第1章 鬼との出会い

第1話

その日、青年はある女性と約束の場所へと向かっていた。

月夜の明かりが山道を照らす。

紅葉を迎えた色鮮やかな葉が四方を彩る。

紅、梔子くちなし千歳緑せんざいみどり

月の光を反射するように、ぼんやりと青白い光を放つキノコや土筆つくし、苔に花。

それらは提灯ちょうちん代わりに足元を照らす。

満天の星空も相まって、地上と上空で光の輝きに包まれる。

光と色の二重奏、さながら万華鏡の中に入ったようだ。

虫たちの音色が鳴り響き、木々がそれを讃えるようにさざめく。

それは三重奏とも四重奏ともなって、深夜の森の演奏会となり、まるで二人の未来を祝福するように賑やかに催されていた。

風が二人を追い越すように通り抜けていった。

木の葉がヒラリと宙を舞う。

それを吐息交じりに一瞥いちべつすると、青年は歩を急がせた。


"待って。歩くのが早いよ。"

"そんなことないよ、サヤが遅いだけさ。"


僕は振り返る事なく声を後ろに放り投げ、前だけを見て大股で歩を進ませた。

これから彼女に告げようとしている言葉に心の半分がいささかの緊張を覚えながらも、反対にもう半分は期待に応えてくれるであろうという謎の自信も相まって、つい足がはやった。

その事を悟らせまいと、ついぶっきらぼうな言い訳をしてしまう。

その心を現すように、一歩踏み出すたび腰に携えられた太刀がガチャガチャとうるさい音を立てた。


周囲に人の気配はない。野生の動物たちが僕たちを見て騒ぎ立てている様子もない。虫たちや木々が語りかけてくる中、ただ土を踏みしめる音だけを置き去りにして、僕たちは村外れの山道を歩いていた。


今日は付き合い始めて5年目の記念日。

僕はこの日、結婚を申し込むと決めていた。彼女と初めてデートをした村外れの川辺で。

彼女にはこの事は秘密だ。5年目の記念日をいつぞやの場所で祝おうとだけ伝えた。

少しばかりの酒と食料の入れられた革袋を背負い、ほんのりと照らされた夜道の薄暗がりを進む。

これから向かう場所は街でも噂のデートスポットで、そこで満月の夜にプロポーズをすれば永遠の幸せに結ばれると、まことしやかに語られている。

当然、僕もその噂のことは知っていた。恋愛事情や街の景観に疎い僕は、だからこそ初めてのデートでこの場所を選んだのだ。


五年前、15歳だった僕は、彼女の前でカッコ悪いところを見せたくないと昼間のうちに下見をし、そこに行き着くまでの道程や、川辺での安全な見学場所などを入念に下調べしていた。

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