第12話
"ここに来たのなんて何年ぶりかしら。あの時以来だから、もう五年も経つのね。"
彼女が岩場の上から周囲の様子を懐かしみ眺めている。
"そろそろ見られるはずだから、サヤもこっちにおいで。"
"はーい。ヨイショっと。"
彼女がピョンっと岩場の上を飛び跳ねるようにして、既に下りていた僕の方へと向かってくる。
"ああ⁉︎ 危ないって‼︎"
"大丈夫、大丈夫。もう、シオンくんは心配性なんだか…ら…⁉︎"
彼女がバランスを崩し倒れそうになった。
"危ない‼︎"
咄嗟に彼女の手を握り、身体を強く引き寄せた。
"ふう…。さすがシオンくん。ありがと。"
"まったく…。無茶するんだから。"
彼女を解放し呆れた顔で彼女を見つめた。
"えへへ。でも、シオンくんなら受け止めてくれるってわかってたもの。"
ニコッと笑ってみせる彼女。
"はぁ…。そんなこと言われたら、怒るに怒れないでしょ?"
"あっ、それ私が言ったセリフー‼︎"
アハハと二人で笑いあった。
二人で川面へと近づく。
ここもまた、あの時と変わらず綺麗な光景が広がっていた。まるでここだけ時間が止まり、僕たちだけが歳を重ねてしまったような気がしてくる。
しかしこうしていると、心だけはあの時に戻っていっているような、そんな気もしてくるから不思議だ。
"初めてこの場所に来たときのこと、覚えてる?"
彼女も同じことを感じていたようだった。なんだか嬉しい。
"もちろん。"
"あの時、シオンくんってばすごく神妙な顔つきでさ。どうしたんだろうって思って。
そのあと、サヤ、なんて呼ばれるから何を言われるんだろうってすごくドキドキしてたのよ。
そしたら、"サヤ、手を繋いでもいいかな?"なんて。そんなこと、あの緊張感で言うことじゃないわよ。"
ケタケタと笑っている。
"な、別にいいだろー⁉︎ あの時はサヤとの関係性にすごく悩んでた時期でもあったからさ、どうしていいかよくわからなくて…。気持ちのケジメをつける意味でも、ちゃんと言葉にしておきたかったんだ。"
"フフ。そんなに怒らないで。わかってるわ。
それに、あのとき私、嬉しかったの。ちゃんと私だけを見つめてくれてるって思って。"
水面を見つめ、あの時の二人の情景に想いを馳せている。
と思えば、"これからもそうだといいんだけどなー。"と大袈裟に身体ごと首を傾げ、僕の表情を伺ってきた。
"…。当たり前だろ。"
恥ずかしさで彼女の顔を見れない。彼女とは反対側に顔を向け、目のやり場に困り、彼女とは別の水面を見つめながら答えた。
"ほんとう?"
彼女がトトっと回り込み、下から顔を覗き込むように見つめてきた。
"ほ、ほんとにほんと‼︎"
驚きと可愛らしさのあまり動揺してしまった。
"ふふふ、嬉しい。"
満面の笑みを僕へと向けてくれた。
サヤ…。
僕はそんな彼女の手を両手で掴んだ。
彼女はキョトンとして不思議そうに僕を見た。
僕は彼女の指の間に指を収めるようにして、しっかりと手を繋ぎ、ぶっきらぼうに前を向いた。
横目でチラリと彼女の表情を伺う。
"えへへー。"
彼女はニコニコと笑っていた。
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