第2話 五年前の初デート その1
◆
デート当日、待ち合わせ場所にはどうやら僕の方が先に到着したようだった。
まだ彼女の姿は見えない。早めに来すぎちゃったかな。いや、そんなことはない。早いくらいで丁度いいんだ。待つ分にはドキドキとワクワクで胸が踊るだけで済むが、待たせるとなれば同じドキドキでも意味が変わってくる。
自宅から少し離れた場所にある水車の前で一人佇む。彼女をのんびりと待つ事にした。
しかし、本当にこの格好でよかったのかな。
ダサくないか? 髪型だって寝癖はないにしても、とてもお洒落とは言えないのでは…?
服の襟を直してみたり、前髪や横の毛先をむやみに弄ったりしてみる。
今どきの髪型や服の着まわしなんてよく知らないし、そういったことにさほど興味もない。
だが、今日に限ってはなぜそういうことを知ろうとしなかったのだと、かつての自分を叱ってやりたいと思わずにはいられなかった。
二日前、今日のためにと箪笥の中から自分なりに一張羅の服を選び出した。
昨日はデートプランのおさらい。すでに納得をして決めた事であったのに、前日になって"これでいいのか"と机に噛り付く。明確な結論が得られぬまま、次第に緊張と興奮が入り混じり、このままでは明日がつらいと布団に入る。だが瞼を閉じたところで早々に眠ることなど出来るわけもなく、とうとう寝不足のまま当日を迎える醜態を晒すハメになってしまった。
"はぁぁ…はふぅ…。"
大きなあくびを一つ取ると、同時に目には薄っすらと涙が浮かんできた。
"ほんと、なにやってんだろ…。"
思わず口から落胆がこぼれ落ちた。
あれだけ用意周到に準備をしておいたにも関わらず、当日にこれだ。後悔もするというものだ。
だがその後悔を心の奥底へと押し込むように蓋をする感情が、寝不足の頭の中でキラキラと輝き、それは約束の時が近づくにつれ尚も輝きを増していく。
希望。
これから起こるであろう出来事に期待に胸が膨らむ。彼女との初めてのデート。
言葉とは裏腹に、自然と口角がほころぶ。
えぇい、今更悩んだり悔やんだりしていてもしょうがない、なるようになるさ。ついにこの日が来たんだ。
初志貫徹。
やはり当初のデートプランで行くと決めた。
胸が高鳴り落ち着かない。
あぁ、しかし本当になんだか変な感じだな。
彼女とは幼馴染で、家は隣に暮らす老夫婦を挟んで二つ隣だ。小さい時からずっと一緒で、兄妹のように育てられてきた。僕の方が先に生まれたというだけで兄としての立ち位置になってしまったけれど、実際のところは弟のようなものだ。女性の方が成長が早い、大人びているとはよく言ったもので、自分がなんと子供じみて見えることか。
そんな彼女を恋愛対象として意識し始めたのは、とある雨の日の午後だった。
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