我が一族の力を見よ①
◆◆◆◆◆◆◆◆
疲れていたのだろう。
ヤチカちゃんはいつのまにか、ナナカさんの胸の中で安らかな眠りについていた。
幼いほっぺたをナナカさんの豊満な胸に当て、すぅすぅと寝息を立てている。
「あ、あのタオ……様」
「はい?」
「お、重くないですか? 私とヤチカ、二人も抱えて」
「いえ、全然ですよ。むしろ軽すぎて心配になるぐらいです」
僕らの現在地は妖蛇の森の上空。
来た時と同じように木から木へと飛び移りながら、
ヤチカちゃんが眠っているから、揺れないように速度を落としている。
ナナカさんは僕の腕の中。
横抱きに抱え、その上にヤチカちゃんを乗せている状態。
ヤチカちゃんがまだ小さいとはいえ、本当に軽すぎる。
里に着いたら毎日たくさん食べさせてあげよう。
結婚したってことは、僕も畑を貰えるはずだ。
僕とナナカさん、そしてヤチカちゃんの食い扶持をしのがなければならない。
頑張ろう。
「……お父様達に、あんまり会いたくありません」
ヤチカちゃんの頭を撫でながら、ナナカさんが小さく溢した。
「お母様は、亡くなる直前まで私に言ってました。お父様はきっと、いつか迎えに来てくれるって」
……ムツミ様は病死なされたと聞いた。
自身の身体がお辛いときですら、伯爵への愛は消えなかったのか。
辛い人生を、送っていたはずなのに。
僕は一度だけ頷いて、答えに困る。
なんて返せば、この
里の子供達以外で女の人と喋った経験など全くない僕にはさっぱりわからない。
「だから、私はどんなに辛くても……お母様のお言葉を信じて耐えれたんです。お父様は今お辛いだけだから、きっとお母様の仰られていたような方に戻ってくれるって」
父様も言っていた。
昔の伯爵はあんな人では無かったと。
一体何が、伯爵をああまで冷血な、そして傲慢な性格に変えてしまったのか。
ムツミ様の不義の疑いだけで、そこまでお人が変わるなどあり得るのだろうか。
「––––––でも、もう無理です。私にとってお父様は、もはや肉親の情すら湧かない……いえ、憎んですらいます。ヤチカを、私のたった一人の妹をこんな目に合わせた義姉様方や義母様達の行いを––––––ただ見ていただけなんて」
それでも、ナナカさんは信じすぎていた方だと思う。
聞いた話でしかないけれど、ムツミ様への態度や仕打ち。
そしてナナカさん達姉妹への行いは、非道どころの話ではない。
あんまり怒ったことのない僕ですら、言葉では言い表せられない怒りを覚えたほどだ。
「アスラオ様は––––––お父様を殺すのでしょうか」
「––––––はい。間違いなく」
それは確かだ。
父様は悪人に容赦などしない。
それは刀衆も一緒だ。
「私は––––––自分が嫌になります」
「それは––––––」
何故だ?
貴女が貴女を責める理由など、何一つない。
むしろ誇ってもいいほどに、その精神は気高い。
「今の私は、実の父や義理の家族の––––––死を望んでしまっている。なんて、卑しい……」
「そんなの!」
大声で否定する。
だって貴女は、それだけの仕打ちを受けたのだから!
肉親の情を捨てさせたのは、伯爵達の方だ!
ナナカさんが気を病む必要なんて、本来無いはずだ!
でも、僕はその先が言えない。
だってその感情は、ナナカさんだけの物だ。
出会ってまだ三日。
それだけしかナナカさんを知らない僕が、とやかく言えるものではない。
僕の着物を強く掴み、ナナカさんは憂いの顔で押し黙る。
その身体をより強く抱きながら、僕は跳び続ける。
もうすぐ村に着く。
伯爵の沙汰はその時つけられるだろう。
待っているのは、父様による断罪しかない。
「––––––あれ、は?」
僕らの披露宴が開かれるはずだった空き地に、沢山の馬がいる。
その傍に整列している一団。
大きな旗を立て、綺麗に等間隔で並ぶその人達を僕は知っている。
「アルベニアス……王国騎士団?」
王国に名高い最強騎士団が夕暮れの田舎町の郊外に、堂々と陣を構えていた。
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