二章 事件
01 精霊石探し
「あーーーーーーーーーーーーっ!」
二人が新しい学校に編入した翌日の朝。新聞を見ていた御影が大声を上げた。
そして、寝ぼけ
「ねぇ、陽ちゃん! ちょっとこれ見てみて!」
「あ~? 朝からなんだよ…………」
まだ寝ぐせが残る頭を掻きながら、御影が持ってきた新聞に目を通す。
それは大見出しで【髪切りの通り魔が現る! これで三件目!】と書かれていた。
顔を洗ってもまだ眠い顔をした陽介は、首を傾げた。
「髪切りの通り魔……? なんだそりゃ……」
「通りすがりに髪を切って逃げていくんですって、怖ぁ~い!」
記事を見てみると、その通り魔の標的は髪を染めた女子高生のようだった。
「アタシの髪は地毛だけど、通り魔に狙われたらどうしましょう、陽ちゃん!」
守るように自分の髪を握る御影に、陽介は鼻で笑った。
「女子高生でもない上に身長二メートル近い野郎の髪なんて、頼まれたって切りたくねぇよ」
「失礼ね! アタシのブロンドは日本の黒髪にも引けを取らない美しさよ!」
「
ようやく目が覚めてきた陽介は改めて新聞に目を通す。
最初の被害は一か月前の四月。市内の女子高生だった。
二人目の被害者はその三週間後。部活帰りの夕方、同級生と別れて一人で歩いているところを襲われた。実は、この被害者は運動部所属で気が強かったらしく、殴ってやろうと思い切って振り返ったらしい。しかし、切られてすぐに振り返ったにも関わらず、そこに犯人の姿がなかった。その場にあったのは、わずかに散らばっていた自分の髪だけ。怖くなった被害者は前回の被害者のように近くの交番に逃げ込んだ。
そして、三人目の被害者。犯行は一昨日の夜。この女子高生は夜遊びが趣味で他にも仲間がいたらしい。しかし、その女子高生は、仲間と離れた間を狙われてしまった。
その後、異変に気づいて戻ってきた仲間と一緒に犯人を探したが、見つからなかった。この犯人は三件とも姿が見えないのもあって、新聞の記事ではまるで幽霊のようだと書かれていた。
「面白可笑しく書きやがって……ふざけんてんなぁ」
「でも、これってもしかしたら、精霊石の仕業じゃない?」
「まぁ、三人も被害者を出して、姿を見てないんじゃ、精霊石の力が関与してるだろうな」
すぐに振り返って誰もいないなんて普通の人間ができることではない。これが精霊石や魔法界の人間の仕業でなければ、本当に幽霊騒ぎになってしまう。こんな目立つ行動をしてくれているなら二人も探す
二人は支度を済ませると、朝食の席に着いた。御影と陽介は学校側が用意した貸家に一緒に住んでいる。今回の校外演習では、他の学生もマンションや貸家をあてがわれているらしい。しかし、深紅は女の子というのもあり、同じ借家でルームシェアをせず、学校の近くのマンションにいるようだ。
食事は当番制で、今日は御影が担当だ。
「まずは、その髪切り魔の情報を集めないとな……」
陽介はこんがり焼けたトーストにマーガリンを塗りながら言い、オニオンスープを飲んでいた御影が頷いた。
「そうね、被害者に話を聞くのは難しいけど、できることはしないとね」
今、分かっていることは、標的が髪を染めた長髪の女子高生。犯行時刻は夕方から夜の間で、一人になった時を狙う。しかも、切られた髪は持って行ってしまうらしい。
それを聞いて、御影は首を傾げた。
「でも、なんで女子高生の髪なんて狙うのかしらね? しかも、持って行っちゃうなんて……」
「あ? そんなの精霊石の力を引き出すための負担を減らすためだろ?」
「でも、それって普通の人がやり方をわかっているものなの?」
精霊石の粗悪品は強い力を引き出すために、持ち主に大きな負担をかける。しかし、
それを一般人が知っているとは限らない。そもそも、普通の人間がオカルト
「私や陽ちゃんならともかく、普通の子はオカルトなんて興味ないわよ」
「まあ、趣味でそういう知識を得る時もあるじゃん? ゲームや漫画とかでさ」
「それもだいぶ特殊なものだと思うけど……」
「お前が少女漫画ばかり読んでるだけで、そういう漫画はいっぱいあるって! んじゃ仮に、その犯人はオカルト知識がないとする。それなら、なんで女子の髪を集めてるんだよ?」
精霊石の粗悪品を売りつける対象は高校生だとしたら、髪切り魔の犯人は高校生となる。犯人にオカルト知識がないなら、髪を奪う動機は何か。
御影は「んー」と口元に手を当てて考え始めた。
「愉快犯かしら?」
「ゆかいはん?」
「だって、被害者って同じ市内でも、みんな学校が違うんでしょう? まだ詳しいことはわからないけど、それなら逆恨みとか考えられなくない?」
一人目は塾帰り。
二人目は部活帰り。
三人目は友達と夜遊びしている時。
さらには襲われた女子高生は大人しい性格をしているわけではない。むしろ、大人しくないと言っていい。
「最初は大人しい子を狙って、運動部や不良少女を狙い始めたから、精霊石を悪用して髪を切る行為を楽しんでるって感じもしなくないわね」
「じゃあ、髪を持ち帰った理由は?」
「戦利品?」
「うわぁ…………」
陽介の口から思わず低い声が出た。
「んじゃ、なに? 自分の力を試すためにいろんな女子を狙ってるってことか?」
「もし愉快犯ならね」
御影はそう言った後に、何か思いついた顔をした。
「他にもあるわ」
「なんだよ?」
「犯人が特殊な趣味を持っていた場合よ!」
御影はそういうと、陽介はあからさまに聞きたくないという表情をする。
「何よ、その顔!」
まさかそんな発想が出てくるとは思わなかった陽介は、多少引きながらも御影の発想力に驚かされる。陽介は頭が痛くなるのを感じながら言った。
「いや、別に…………続けて」
「ほら、良くいるじゃない!
「ドン引きだよ…………」
そんな発想に至る御影もすごいが、もしそんな趣味を持つ人がいるなら陽介はそいつから全力で逃げ出す。
「絶対関わりたくねぇよ、そんなやつ…………」
「あはははっ! さすがに冗談よ~」
そう言って笑う御影は「あ、そうだ!」と声を上げた。
「心晴ちゃんに聞いてみる?」
「アイツに? 何を?」
編入した学校で、御影の隣の席になったクラスメイトだ。大人しく、気弱そうな少女だった。
「何って、髪切り魔の話よ! 心晴ちゃんって、たぶん地元民でしょ?」
「電車通の奴もいるんだから、地元とは限らねぇだろ……」
二人が編入したのは私立校だ。高校生にもなると、通学手段は幅広くなるので心晴が地元民とは限らないだろう。
「さすがに三件もあったらアタシたちより詳しいんじゃない? 女子は情報通なのよ!」
「でも、アイツ、友達いなさそうだからなぁ…………」
「陽ちゃん、失礼!」
頬を膨らませて御影は言い、「はいはい」と陽介はトーストを早々に食べ終えた。
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