05 結末
頭を押さえて動かなくなった精霊琥珀に警戒し、陽介は御影に話しかけた。
「おい、御影。どうなってんだ?」
彼女は何かブツブツと呟いている。呪文と唱えているわけではなさそうだ。
「分からないわ…………もしかしたら、魔力が尽きてきたのかも………」
精霊石の魔力は有限だ。あれだけ大暴れすれば、魔力が尽きても仕方がない。
「魔力の回復はするのか?」
「あまり聞かないけど、持ち主の魔力を継ぎ足す応急処置もあるみたい………でも、心晴ちゃんは魔眼でだいぶ魔力を消耗しているはずよ」
魔力が少なくなっているなら、勝機はある。彼女を止めるなら今しかない。
「ねえ、陽ちゃん……」
「なんだ?」
陽介は御影を見上げると、彼は少し困った顔をしていた。
「この間、アタシが言ったいい案があるって言ったの……覚えてる?」
御影が女装して髪切り魔をおびき寄せる時、彼が言っていたことは陽介も覚えていた。陽介が頷くと、御影は「成功するかは分からないんだけど」と付け足して作戦を話した。
その内容を聞いて、陽介は思わず「はぁ⁉」と声を出しかけた。
「おまっ! そんなことできるのか⁉」
「やってみる。魔眼はあまり使ったことないから……もし何かあったら、その時は陽ちゃん、お願いね」
御影がそう言って微笑むと、陽介は観念したように頷いた。
「分かった、タイミングはお前に合わせる」
「ありがとう、陽ちゃん……」
御影はそういうと、目を閉じる。
大きく深呼吸をして、再び目を開けた。
緑色が帯びた黒い瞳は、宝石のような紫色に変わっていた。
その瞳を見て、陽介は息を呑んだ。陽介も知らなかった魔女族の魔眼。その目は暗闇にも関わらず、煌々と輝いている。
その瞬間、背筋が凍るような冷気が流れ込んできた。
冷気と共に精霊石の苛立ちの感情が流れ込み、空気を震わせた。
威圧とも言えるその空気に、陽介は足がすくみそうになる。
とん、と背中を押され、陽介は顔をあげた。
そこには、優しい眼差しでこちらを見る御影が「いくよ」と口を動かした。
「なんて、生意気なの…………タツの孫のくせにっ!」
「精霊琥珀っ!」
御影の声に合わせて、陽介は魔法を展開し、直接呪文を書き込んでいく。
それを見た精霊琥珀がこちらを睨んだ。
「この……っ!」
「鏡花!」
御影の声が木霊し、精霊琥珀の動きを止めた。まるで見えない糸で動きを封じられたかのように動けなくなった彼女は、目を瞠っていた。
御影の魔眼がさらに輝きを増した。
「魔女の名を終夜御影。汝の名に我が名を刻むわっ!」
御影の言葉に呼応するように、彼女の胸元にある魔導遺物が淡い光を放った。
彼が奥の手としてとっておいたもの。それは魔眼による精霊の抑制だった。おそらく、精霊琥珀は心晴と契約を結んでいない。心晴が彼女を制御できていないのは、それが理由だろうと御影が推測していた。
そうなれば、やることは一つだ。
彼女と無理やり契約を結ぶのだ。
「くっ!」
身動きが出来なくなった彼女を横目に、陽介は書き込みを終わらせる。
すぅっと教室内に風が流れ込む。陽介の魔法陣から風の塊が生成される。さらに自分の靴に風魔法を書き込む。
「ウィンデアス・スフィア!」
風の塊を力の限り蹴り上げた。放たれた風の塊が精霊琥珀に直撃した。
精霊琥珀の手から輝く何かが放たれた。
それは、精霊石の粗悪品。
「あっ!」
それを見つけた陽介は、駆け出して手を伸ばす。
精霊石に触れようとした瞬間、精霊琥珀が大声を上げた。
「バカ! それに触らないでっ!」
「え?」
まるで、風船が破裂するような音が辺りに響いた。
突如現れた黒い何かが陽介を飲み込んでいく。
「──陽ちゃ……!」
暗闇の中で、こちらに手を伸ばす御影が見えたような気がした。
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