06 報告

 三人が向かったのは別校舎の空き教室だった。

「なんだよ、飯時なのに」

 陽介がそういうと、深紅は「あら、ごめんなさい」と言って、長い髪を背中に払った。深紅の指輪がきらりと光るのが見えた。深紅の精霊石は紫色だった。

 紫の精霊石、それは闇の属性を持つものだった。

「んで、何の用?」

 喧嘩腰に聞く陽介に御影はハラハラしながら見守る。深紅は特に気にすることなく言った。

「昨日、話していたでしょう? 使い魔の話です」

 そう言って、彼女は手のひらを出すと、真っ黒なかたまりが浮かんだ。ぎょっとして陽介が見ていると、その塊はきつねの姿に変わった。

「私の使い魔、クロコよ」

 クロコと呼ばれた小さなきつねの顔には隈取くまどりがされており、まるで神社の狛犬こまいぬのようだった。ただ、普通の狐や狛犬と違うのは尻尾が三本ある。クロコはその尻尾をゆらゆらと揺らしながら小首をかしげていた。

「狐……?」

「ええ、ただの狐じゃありませんが……実はこの子が昨日、変なものを見つけてきましたの」

 そう言って、クロコは三つあるうちの一つの尻尾を振ると、それが淡く光りだした。

 そして、まるでプロジェクターのように壁にある映像を映し出した。

 それは、ただの路地だ。薄暗い路地には、小さな水たまりがいくつもある。

 一体、何が映るのか真剣に見ていると、それは起こった。

 

 ゆらり…………

 

 水面が静かに揺れた。

 水たまりが風もないのにゆらゆらと揺れ始めたのだ。

 それを見て、思わず御影が自分の腕を抱いた。

「何これ⁉ こわっ!」

 風が吹いているわけでもなく、自信が来たわけでもない。それなのに水面は揺れ続けたあと、水面は静止した。

「何これ……」

「さぁ? 私は見えない何かが通り過ぎたようにも見えます」

 たしかに、あの水面の動きはそうにも見えなくもない。まるで幽霊が水たまりの上を歩いているかのようだった。

 深紅はもう一度映像を再生した。

 水面が揺れ始め、その水面が静止するまで映像を見ていると、陽介が首を傾げた。

「ん?」

「どうしたの?」

「さっき、何か映ったな」

 陽介が何かを見つけたようで、深紅に映像を少し戻すように頼んだ。

 水面が揺れ、それが終わる時、陽介が「止めて!」と言った。

 停止した映像はちょうど、水面の揺れが止まったところだった。その水面が少し翳っている。

「何これ?」

「なあ、真霧。これ、拡大できる?」

「ええ、できます。クロコ」

 深紅がクロコの呼びかけると、クロコは尻尾を光らせた。ゆらゆらと尻尾をふると、映像が拡大された。

「これは……」

「女の子…………?」

 水面に映っていたのは髪の長い女の子の後ろ姿だった。それも、普通の映り方ではなく、まるで水面の中にいるような映り方だった。

「幽霊じゃないわよね…………?」

 顔を青くした御影が陽介に聞くが、それは陽介にもわからない。

「幽霊ではありませんね。姿を消す魔法か、水の中を移動する魔法を考えられるわ」

 深紅はそういうと、映像を消した。

「私はこの映像を学校側に提出します。場合によっては魔法界の警察が派遣されるかもしれませんね。怪我人も出てしまっているわけですし」

 四人目の被害者が出て、人間界の警察も警戒を高めている。連続して犯人がでたら御影も陽介も夜の出歩きが出来なくなるだろう。そうなれば精霊石捜しは困難だ。

「もともと、私たちは捜査して、学校に報告するのが義務になっていますから」

「じゃ、アタシたちはどうするの?」

「学校からの指示待ち、それが無難です」

「ちょっと! ほっとくとまだ被害がでるわ!」

 本来なら指示待ちが正しい選択なのはわかっている。しかし、このまま放っておくと被害が拡大してしまうのは明らかだ。

「連続で被害者出てるのよ! それも一週間も空けずに! 少しはアタシ達でどうにかするべきだわ! それに…………!」

 御影がそう言った時、昼休みが終わる五分前を知らせるチャイムが鳴り、深紅がため息を漏らした。

「続きは放課後に。またここで待ってます」

 そう言って先に出た深紅を御影は少し悔しそうに見ていた。



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