第2話
朝、目を覚まして携帯の画面を確認する。もう十時になっていた。しかし、今日は特に予定も無いし親も共働きのためこの時間になると家にいない。
そのままベッドの上で三十分程携帯をいじっていたが空腹を感じたのでリビングに降りてトーストを2枚食べた。
それから俺は携帯をいじったりテレビを見たりしていたがどれも頭には入ってこない。昨日の彼女の最期の言葉が頭の中を駆け巡っている気分だ。
一人でいると思考がマイナスな方にしか行かない。そう考えた俺は親友にメッセージを送信した。
『ちょっといいか?』
五秒と経たずに既読がついた。流石暇人である、既読が早い。
『二十四時間いつでもいいぜ』
コンビニかよというツッコミは置いておく。今はそれどころではない。
『俺彼女と別れたんだよ』
案の定既読はすぐについたが返信は少し遅かった。あいつなりに気を遣おうとしているんだろう。
『ドッキリとかじゃない?』
予想通りの答えが返ってきた。俺もそうであってほしいが残念ながら彼女はこんな最低なドッキリはしない。
『残念ながら本当だ』
また少しの間が空いた。遅いなと思いながらソファに仰向けに寝る。
そのまま携帯をつついていると突然携帯から振動と着信音が伝わってきた。
突然のことに俺は「うおっ!」と声を出して驚いて手から携帯がこぼれ落ちる。そして見事に俺の脳天に携帯の角がぶつかる。
「携帯は使いようによっては凶器にもなりそうだな…」
痛む額を手で抑えながらもう片方の手で震えている携帯を拾い上げる。親友からの電話だった。画面をスワイプして電話に応じる。
「もしもし?」
「なんで別れたんだ!?まさかお前、フったのか!?」
さっき一瞬でもこいつが気を遣ったと思った自分を殴ってやりたい。しかしそれがこいつのいいところでもあるんだがな。
「俺がフったわけあるか!何があったか説明すると」
俺は昨晩の彼女との電話のことを伝えた。こいつに隠し事をする気は一切無いので事細かにありのまま伝えた。
話していると自分の気持ちがスッと軽くなるのが分かる。
「お前さぁ…。さては馬鹿だろ?」
俺の説明を全て聞き終えた親友からまさか罵倒されるとは思わなかった俺は言い返す。
「なんで俺が罵られなければならないんだ。お前の方が馬鹿なんじゃないか?」
「いいや、お前の方が馬鹿だよ。ばーか、あーほ、天パー」
「おい、天パは関係ないだろ!なんで俺がそんなに言われなきゃなんないんだよ!」
先程までの馬鹿なやりとりをしていた時とは打って変わって静かで落ち着いている声で親友は言った。
「お前、なんで最後の選択を彼女にさせたんだ?」
俺の胸にチクリと棘が刺さった気分になった。
「そりゃお前、俺は彼女が好きだから。彼女が幸せになれる方を選んでくれた方がいいだろ」
俺がそう言うと親友は電話越しでもわかるほどの大きなため息をついた。
「だからお前を馬鹿って言うんだよ」
そう言われて俺は少しカッと体が熱くなるのを感じた。
「好きな奴の幸せを望むことの何が悪いって言うんだ!いいじゃないか、それで彼女が幸せなら、それでいいじゃないか…」
初めは声を荒げていたがその声も次第に小さくなっていった。自分でもよくわらない。ただ、ここで親友に怒りをぶつけるのはおかしいと、そう思った。
親友が絞り出すような声で言った。
「それじゃあ、お前はどうするんだよ…。お前はどうでもいいって言うのかよ」
そう言われて少し言葉に詰まった。次に言うべき言葉は喉元まで出ているのにそれを言うことができない。
「俺は…俺のことなんてどうでもいい」
「ふざけんなよ」
彼から聞いたことのない声が聞こえた。怒りがひしひしと伝わってくる。
「そんなものはただの偽善だ。お前はそうやって逃げようとしてるんだ。彼女から嫌われたくないから、逃げているだけなんだよお前は」
視界がぐらつく、心臓の鼓動が激しい。耳元でドクドクと鳴り響いてる。うるさい、うるさい…。
「うるさいっ!お前に何がわかる、別に逃げたっていいじゃないか!そりゃ嫌われたくないよ、嫌われるくらいならもう会いたくもない!」
感情に任せて言葉を一気にまくし立てる。自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
「別に逃げることが全て悪いとは言わないさ。時には逃げることが正しい時だってある。でも、ここで逃げちゃダメだろ。それに何がわかるって言われても俺にはお前のことなんてわからないさ。でもお前だって彼女の幸せがなにかなんてわからないだろう?お前も決めつけていたんだよ」
彼は落ちついていた。先程までの怒りに満ちた声ではなく、なだめるようなそんな声だった。
「でも彼女は俺と付き合えなくなったから別れたんだ。だったら俺と一緒にいたって幸せになんてなれる訳ないだろ…」
叱られた子供のようにごにょごにょと言い訳をする。自分で自分が嫌になる。こんな本心にも思っていないことを言うのは。
「だったらさ、お前が彼女を幸せにさせるように頑張ればいいじゃないか」
その言葉を聞いて俺の心を覆っていたなにかが剥がれ落ちたような気がした。
そんな俺の様子を察したのか親友は言葉を続けた。
「ほら、とっとと彼女に連絡しろよ。またフラれたら、何度でもケツ蹴っ飛ばしてやるからよ」
俺は本当にいい親友を持ったなと思いながら、「言われなくてもそのつもりだ」と言って通話を終了させる。
最後に彼が「頑張れよ」と言っていたが歯がゆくなって聞こえないフリをした。
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