第6話 五年前の初デート その3
◇
"お待たせ‼︎ ごめんね、待たせちゃったかな?"
彼女は僕を見つけ右手を振りながら近づいて来た。颯爽と。軽快に。長い髪をたなびかせて。
"うぅん。僕もいま来たところだから大丈夫。"
ありきたりな嘘をついて彼女を出迎えた。
いつもと雰囲気の異なる彼女。普段の動きやすさを優先した服装とは異なり、今日は模様の入ったお洒落な服装をしており、首元にはキラキラとした石の付いた首飾りが輝いていた。
"これからどうするか、シオンくんはもう決めてるの…?"
遠慮がちに発せられる言葉のせいで、若干上目遣い気味に僕を見つめてくる彼女。
その姿に心をギュッと鷲掴まれながらも、今までと違う彼女の反応に戸惑ってしまう。
いや、僕の受け取り方が変わったのか?
普段どんな表情でどんな会話をしていたっけ…?
今までと一緒の筈なのに一緒ではないという事実。その矛盾を喜びながら、彼女に事前に調べていたデートコースを告げた。
"すごい綺麗な自然のアートが観れるところがあるんだって。行ってみない?"
"アートって、あのアート?"
"そう。絵画とか造形作品とかのアート。なんでも、夜になったらすごい綺麗なんだって。"
"夜かぁ…。"
視線を地面に下げてしまった。
ハッとある事に気づいた。
"大丈夫‼︎ 普通に見に行くだけだから‼︎ 変なことなんてない‼︎ ないない、絶対にない‼︎"
両手を前に突き出しブンブンと横に振り、必至に彼女にその意思はないと訴えかけた。
"…。何を言っているの…?"
彼女が困惑した表情を見せ僕を不思議そうに見つめている。
"私は、夜は怖いから早く帰るように言われていたのを思い出しただけで…。…‼︎‼︎"
話している途中で気付いたようで、言葉を言い終える前にやめてしまった。途端に顔を赤らめて再び視線を地面に下ろした。
その様子を見てあらためて僕も恥ずかしくなり、顔が熱くなって地面に視線を下ろす。
二人で無言となり、地面の同じ場所を見つめたまま暫くその場に突っ立っていた。
通行人が不思議そうに僕たちを見ては通り過ぎて行くことに気づいた。
"い、行こうか…?"
"う、うん…。"
二人でその場からとりあえず離れた。
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