第3話 中学生の頃

 中学生になり、部活や勉強、友達付き合いに忙しい毎日が始まった。


 女性らしい体になっていく中、大人になろうとするエネルギーと、大人になりたくないエネルギーがぶつかる毎日でもあった。


 なんだか自分を好きになれなかった。



 6月に入ると、また、ママは「面白い人だったのよ~」と金城さんの話をした。もう、私は今までのように素直に聞けない。


 友達の両親の離婚の話。

 ドラマの家族崩壊のストーリー。

 漫画や小説の複雑な恋愛模様。


 ママは、「全然大丈夫! 親友だから!」の雰囲気を崩さない。お構いなしに、金城さんは、親友だ、面白い人だ、と話す。


(そんなに単純じゃないよ……。人と人との間の何かは……)


 そう思っていたけれど、それでも私は、聞き流してあげたいと思った。ママが、私の話を小学生の時、ひたすら聞き流してくれていたように。


 きっと大事なことだから。ママにとっては……。





 中学3年生の6月11日。


 いつもの通り、ママは明るく大きな声で、電話で話していた。


「そうね~。来年は、あずさは高校生よ。早いわね~。だもの私だって年取るわ。目の下にはクマ、お腹は出るわ、シワもあるわ、大変!」


 ソファーに座っていたパパが舌打ちをした。


「相変わらず、色気ねーな」


 と、低い声でぼやいた。それから、2階に上がって行った。やっぱり、そのパパの背中を見ると、不確かな不安に襲われる。



 それから、3ヶ月後の私の誕生日、9月11日を過ぎた頃。


 お風呂上がり、ショートパンツを履いている私の足を、下からなめるようにパパは見た。ニヤリとしてから、薄手のトップスの下に夜用にしているブラの形、私の大きくなった胸を見ながら、「ママがあずさのスタイルは良いと言ってたぞ」と言った。


 パパの笑みは、あのお坊さんのとは違った。


 パパは男の人なんだ、と、思うようになった。


 パパはお酒をよく飲むようになって、口うるさく命令したり、突然怒鳴るようにもなった。ママは、「はいはい」って、適当にあしらっていたけれど……。


 それを見ながら、いつも私は、6月11日のパパの背中を思い出していた。

 毎年、「寂しい」って言ってたのかもしれないって……。


 パパは、独りの男の人だから。

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