第73話

そして大沼も満足したのか、そろそろ行こうとした。リナは思わず聞いた。もう既に萌と明美が話していた事だが、その時その事は 頭に無かった。自然と言葉が出た。    「じゃ、子供は?」           大沼が、エッと言う顔をしてリナの顔を  見た。                 「千帆ちゃん、子供できたの?」     大沼がリナを又嬉しそうに見た。     「ああ、あれ駄目だった。」       凄く上機嫌だ。             「千帆ちゃん、子供を二回流産してな。それでもう別れた。直ぐだったよー。も〜うアッと言う間だよ!あれからもう、物の二ヶ月位、そんなもんだったよ!」       結局、吉永と千帆との関係も短い物だった。雲母で萌達が話していた事と一致している。そしてその後、しばらくして吉永の癌が見つかった。そこの所は詳しくは聞かなかったが、調子が悪いから病院ヘ行ったか、健康 診断で見つかったとかそうした事だろう。 「そうなの?」             大沼はニコニコしている。        「うん、そう!千帆ちゃんな、どうやら妊娠出来ないとか流産する様な体質なんだな。 だから、子供なんてできなかったんだよ!」リナは思わず一瞬嬉しそうな顔になったが、聞いた。                「じゃ、癌の事は知らないの?」     「いいや、知ってる。言ったからな。そしたら凄く驚いて、涙をボロボロ流してな。  吉永さん、可哀想だって言って。」     そして続けた。             「それでな、吉永さん、千帆ちゃんに一千万円の小切手をあげたんだよ。」      「エーッ!何で?!」          リナは驚いた。             「だって自分のせいで、二回も流産したんだからな!だから、凄く悪いと思ってな。だから奥さんに全てを話して、小切手を作って 送ってもらったんだ。それを、手紙と一緒に送ってもらったんだよ。」        「でも、そんなに?」          「そりゃあ二回も流産したんだから、体が 変になったっておかしくないからな。もう 二度と子供を産めないだとかな。それにもし結婚したって、もう子供なんて恐くて産めないかもしれないしな。又流産したら大変だと思って。それ位の事をしたんだから、そんな金をそれ位貰ったってどうって事無いよ。」「手紙も入ってたの?」         「あぁ、それでな…。」          大沼が一息入れた。           「二回も流産させてしまったから償いとしてそのお金を受け取って欲しい、とあってな。それで店をやれば良いからと。いつか将来、自分の店が欲しいと言っていたからと。返したりはしないでほしい、黙って受け取ってくれれば嬉しい。そして礼もいらない、何も 言ってこなければ受け取ってくれたと理解 するからと。そして病院にも来ないでほしい。今の自分はもう以前の自分では無いから、見ればきっと驚くだろう。そして、自分もそんな姿を見られたくはないから。そんな風な事が書いてあったんだ。」      「そうなの。」             「ああ、俺にも言っていたからな。そんな、子供を他の女に産ませようだなんて、自分はそんなとんでも無い事を考えていた。今思えば、本当に馬鹿だったと思います、ってな。本当に悪い事をしてしまったって、そう言ってな。だから俺も、あぁそうですねー、って、そう言ったんだよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る