第2話 6月11日の電話
おつかいを終えてキッチンに入り、すぐに食材をママに渡す。
「ただいま。はい!」
「おかえり。ありがとう!」
夕食作りの間は、スツールを取り出しママの傍に座るのが常だ。
「今日学校どうだった?」
ママは毎回、同じ質問をする。私は、学校の些細な事から好きな子の話まで沢山する。ママは、「そう」と言いながら、私の話を聞き流す。
このママと二人のおしゃべりの時間は好き。
ママは夕食におかずを必ず3品は作る。例えば、ハンバーグと、餃子と麻婆ナスとか。おかずの種類が少ないと、パパが「これだけ?」とか言うから。自家製のぬか漬けも同じ種類が続くと、「またか~」とパパはすぐ愚痴を言う。
ママはパパの意見を大事にする。いつも、そうだった。
でも、時々だけど、「節約しながらの料理は頭を使うわ」と、ママは疲れた顔で言っていた。
毎年6月に入ると、夕食を作りの時間に、ママは、「親友」のお話しをする。私はその時期だけは、話を聞く側になる。
ママには、金城さんという親友がいて、年に一度、電話で話す約束をしてる。その人は、大学の頃に知り合って、7年間付き合っていた人らしい。パパもその人の事は知っている。
「面白い人だったのよ~!」
小さい頃は、主に金城さんの言ったジョークを話していたけれど、その話は段々と、恋の話になっていった。
「僕は、結婚しない。一生独身でいようと思っている」
そう金城さんに告げられ、お付き合いをやめて親友になった。その後、パパと出会って、告白されたんだとか。それで、パパと結婚しようと決めたって。
今でも金城さんは、独身で神父をしている。
どこか、納得いかないような気がしたけれど、そういうものかもしれない、とも思った。ママがそれを話してくれたのは、私が小学6年生の時だった。
そして、6月11日。電話が鳴った。
パパがリビングにある電話を取って、ぶっきらぼうに「金城さん」と言って、ママに子機を渡した。ママは嬉しそうに子機を持って廊下に行く。
「もしもし、元気~! うん。元気! あずさはもう6年だもの! そうよ! 来年は中学生。うん。うん」
大体毎年、金城さんとママの話は20分くらい。
少女のようなママの声が廊下に響く。
パパは、毎年、無言で2階へ上がって行く。
6年生のその日。2階へ上がっていくパパの背中を見た時、私は、漠然と不安を感じた。だけど、それは、どこからか来て、通り過ぎて行ってしまうような風のような思いで、言葉にならなかった。
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