりと王の間を後にした

その背後に顎に手をやり不機嫌そうな表情を浮かべる王の顔を

誰も直視出来る物は居なかった。



狂った歯車は徐々に崩壊へと動き始める

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