第89話 ほんのむし、まだやるんかいの話

 やあ、おいらです。


 食いつきの悪い、本の話ですが、お客さまはおいらにどんな話を期待しているんでしょうね? しょうもないギャグ百連発ですかねえ。おいらは原西じゃないから、ギャグのストックそんなにないよ。それともキチガイの話かな。じゃあ、あっちを読んで下さい。でも、状態はずいぶん変わりましたがね。他人事としては面白い読み物ですし、ご同病の方には何かしらのお役に立てば幸いです。


 で、本の話なの。おいらはそれほど狂ったように本を読んで生きてきたわけではないと、前に言いました。ほんとだよ。

 それが変わったのはバカ書店の旧戸塚店で、雑誌担当を楽しんでたんですよ。ああ、雑誌ってね、物量が多くて重いんだけど、慣れるとすごい楽なの。だって、毎月おんなじ日におんなじものが発売になるでしょ。半年もあれば覚えられる。ムックっていう厄介なものもあるけど、売りようによっては成績上昇の原動力になる。本当に面倒なのは増刊号で、本誌と似たような内容のものならいいんだけど、大げさな話、女性誌の増刊号がガンダムの雑誌だったりすることがあるの。これは雑誌コードのせいなんだけど、専門的すぎるので無視しよう。

 そしたらある日、文芸書をやっていた市原さんが新規店の小田原に異動してしまった。後釜はおいらだって、イヤミメガネの三上が言うのよ。すごい嫌だった。でも「他の誰ができるんだよ?」って言われたから、仕方なく承諾したんだ。その時の戸塚店のメンバーのレベルの低さは笑えるくらいで、アルバイトの方が優秀だったからね。(ぶっ殺したいやつが社員とバイトに一人ずついたけど)。

 担当になって、気がついたのは、おいら、作家さんを全然知らないということ。とても焦った。加納朋子を女性作家においたり、大倉崇裕の『七度狐』を表紙だけ見て、時代小説に置いたり、伊坂の『重力ピエロ』なんかは「この本、よく補充するなあ」とか言って、棚差しのまんまにして、平積みしないの。たぶん、文芸書の担当はおいらにあっていないんだと思う。でも、勉強は一応したよ。社内ネットで「これはオススメ」っていう本は買って読んだよ。このおいらが、単行本で読んだんだよ。まだ、お金あったのね。結婚したばっかだったからさ。小川洋子『博士の愛した数式』、堀江敏幸『雪国とその周辺』とかね。さすが、目利きの薦める本は面白かったですよ。あとは伊坂の本を大人買いして読みましたねえ。でも、仕事はつまらなかった。文芸書って雑誌と違って物流が少ないから、ヒマで仕方ないんですよ。なんか、他の人の手伝いでもやればよかったんだけど、そういう雰囲気の店ではなかったんだよねと居直る。

 そんなおいらに衝撃を与えたのが、その年の『このミス』一位の『葉桜の季節に君を想うということ』。いまだにこれを超える本はない。でも、歌野晶午の本で面白いのはこれだけなんだよねえ。

 おしまい。なんか、前にも同じこと書いたような気がするのです。おいらは認知症なのです。

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