第78話
そして現在、リナは五十代。歳の割には若く見える。十歳近くは若く見える。これは割と昔からそうだったが。 歳を取っても昔と殆ど同じ様な格好だ。その日もそう。ジーパンをはいて、上は長袖のT シャツ、その上に薄手のコートを着ている。そして関内にちょっとした用があり、出向いた。 そしてその帰りだ。偶然、マイキーズ ダイナーを見つけたのは。そして、父親の名前であるマイケルの愛称の一つだし、ダイナー(食堂)という言葉から興味が湧いた。スマホを出して検索した。出て来た物の中から 一つを選んだ。 それは、沢山の写真で店を紹介していた。 丁度何かのパーティーをして騒いている様な写真だ。誰かお客が撮った、その賑やかな店の様子を写した、数多い写真を何となく見ていた。 最初は分からなかった。だが何枚目かの写真を見た時にリナは驚いた。そこには、若い 女の子が写っていた。 その顔を見てリナは 驚いた。その時、吉永を思い出した。その子がソックリに見えたから。吉永をもっと若くして性別を変えた様な。そんな感じだった。 そしてその横には、歳を取った女が写っていた。けばけばしい派手な服装でニッコリと笑いながら立っている。千帆だった。髪型は当時とは違うが確かにそうだ。千帆の事は最初分からなかったが、よく見たらそうだ。大分老けているが同じ顔だ。 それで思った、これは吉永の娘だと。そして全てを思い出した!今まで忘れていた彼との事を。 でも確かにあの時、見舞に行った大沼は言っていた筈だ。大分痩せてしまい、もう長くはないだろうと。 なら、どういう事だ?手術して癌を取り除き、治った?でもリンパ節にも転移していたのでは? そうか、もしかしたら…。吉永は自分が末期だから自宅に戻ったのでは?退院は自由にできるのだから。そして、又見舞に行くと言っていた大沼に退院する事を告げたのでは? 大沼は千帆がお金を貰ってとても感謝しているから、一度連絡してやったらどうかとでも言ったのではないか。そうしたら直に礼が言えるからと。 それとも吉永の方から連絡を取ったのかもしれない。やはりもう一度会って謝ろうだとか、又はもしや? もしかしたら、大沼には自分は妻以外の女との間に子供を作ろうとして馬鹿だったし反省している等と言ったが、もしや本心では無かった?! 又は退院したら、やはりまだ子供が欲しい、自分が死んでも子供は生きるから。そう思ったのでは?自分の分身をこの世に残したかったから? だから退院して、痩せた体でもなんでも、 まだ元気な内に会いに行ったのかも。そして、一千万円も貰った千帆は子供を産む事を拒まなかった。もしかしたら自分も吉永の 子供を残したいと思ったのかもしれない。 もしかしたら自分の方から言ったかもしれない。そして、今度は三回目で成功したのかもしれない。そして写真の女の子が産まれた?! 彼女の年も、大体二十代前半から中間の様に見えた。なら年齢的にも合う。そして吉永は子供を残して死んだのかもしれない…。 リナはそのまま、残りの写真を見てみた。 あれ?これはもしかしたら大沼?七十代位の白髪の老人が座っていて、横にはさっきの、吉永に良く似た女の子がいる。老人は白髪で眼鏡をかけていた。以前の大沼はまだ髪はもっと黒かったが、もしかしたら今の自分と同じ年位か、もう少し若かったのかもしれない。 そして、かなり間が狭い真横のテーブルに 一人で前方を向いて座っている男がいた。例の女の子の直ぐ近くだ。横顔だからハッキリと顔全体は分からない。だが、もしかしら? 似ていた。それは六十代位の男だった。吉永の横顔に似ていた。だが黒髪で、顔色も悪くない…。違うのか? やはり吉永は死んだのでは?あの当時もし癌でステージ3で、リンパ節にも転移していたなら、もし生きたとしても数年位ではないのか?何かでそんな事を聞いた事がある。 確か癌の五年生存率はうんと確率が低いと。 リナは思った。吉永がもし生きていたら一寸会ってみたいと。そして、生きているなら、今どんな生活をしているのだろう。 でも、あの女の子は本当に良く似ている。目付きや太い眉…。それとも他人の空似か? でも千帆と並んだり一緒に写っている写真は、丸で親子の様な雰囲気に見える。 だが、どの写真も余り楽しそうに見えない。笑顔のもあるが、仕方無く笑っている様に見える。服装も地味だ。黒やグレーばかりだ。 だから、吉永の娘ならそれも分る。警察官で、固い職種のあの男の子供なら、水商売などしたくはないだろう。内心、馬鹿馬鹿しいのではないか?仕方ないからやっている様な感じにも見えるし。 そう、もし吉永が生きているなら、何故水商売をやらせていて平気なんだろう。自分を 罵倒した時も凄く馬鹿にしていたではないか。 なら、何故?幾ら千帆が手伝わせたくても普通ならさせないのでは?幾らもし毎日ではないとしても。幾ら経費削減だからと千帆が思っても。本人が余程したいのならまだしも、それだって普通ならやらせないだろう。吉永の様な男なら、警視正をしていた男が娘に水商売なんてやらせないだろう。 だからよく分からない。吉永はやはり死んでいるのでは? 千帆なら知っている筈だ。だが千帆も、何で寄りにもよって自分の父親の名前、その愛称なんて店名に選んだんだろう…。 これは偶然だな。誰にも言ってないから。吉永にも。大体もしそんな事が分かれば、千帆はそんな名前にしなかっただろう。大嫌いな女の父親の名前など、幾ら愛称でも付けなかっただろう。
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