07 むかつき
放課後、青い空が
「深紅嬢のやつ、ムカつく~~~~~~っ!」
校門を過ぎてから御影が大きな
御影、陽介、深紅で行った作戦会議で出た結論は待機だった。
「相手は魔法を使い慣れた人物と見て、間違いないです」
得意な属性を使い、姿を消したり、瞬時に移動するすべもある。深紅が上げたのは、水、闇の魔法だった。
この二つの属性には応用でどれも身を隠す魔法が存在する。さらに水の中で移動していたとなると、水属性が有力。そして、最後に上げた闇属性は夜を狙った犯行で、闇に溶けて姿を消したこともあり得る。
「もし、魔法を使い慣れた者だった場合、身の安全を優先し、私たちは待機が無難です。たとえ、粗悪品を使った犯行だとしても同じですわ」
もちろん、御影も反対した。いつ学校側が対応してくれるかわからないのに、犯人を野放しにしておくわけにはいかない。
「
「重要なこと…………」
「そう、まずは人間に魔法使いだってことがバレていけないこと」
「そんなの知ってるわよ!」
魔法使いは過去に迫害を受けた関係で、魔法界の存在は
「そうバレてはいないわ。でも、精霊石を持っている人間に自分以外の特別な力を持っている人がいると、悟られたらどうする?」
「!」
「正常な判断がまだできる者なら、間違いなく日を置きます。もしくは、活動拠点を変えるでしょうね」
「でも、それはパトロール強化されてる今も変わらなくないか?」
そう、昨日の一件のせいで警察のパトロールが強化された。今朝も、そして、授業中も外で何台かパトカーが通りかかるのを見ていた。もし、自分が犯人ならここで手を引いているだろう。
しかし、彼女はきっぱりと言った。
「いえ、髪切り魔はこのぐらいじゃ手は引かないわ」
自信ありげにいう彼女に、陽介は腕を組んで聞き返す。
「根拠は?」
彼女は無言で自分が作ったファイルを開いて見せた。
「まず、一回目は四月。そこから三週間の日を開けて、二人目。三人目はその一週間後」
「確実に日を縮めてるな」
「ええ、そうです。おそらく、髪切り魔は調子に乗っています」
だんだん日を縮め、今回はパトロールを強化されているにも関わらず、それも駅の近くで犯行が行われた。
何度か犯行に及んで、自信がついてきたことで行動が大胆になってきた。前回の犯行から三日しか開けてないのは、その現れだろう。
「おそらく、近日中にもう一人被害者を出すつもりです。粗悪品を持っているにしろ、いないにしろ、異常者であることには変わりません。私たちには手が余りますわ」
「被害者が出るってわかっているのに、放っておくの⁉」
御影が声を荒上げるように言ったが、深紅は御影の目をそらすことはなかった。
「わからないのですか? 調子に乗っているからこそ、そのまま調子に乗らせて、捕まえる隙を与える必要があります。これが、私の意見ですわ」
「それが合理的とは思えないわ!」
「では、何か案があるのですか?」
「うっ…………それは………」
言葉を詰まらせた御影を見て、彼女はにやりと笑ってファイルを閉じた。
「なら、話はこれでおしまいです。いいですか、終夜御影。あなたがたとえ、終夜家の長男だとしても、人にはできることとできないことがあるのです。理解なさい」
こうして、作戦会議は終わった。
あの後から苛立ちが抑えきれなかった御影は、校門を過ぎるまで下唇を噛みしめて、ひどい顔になっていた。通路を塞ぐ水たまりを避けながら歩き、近くに人がいないことを確認する。
そして、御影はなわなわと拳を振るわせた。
「なぁーにがっ! 終夜家の長男だとしても、できることとできないことがある、よっ! うちの事情も何も知らないで、引き合いに出して‼ 嫌味だわっ! 絶対に嫌味だわっ! 自分の家系が旧家で、一般家庭のアタシへの嫌味に違いないわっ! ええそうともっ!」
「自問自答して納得してんじゃねぇよ」
あの空間にいて疲れが出た陽介は大きなため息をついた。
「で、どうする? お前のことだから、引き下がらないんだろう?」
「もちろんよ!」
「でも、いい案はないんだろ?」
言葉を詰まらせていたのを見ると、いい案がなかったように見えたが、どうやら違っていたらしい。御影は「あるわよ」と言った。
「あるならなんで言わなかったんだよ?」
そうすれば、深紅に反論できただろうにと思っていると、御影はどこか言いにくそうに言った。
「言えないじゃない、家系の話になっちゃうもの」
「ああー…………」
魔法使い家系というものは複雑で、自分の出身を隠す者もいる。御影もその一人だ。
深紅の実家のようにどんな家系なのか隠さないところもあるが、特殊な家系のほとんどが秘匿にしている。
御影は人間界出身で人間界育ちだが、両親ともに魔法界の人間だ。父親は魔法界に単身赴任をしている状況だった。それは家系を理由に人間界に越してきたのだ。
「んで、その案ってなんだったんだ?」
「もちろん、それは…………」
御影が急に口を閉ざした。そのまま、じっと一点を見つめている御影に、陽介は思わず目を見開く。
こちらに向かってくる人の姿が見えた。
「なあ、御影。今日は絶対に真っすぐ帰るからな」
陽介はすぐに話題を変えると、ハッとした御影は、すぐに笑顔を作った。
「そ、そうね……今日は陽ちゃんが夕飯の担当だけど、何を作るか決めた?」
「げっ……忘れてた」
何気ない会話をしているうちに、だんだん御影の表情も和らいできた。前からこちらに向かって歩いてくる人物を陽介は一瞥する。
その人物は少し猫背ではあるが、陽介より少し背が低く、体格からして少女だろう。フード付きの灰色のパーカーは少し大きい。それに加えて、赤いキャップを頭にかぶり、その上からフードをしていた為、相手の顔は見えない。
(ヤンキーか、コイツ……?)
自分よりも背が低いのに、さらに猫背だ。しかし、あまり見すぎてもいけないだろう。そう思っていると、御影の呆れたような声が聞こえてきた。
「陽ちゃん、レンチン料理は一品までだからね」
「え、マジかよ」
「当たり前でしょう! レンチンだけじゃ栄養偏るし! アタシがみっちり指導してあげるからね」
「えー…………ん?」
ぽつ……
陽介の頬に冷たいものが落ちた。頬を拭うと制服がかすかに濡れていることに気づいた。空を見上げると曇っていた空は重たい色に変わっていた。
ぽつ……ぽつ……
徐々に雨粒が増えてきたのが分かる。
「また雨?」
「あら、まだ五月になったばかりなのにもう梅雨入りかしら……?」
そう言って空を見上げた御影の目が、一瞬だけ青く光ったような気がした。
「おい、御影……お前の目……」
「え…………目?」
再び、御影がこちらを見た時には元に戻っていた。
「いや、なんでもない」
そんな会話をしていると、前から歩いてくる人物とすれ違った。
クスッ
すれ違った際にそんな静かに笑う声がし、うすら寒いものを感じた。そんな時、二人の指輪が光った。その光り方は昨日、被害者が襲われた時と同じだった。
「!」
二人は慌てて振り替えったが、そこにもうその人物はいなかった。
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