三章 VS髪切り魔

01 魔法使い

「み、御影ちゃんの髪が……!」

 陽介と御影の家によくわからないまま連れて来られた心晴は、御影の髪を見て愕然とする。

 綺麗に手入れされた髪はばっさりと切り落され、切り口は斜めに曲がっている。さらに、彼の白い肌には切り傷があり、血が流れたあとがあった。

「あ、あ、御影ちゃんっ! 御影ちゃん、可哀そう……髪っ! ブロンドが! ほっぺに、傷が!」

 本人よりもショックを受けて、目に涙を浮かべる心晴。そんな彼女に一周回って戸惑てしまった御影が心晴の背を叩く。

「心晴ちゃん、そんなに気を落さないで! アタシは平気だから! む、むしろ、髪切り魔に襲われるためにこんな格好してたわけだし!」

 そう、元々は髪切り魔を捕まえるために、女装をしていたのだ。襲われて当然といえば、当然だ。それを聞いて、心晴はきょとんとする。

「襲われるため…………?」

 よくわかっていない心晴に陽介が言った。

「心晴、実はオレ達は魔法使いなんだよ。それで、今回の髪切り魔を追ってるんだ」

 単刀直入にそういった陽介に、心晴はぽかんとする。

「まほーつかい?」

 そして、しばらく頭を抱えて考えた後、ぱっと顔を上げた。

だまされないよ…………そこまで子どもじゃないし!」

「うん、想像通りの反応」

「むしろ、正常ね」

 二人もこればかりはしょうがないという顔をして、陽介はゆっくり魔法陣を展開させた。

「⁉」

 目を丸くしてそれを凝視する心晴。魔法陣は白い輝きを放ち、円形を描いた後、呪文が書き込まれた。それが終わると、光り輝く蝶が飛び出した。

「わぁ!」

 目をキラキラと輝かせる心晴に、陽介はもう一つ魔法陣を床に展開させた。その魔法陣には白い花が咲き、蝶がその花に留まった。

「どうだ?」

「すごい、本当に魔法みたい!」

「みたいじゃなくて、魔法なんだ。オレたちは、人間界にある魔法学校から編入してきたんだ。ちょっとした事情で……」

「え、あ、ちょっと待って!」

 陽介の言葉を遮って心晴がストップをかけた。それに二人が首を傾げる。

「どうしたの?」

「その話って聞いて大丈夫なの? ほら、よくあるじゃん! 魔法のことを知られたら記憶を消すとか! 転校しちゃうとか!」

「あー…………」

 二人も思わず納得する。

 たしかに、魔法の存在は人間には知られてはいけない。実際に、御影たちも今回の演習で人間にバレてはいけないことを厳しく言われていた。

「確かに、現代で魔法はフィクションとして扱われるように仕向けているわね。もちろん、知られちゃいけないわ」

「じゃあ、なんでそれを教えてくれるの? もしかして、私記憶を消されるの? それとも二人とも転校しちゃうの?」

 少し怯えた様子で心晴は二人を交互に見やると、御影はにこにこしながら「違う違う」と手を振った。

「もうやだぁ~。私たちはね……は……へっくしょんっ!」

 御影が大きなくしゃみをして鼻をすする。

「そ、その前に着替えてきていい? アタシ達、服も結構汚れてるし、信じられないと思うけど、びしょ濡れだったの……」

 二人は精霊琥珀との戦闘せいで服も汚れ、一度は全身びしょ濡れになっていた。精霊琥珀が服の水分を飛ばしてくれていたが、体が冷え切っている。魔法でどうにかできなくもないが、それより着替えて温かい飲み物を飲んだ方が体は温まりそうだった。

「本当だ、どうしたの二人とも?」

 お前のせいだよ、と口走りそうになった陽介の口を押えて、御影はにこにこした。

「ちょっと色々あって……それ含めて話をするから。待っててくれる? お茶菓子も好きに食べてていいから」

 御影はそう言って、陽介を引きずって居間から離れた。

 今に一人残された心晴は、ため息をついた。

「……魔法使い……か」

 心晴が呟くようにそう言った時、胸元で何か転がった感触がし、パーカーの下を覗いた。

「あれ……これって……?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る