第4話 高校生の頃

 高校は、地元の進学校に入った。


 部活には入らず、学校の自習室で勉強する毎日。国公立の大学を目指すクラスにとどまれるように、淡々とただ勉強する日々だった。




 高校2年生の秋。


 パパは、土曜の午後に、必ず出かけるようになった。


「ちょっと、行ってくる」そう言って、新しいカメラを手に持って。


 機嫌が良くなり、車の掃除をし、クッションまで買って後部座席に置いていた。


 私が、心配してママに、


「パパ。大丈夫? おかしいんじゃない? 毎週だよ? 機嫌いいじゃん。何か隠してるんじゃない?」


 そう諭すように言っても、ママは「全然大丈夫! 平気よ!」っていう雰囲気を崩さない。


「趣味で写真を撮るようになったから出かけてるのよ」


 と言う。



(そんなはずないじゃない。人ってそんな単純じゃない。人ってすれ違うじゃない)



 私の不安は的中した。


 約2ヶ月後。学校から帰宅後、「ただいま」と言うために、キッチンに向かった。その晩は、家の中が静まりかえっていた。


 ダイニングテーブルを挟んで、ママとパパが見つめ合っていた。というか、パパがママを睨んでいて、ママは目を一生懸命そらさずに、「答えてちょーだい」という顔でパパを見ていた。


 テーブルの上には、パパのスマホ。

 夕食は見あたらない。


 睨み合っている二人に、「ただいま~」といつも通りのトーンで声を掛けてみる。


「今はダメ!」と、ママが一言だけ発した。


 キッチンのカゴに入っているプロテインゼリーをさっと取って2階に駆け上がった。



 部屋に入って、どさっとベッドに腰掛ける。


「あの二人はちゃんと、話し合えるだろうか……」


 ゼリーのパックのキャップを開け、口にくわえてギュッとパックを握り締める。


 飲み込めなかった。


 突然、涙が頬をつたうのを感じた。

 泣くなんていう予兆を全く感じずに。


 何故だか、食べなくちゃ、と、思う。


 パックをギュッと握りしてめて、なんとか押し込むように飲み込んでいく。胃がむかむかしてきた。

 

ベッドに横になる。涙が、目じりをつたって顔の真横を流れていく。1階からは、物音一つしない。


 (きっと、彼らは話し合えない。だって……。ちゃんと、最後まで話し合っている姿なんて見たことがない。全部曖昧だった。毎年6月を迎えると、私の存在がぼんやりするって思ってた。ママは金城さんと楽しそうに話して、パパは不機嫌になって寂しそうにして。私は置いてけぼり。6月11日は電話がかかってくる日で、9月11日は私の誕生日で。6と9は反対で……。パパは、真面目で面白くない。ママのタイプじゃないじゃん。ルパンとは違うじゃん……)


 不安があとからあとから、涙になって流れ落ちる。


「なんなんだよ……。ママもパパも他の人との方が幸せなの?」

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