第74話
「それ、本当は私だったんだ。」 リナの口からついそんな言葉が漏れた。 大沼が変な、不思議そうな顔をして見る。 「あれから吉永さん、私に手紙を送って来たの。あの時の事が謝ってあって、それでどうしても会いたいから来てくれって。それで 会ったら、又元に戻りたいって。もしそう したら千帆とは別れるって。」 大沼が黙って顔を見ている。少し驚いて いる。 「だから、それ本当は私だったの。あの子、私の代わりだったから。」 リナがあの時縒りを戻していたら、恐らく 今頃はもう妊娠していただろう。だからそうしたお金や手紙は自分が受け取っていた筈だ。リナはそうした意味で言った。 だが大沼は物凄く嫌な顔付きになって、怒っている。自分がその大金を手にできなかったから、悔しくて腹いせに言っていると思った様だ。 だがリナはそうなっただろう事を言っただけだ。勿論そんな大金は誰だって欲しい。それで色々と変わる筈だ。だから千帆が貰ったのを聞いた時は、正直驚きと共に腹が立ったのも事実だ。もしそれがもっと自分に優しくて 良い子だったら、分からないが。それだとしても、少しはあっただろう。多かれ少なかれ人間には皆やっかみはある。 だがそうした気持も直ぐに治まった。確かに千帆は流産を二度もしている。それだけ吉永に尽くしたのだ。吉永だってそんな状態なら、悪かったと思って反省や後悔をするだろう。それで、そうして形としてけじめを着けたかっかんじゃあ? 死んだ後にちゃんとに成仏したい、天国に 行きたい。だが、ちゃんとにしておかないとそれができない、と。そんな事も思ったんじゃあ? 大沼が凄い顔で自分を睨んでいるのでリナは直ぐにその事からそれた。 「でも吉永さん、凄く可哀想だね。」 確かにそうだから。 「そうだね〜。」 大沼も言った。 「だから千帆ちゃんも別れてから違う店で 働いてたんだけど、合わないからって言って又戻らしてくれって言って来てな。だから今、又雲母で働いてるんだ。」 「エーッ、働いてるの?!そんなに貰ったのに、又夜?」 「うん。最初はそんな金を送って来たんで 凄く驚いたけど、結局吉永さんの気持だから受け取るって事でな。だから今は大切に預金しておくって言って。将来店を出す為にしっかり預金しておきながら、もっと稼ぐって言ってな。最初は余り元気無かったけど、最近はやっと又元気になって一生懸命働いてるよ。」 「へぇ、そうなの。」 「あぁ。じゃあもうそろそろ行くよ。じゃあな、マリンちゃん。」 「うん。じゃあね、大沼さん。」 そして大沼と別れた。 大沼と別れて又富貴恵と二人きりになると、リナは言った。 「聞いたー、今の?吉永さん、癌だって?!」 富貴恵がゲラゲラと笑いだした。 何、どうしたの?何で笑ってるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます