第20話 おいら、ちょうしにのってぼけつをほるだろうなの話

 やあ、おいらです。


 さっきですねえ、真夜中だというのに、何となくお菓子をつまんじゃったんですよ。おいらの部屋にある唯一の机で、座布団に座ってね。おいら、あまり椅子の生活は好きじゃないんだな。日本人だからねえ。仕方ないことです。本当はさあ、お菓子なんて食べちゃいけないんですよ。今年に入って、またブクブクと太り出しましたよ。90キロの壁が近づいています。まずいなあ。昼飯はほとんど食べてないのになあ。ああ、相撲取りも二食でしたね。あとは寝る。稽古がないだけで、おいらは相撲部屋のスピリットを持っている。ウソですよ。

 で、お菓子をつまみながら、ぼんやりと本棚を見ていたんです。おいらの本棚は、ああ、おいらの部屋はいわゆる角部屋で窓が大きいのと小さいのがあって、小さい方の窓の下に三段カラーボックスを三つ並べているのです。二つはニトリ製、一つは無印良品製。前作だっったかな? おいら、頭にきたと書いたのですが、ニトリ製はビス穴がちゃちくて、重量に対する耐久性が惰弱なの。だから、予定通りに本を詰め込めなくてさ。「もう、ニトリのカラーボックスは買わん」と思っちょります。

 ああ、そうだ。おいらが言いたかったことは、たまたま、創元推理文庫のコーナーを眺めていたら、北森鴻の『うさぎ幻化行』が目に入ったのです。確か、割合と最近読んだはずなんですけど、内容が全く思い出せないのです。裏表紙の内容紹介を読んで、何と無く概略は掴めたんですけれど、内容についてはパーでんねん。ってことは、ここにある本の内容をおいらはほとんど忘れている可能性が高い。ということは、新しい文庫を買わなくても、棚の本を読んでいれば経済的に助かるなあと思ったのです。

 でもねえ、それは不可能。おいらはコレクター気質だから、読むよりも買うことに意義があるのさ。今月はハルキ文庫で、樋口明雄。月末には幻冬舎文庫で恩田陸。来月頭には河出文庫で泡坂妻夫先生の復刊。楽しみで仕方ないのです。

 ただ、つらつら思うに、結婚、離婚、引越し、収監、断捨離といろいろあって、手放さなければならなかった本が、今の三、四倍はあったわけで、もし、それらを残していたら、おいらの部屋の床は抜けていたかもしれないけれど、ちょっとさみしさを感じるわけです。特に、実家に置いといたら、実父に売り飛ばされてしまった本たちが口惜しい。講談社の大衆文学館のシリーズなんて、名作揃いで、白井喬二『新撰組』とか国枝史郎『神州纐纈城』とか文庫サイズで読むことは今、不可能。同じく、白井喬二の傑作『富士に立つ影』、中里介山『大菩薩峠』、吉川英治『三国志』『新平家物語』、ちょっと変わった本では赤瀬川隼『球は転々宇宙間』なんて、空想野球小説があって、おいらの想像力をかきたてたのになあ。吉川英治先生の本はともかく、あとは今、文庫では買えません。うらめしや〜。


 さて、東京でバンクシーの絵が見つかったと大騒ぎになっていますが、申し訳ございません。あれはおいらの描いた落書きです。日本中で見つかっているバンクシーの絵らしきものは全て、おいらの描いたものさ。ついでにお教えしますね。バンクシーの正体はウチの組織の美術担当、板串零人(ばんくし・れいと)という男でして、なんというかこいつは天才肌で、我々のミッションの途中で暇があるとそこら中に絵を描いてしまうんで、正直、困るんですよ。でも、絵はうまい。おいらもさあ、小学校の時、菊名池での写生大会で、絵を描いていたら、知らないジジイに「君はすごい才能だ!」って褒められて、責任者だった石渡という教師にまで、ジジイは言いに行ってしまったの。やめて欲しかったわ。石渡はどうも、それが気に食わなかったみたいで、おいらの作品を批判しやがった。ムカつくわ。石渡はおいらの担任ではなかったので、たいへん助かりましたよ。だって、キチガイだったんだもの。風貌は深川通り魔事件の犯人で警察に捕まった時、なぜかブリーフ一枚だった、川俣軍司にそっくり。なんか、高圧的で嫌いでした。小学校の先生って、おいらの偏見かもしれませんが、大人ではなく、子供と接する時間が長いから、精神が歪んでいる人が多い感じ。よく、幼女にわいせつなことして捕まる小学教師って多くないですか?

 それに比べておいらのクラスの担任は村田先生。当時三十路。既婚者、子供一人。高田みずえに似た美人で、あんまり意識していなかったんですが、どうも、おいらは村田先生が好きだったみたいで、夢に出てきたときに……健康な男子ならわかりますよね。おいら、そういう現象を知らなかったから「えー、この歳で寝小便垂れた」と思ってショックでした。で、着替えますわな。そうすると、お嬢様育ちの実母が何にも考えないで「ぺこり、なんで洗濯物にパンツ二枚あるの?」って聞くわけ。答えられるはずもありません。こういう現象こそ、学校で早く教えて欲しいと思いました。


 ああ、もうネタがないので、今日は閉店させていただきます。

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