第72話

リナは大沼の顔を見た。大沼が話し始めた。「吉永さんがね、大変なの!癌になってね、入院したの。」              リナは驚いて大沼を見つめた。    「嘘?!」               「ううん、本当。癌になっちゃってね、  膀胱癌だって。」             リナは衝撃を受けていた。        「可哀想!」              思わず言った。             「うん、可哀想だよね?」       「…。」                「それで、この間お見舞いにも行って来たんだけどね。」              「エーッ!行ったの?」        「うん、行った。」           「何で?!あんな事があったのに?」   リナは正直、まさか見舞いにまでは行かないと思った。幾ら、吉永が癌だと聞いたとしても。                  「うん、あんな事あったね〜。」     大沼はニヤニヤと笑いながら言った。そして続けた。                「それがステージ3だって。ほら、結構体格良かっただろ?それが、もう痩せちゃってな!だからもう、警察も辞めたって言ってたよ。」                 「エーッ?!」             あんなに好きだった警察を辞めた。余程の事だろう。只、リナはその時、ステージ3と言うのが何の事か分からなかった。だからそれに付いては黙っていた。         大沼が続けた。             「もう、だから前よりも弱々しい感じたったな。目の前じゃ、気強く振る舞ってはいたけど。でも、あれはもう長く無いな!」   リナは大沼を見ていた。         「ステージ3だって、ステージ3!ステージ3だもん。リンパ節にも転移してるだとかも 言っていたな。」             何だか嫌に嬉しそうだ。とてもはしゃいで いる風に見えた。            「そうなの?」             「うん、ステージ3だって!」      「ふーん、そう。」            大沼はリナの顔を嬉しそうにジッと覗き込んだ。どうやらリナに吉報を知らせてやってると思っている様だ。リナが喜ぶと思っている様だ。そして自分も喜んでいる。何故なら、吉永は自分の付き合っている雲母のママを 侮辱した。皆の前で、クズだと言った。リナ同様に言われた。それはリナを雇い、その リナをかばって早く帰らせようとしたからだ。だから見舞いに行ったのも、面白いのと、どんな風になったのか様子を見たかったからだろう。              「だから、又近い内に行くんだけどね。」 「又行くの?」             「うん、行くよー!ねー、マリンちゃんも行く?行くんなら、場所教えるから。」   「エッ?」               「マリンちゃんも行けば?」       「いや、私はいいよ!もう関係ないし。」  本当にそう言う意味で言ったが、そればかりでは無い。吉永のそんな姿を見たくなかった。あんなに貫禄があって堂々としていたあの吉永の、ベッドに横たわっている痛々しい姿など見るのは偲びなかった。

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