第3話

アベルとリーは、戦車のような、ただ、大砲の付いていないただ視界があるだけのものに乗っていた。

アベルが操作する横で、リーはナイフを磨いている。

「リー、お前なんでこないだの昇格判定書受け取らなかったんだ?」

するとリーは調子の悪い声で、

「いや〜なんとなく…」

「なんとなくは無いだろ。お前は上に上がれるほどの実力も頭脳もあったはずだろ。それに周りを統率力も……」

「いいって!」

……昇格判定書、それは月に一度、自分の階級が上がるか下がるかが判断される書類のことだ。

リーの判定は昇格で、「2区準師軍」から、「本部戦闘区6軍師軍」に上がれるはずだったのだ。が、彼はそれを断ったのだ。

「……リー、そんなに上に行くのが嫌か?悪いことなんて一つも……」

「あるよ、たくさん。俺は統率を取るのが苦手だ。少人数をまとめるのが丁度いいくらいだ。それに責任だって増える、今のままじゃほかのやつらに舐められる。もっと鍛えないと…それに……」

「それに?」

アベルはチラッとリーの方を見た。

リーの顔は悲しげにアベルを見た。

思わずアベルの運転が止まる。

「っ、昇格するってことは、アベルと離れるってことじゃん!」

アベルは目を見開いた。

「一緒の家に住んでるけど、生活リズムは合わなくなって、こっちは遠征が増えて、会う機会も減る…それに、アベルが隣にいないと、…何も…かも、」

「ダメになる。だろ?」

アベルの声が、リーを制止させる。

「リー、君ってやつは。」

アベルは微笑みながらリーの頭を撫でた。

「アベ、ル……??」

「僕の質問が悪かった。さ、いつも通りにそこで銃を磨いて、戦闘に備えて。」

アベルはまた正面を向き、戦車を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルベスタン現国戦記 神崎カルキ @karuki_095

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ