第10話 五年前の初デート その6

坂道を登りひたすら奥へと進む。

分岐路に入ってからはやはり足場がよくなかった。さすがは山道といったところか。

先程までのようなチグハグな会話は最早なくなった。彼女のペースに乗せられるように言葉が溢れてくる。それに比例して彼女の言葉数も増えていった。やっとデートらしい形になってきた、そう思ったのも束の間、今度は山道が障害となり言葉が出てこなくなりつつあった。さっきまでの変な緊張から解放されたせいだろうか、気が抜けたように体力が続かない。

"ねぇ、まだ先なの…?"

とうとう我慢出来ずに彼女が不安を口にした。

"もう少し先だよ。"

ふぅ…とため息のような吐息が薄っすらと聴こえた。

このような場所に来ることを想定していなかった彼女は、明らかにこの場に似つかわしくないきらびやかな格好をしていた。村の中、ひいては集落間でのデートを想定していたのだろう。靴も山間部に適したものではなく、お洒落な毛皮が足首の周りに付いている。歩くのが大変そうだ。

彼女への気遣いに欠けていた、こんなことなら前もって言っておけばよかった。

そう反省していると、

"村外れとは聞いていたけれど、まさかこんな山の中だとは思わなかったわ…。"

追い討ちをかけるような彼女の言葉がグサリと心に突き刺ささった。

村の門を出て歩き始めてから約一時間が経とうとしていたが、未だ目的地には到着せず、相変わらず険しい山道を登り続けている。彼女からしてみれば終わりの見えない旅のように感じているのかもしれない。

石が転がっていたり木の根が行く手を遮ったりと足場の悪さは一向に変わる気配はないが、今までよりも傾斜が緩やかな道が増えてきたような気もする。そろそろか…?

確か下見に来たときにはこの辺りに綺麗な場所があったように思う。願わくば、そこで彼女の機嫌が少しでも良くなってくれますように。

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