第5話 みーはーなきもちでおおずもうをみちゃったのでそのざつだんとよゆうがあればべつのこともというかんじの話

 やあ、おいらです。


 かなり昔のことです。双羽黒という、双葉山と羽黒山という二人の大横綱の名前をミックスしてしまった、冷静に考えれば珍妙な四股名をつけられた横綱がいました。彼は結局、一回も優勝することができなかった上に、年末の忙しい時期に、なんだかキレちゃって、部屋のおかみさんに暴行を働き、失踪してしまったのです。そして、暮れもおしせまった大晦日にマスコミの前に現れましたが、もうすでに遅し、半ば強制的に髷を落とされました。その後、スポーツ冒険家というわけのわからない職業につきましたが長続きせず、格闘家になりましたがやっぱりダメで、なんか、いいところのお嬢さんと結婚したような気がするのですが、その後のことは知りませんし、興味もありません。

 ただ、彼がおいらにものすごい衝撃と影響を与えたことは確かです。双羽黒対小錦。双羽黒は知らなくても、小錦はご存知の方は多いと思います。体重二百キロ超。ハワイからやってきた彼は“黒船来襲”などと言われました。その頃、大相撲の外国人力士といえば、高見山ぐらいなもので、サモア王国からきた若者たちは花が開く前に、信頼していた朝日山親方が亡くなってしまい、ほとんどが力士をやめて帰ってしまいました。その中の一人が全日本プロレスに入ってプリンス・トンガになりました。彼が大活躍したかどうかはおいらの記憶にありません。

 小錦は今では胃を半分くらい切除して、強制的に減量したのですが、なんかまた太っているように見えますね。まあ、ウクレレ弾いて、ハワイアン歌ってさ、ジェイク島袋みたいに暮らしているんでしょ。結構なことだわさ。

 土俵に戻りましょう。双羽黒と小錦。超大型力士が「ガーン!」とぶつかり合いました。おいらはその頃、大相撲にほとんど興味がなく、どちらかといえば、夕方の四時から、TBSでやっていた時代劇の方が好きだったのですが、その日、TVは大相撲を映していました。だから、ついつい、この取り組みを見いてしまいました。この取り組みの迫力は並ではありませんでした。相撲というより、怪獣と怪獣のバトルのようです。なにせ、二人のガタイが桁違いの規格外。人間業とは思えない。勝負は残酷な結果に終わりました。土俵際に小錦を双羽黒が追い詰める。必死に耐える、小錦。ここで、双羽黒は今まで見たこともない決まり手を用います。


『さば折り』


 小錦が膝から崩れ落ちました。この取り組みによって、小錦は膝を悪くしてしまいます。黒船の沈没です。もし、この怪我がなかったら、小錦は外国人初の横綱になっていたかもしれません。でも、実際には膝の故障によって、パワーが弱まり、危なっかしい相撲が増えて、最終的に大関を陥落して、土俵を去るのです。if、この取り組みさえなければ、大相撲の現在も変わっていたでしょう。双羽黒という、猛烈な通り雨が全ての景色を変えてしまったのです。


 かくいう、おいらもこの取り組みによって変わりました。大相撲の虜になってしまったのです。それまでは大相撲なんて年寄りの観る、歌舞伎みたいな伝統芸能だと思っていたのですが、「相撲って、格闘技だ!」って考えるようになったのです。まあ、それまでも輪島とか初代貴ノ花とか二代目若乃花(若三杉)なんていう面々は割と好きだったけれど、毎日、観たりはしなかったです。でも、今回は完全に心を奪われてしまい、TV桟敷での観戦はもちろんのこと、当時発行されていた『相撲』『大相撲』という二誌を買って読んでいました。もちろん、大相撲に関する書籍も買い漁って読みましたよ。当時、おいらは東横線の菊名に住んでいたのですが、戦前の横綱に武蔵山というのがいて、菊名から数駅の日吉の出身だったと知り、とても興味を持ちました。なんか、陸上をやっていて、種目は忘れちゃったんですが、何かの記録保持者で、それが名門出羽海部屋にスカウトされて、ぐんぐん強くなって、あっという間に大関にまでなったんだそうです。そして横綱まで行くのですが、昇進が決まった場所の最後の方で沖ツ海というバケモノみたいに強い力士に投げ飛ばされて、肘を骨折してしまったそうです。この怪我によって武蔵山はもう、往年の強さがなくなってしまうのです。さらに衝撃的なのは、武蔵山を壊しちゃった沖ツ海がフグの毒に当たって、すぐに死んじゃったんです。なんとも複雑な因縁が……引退後の武蔵山は理解者もなく、なんだか、出羽海部屋の親方衆ともそりが合わず、廃業して、最期はあんまりよくわからないそうです。彼を悲劇の横綱と言う人もいるらしい。


 まあ、せっかく今日はTV中継を観たのだから、そっちの話をしましょうね。なんてったって、本日のおいらは『笑点』を録画してまで、結びの一番まで観戦したんですからね。えっ、なんでそこまで『笑点』にこだわるかって? それは、唯一、神経が休まる番組だからだよ!


 さて、序盤はさあ、つまんねえだろうと思って観ていたんですけど、割と白熱しましたね。でも、おいらが期待する若手たち、阿炎、豊山、竜電はみんな負けちゃったよ。阿武咲だけは勝った。貴景勝は回しを新調していて、解説の北の富士さんが「この大事な場所で回しを変えるかなあ?」と不安を覗かせていましたが、圧勝。地力あるねえ。旧貴乃花部屋より千賀ノ浦部屋の方が彼にはいいんではないの? 親方の現役時代と体型がそっくりだよ。

 ここからが初場所早々に大笑い。三大関、みんな黒星。こいつらさあ、大関の実力持っていないんじゃないの? 誰一人として優勝争いに加わったりして、次期横綱候補とか言われないじゃないですか。いまの地位を守るのが精一杯。大関なら最低十勝はコンスタントに勝たなくてはいけないよ。昔はクンロクとかハナチャンとか言って一桁勝利なんて大恥だったんですよ。

 モンゴルの横綱は無難なスタート。でも二人とも年齢がいっちゃってるから、この先どうなるかはわからないですねえ。


 そして、ついに結びの一番。みんなが予想した通りの結果になりました。おいらが彼なら、今夜にでも引退表明するよ。さて、どうなりますか?


 あっ『オクニョ』が始まっちゃうから、さようなら。大相撲のことは、またいずれ書きたいなあ。

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