第5話 パパの不倫相手

 パパは、車で30分くらいの所にあるホテルに毎週通っていた。ジムも完備してる綺麗なところだ。ママとランチに行った事がある。



 ママとパパは、何度か話し合ったらしいけど、「もう会わない」とパパは言わなかった。だから、仕方なく、ママはその不倫相手に直接会いに行った、と、ママは私に話した。


「主人がご迷惑をおかけしました。もう会わないでください」


 そう伝えると、その人は、甘えたように話したそうだ。


「私ね、大学でマドンナとか言われていたの。それで今の主人と学生結婚して。でも、とても厳しくて怖い人なの。でも、圭一さんは優しいから……」


 パパの事を優しいと言ったあと、少し顔を赤らめたとか。


「さすが元マドンナね……。多分年齢は私と変わらないけど、美人で色気のある人だったわ」


 そう言ったあとに、ママは大きなため息をついた。


「主人にバレたら大変だったの。その前に止めていただいて良かった。もう会いません」


 と、その元マドンナはママに感謝したんだとか。


 それから、彼らは、本当に会ってないと思う。

 パパはどこへも出かけなくなったから……。

 


 ママは私と二人きりになると、パパの不倫相手が言ったセリフを何ども繰り返し話す。特に、その人が顔を赤らめた場面は。


 壊れちゃったみたいに……。


 ママは、毎日心配そうに、鏡を見て、肌や身だしなみを気にするようにもなった。この田舎でそんなにする必要はないのに。


 ママの不安そうな姿を見る度に、私の胸が痛む。一人になると、私の頭にも何度もそのマドンナの話が回る。


 週末は特に……。


 小さな部屋で、独りベッドに座り、クッションを抱きしめて、一生懸命、心を頭を、「生きる」を、整理しようとする。


「パパは、不満足だったんだ。高校生の私だって、誰かに抱きしめられたい。信頼できる人に。でも……。パパは、その人を信頼していたんだろうか?」


 抱き締めているクッションに顎を乗せて想像する。


「信頼出来ない人と、体ごと関わるなんて怖いはずだ。もしかして……セックスレス? 欲求不満? パパ、ママには色気がないって言ってたし。でも……」


 どんなに考えてみても、わからなかった。


「私は、そのセックスで生まれたはずだ……」


 窓から見える空。遠いところを見て、もう1度考えてみる。


「そのマドンナも、パパも、寂しかったんだろうか……? 寂しいからセックスするの? ママの気持ちを無視して? 私の気持ちを無視して?」


 真意がわからない。


 それから、徐々に勉強が手につかなくなって、私は、進学クラスにはいられなくなった。進路を、専門学校へ変更した。

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