12 証言

「本当なんだよ……ウソじぇねぇんだよ」

 警察署の一室で若者が頭を抱えて、警察官に事情を説明していた。クロコはその物陰に隠れて、会話を聞いていた。深紅は使い魔のクロコの目を通して、情報を得ることができる。クロコの体は人の目には視認しにくくなるように、魔法をかけていた。しかし、視認しにくくなるだけなので、隠れている必要があった。

 若者は相当取り乱しているのか、目を泳がしていた。

 彼の目の前には厳しい顔つきの警官が、落ち着いた口調で若者にたずねていた。

「じゃあ、あの現場にいたのは、貴方と被害者だけでなく、ほかにもいたと?」

「ああ……あの子と同じくらいの女子高生で……顔はわからなかったけど」

 若者の額には冷汗が浮かんでおり、組んでいる手が小刻みに震えていた。

「その子とはどこで会ったんですか?」

「あそこの路地…………」

「それで、その子は?」

「…………消えちまったんだ。オレが警察に電話してる目の前で……! 消えやがった……!」

 警官は首をかしげて眉間に皺を寄せた。

「消えた、というと?」

「消えたんだよ! まるで、水に溶けるみたいに、いや、水になって消えたんだ!」

 取り乱している若者を見て、警官は長いため息をついた。まるで話にならないと言いたげに、首を横に振る。

「もう一度、聞きますね。落ち着いて、ゆっくり思い出してください。訂正や気になったことがあったら、その都度言ってください」

「は、はい…………」

 警官は若者から聞いた話を記録した紙に目を通す。

「まず、貴方は車を止めている駐車場に向かう途中、路地にいた女子高生に助けを求められた」

「ああ」

「その時に、被害者の他にもう一人いた。ちなみに、その被害者と女子高生の他に何か変わったことはありましたか? 例えば、逃げる足音が聞こえたとか……?」

「足音…………そういえば、あの時、黒い影が飛び出してきたんだ……」

「黒い……影?」

「ああ、黒い影が……はじめは、車が通ったからその影かと思ったんだが、声が聞こえたから、その路地を除いたら……二人がいて……」

 警官もこれ以上は情報が聞けないだろうと、メモを後ろにいた部下に渡す。

「また後日、お話を聞かせてください……」

 クロコは部屋から出て行く警官と一緒に出て行く。

 深紅は一度千里眼を閉じて、息を長く吐き出した。

「一体、どういうこと?」


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